Declare war
出席者から、次々と非難の声が上がった。
内閣危機管理監の星野が止めようとした時、本山が怒鳴り声を上げた。
「黙れ! あんた達は、ふんぞり返ってドブを浚わせろって指示を出すだけだろうが! こっちに下りてくる時には、絶対の命令になってんだよ。首まで浸かれ、君の責任で何とかしろってな! 今になって正義をふりかざすんじゃねえ!」
一瞬、室内が静まりかえった。外務省の関係者は、本山から目を逸らせている。
「日本、ロウド、京華、どこの利益を優先するのかっていう話なんだよ。俺達下っ端は、首どころか頭まで、どっぷり浸かってドブを浚ってきたんだ。日本の利益のためにな! だいたい……」
言い終えないうちに、本山のスマートフォンに電話が入った。スマートフォンは室内のコンピューター端末に接続しており、画面と音声が同期されている。
「犯人から着信!」
端末を操作していた技官が大声で告げた。出ろ!星野から指示が飛び、本山がディスプレイをタッチする。
「モトヤマさん、久しぶりに顔を見て話したいから、昔みたいに友達登録してね。そうしたらこの番号に電話して」
バルボアが指示したアプリに友達登録をした本山は、ビデオ通話をタップした。
「ハーイ、モトヤマさん。少し老けたみたいね」
バイオテロを企てているとはとても思えない、バルボアの優しく人懐っこい笑顔がスクリーンに映し出された。
「発車前に邪魔が入るといけないから、さっきは急いで用件だけ伝えたけれど、もう大丈夫。それに、顔を見せれば幽霊だとは思われないからね」
バルボアが悪戯っぽく笑った。
本山の中では、顔を見るまで本当に生きていたのか、確かに信じられない気持ちもあった。
「お前、なぜ生きて……」
三年前、バルボア達が京華関連施設の食材に変異型エボラウィルスを混入させた時は、手袋しか着用させていなかった。空気感染する変異型エボラウィルス、九五パーセントを超える死亡率。だからこそ本山は、仲介を通さずに直接バルボアを使ったのだ。
「私、エボラ出血熱に感染するのは二回目だったよ」
「二回目?」
「そう。十年前にも感染したことがあるよ。私、エボラウィルスに耐性があるみたい。治療には一年以上かかったけどね」
ごく稀に、エボラ出血熱からの生還者がいるのは知っていた。だが、まさか自分の使った工作員が抗体を獲得しているとは思わなかった。しかも遺伝子組み換えを行った、変異型ウィルスなのだ。
「ひどいよ、モトヤマさん。エボラウィルス、しかも空気感染する変異型なんて、一言も言ってくれなかった。まるでウィルス兵器じゃない。貰ったワクチンだって偽物でしょ?」
ウィルス兵器という言葉に、本山の背後がどよめいた。
「正直に言っても、手伝ってくれたか?」
「面白いね、モトヤマさん」
バルボアは大笑いをしたが、すぐに真顔に戻って言った。
「そのせいで、感染した妹と姪っ子が亡くなったよ」