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RETICULE  作者: 有端 燃
21/26

Chase

 逆月が片山と話している間に、御木は危機管理センターの星野に状況を説明していた。

「五分でいい、時間を稼げ!」

 御木の後ろから、逆月は怒鳴った。狙撃に失敗したとなれば、即座に強行突入(プランB)が選択されるはずだ。余計な死傷者が出る恐れがある。

 ノートパソコンで車両位置と進行方向を確認していた逆月は、片山に確認の無線を入れた。

「地図で見るとこの先にもう一本、並走して橋が架かっているが確かか?」

「あることはあるが、さっきの川の支流だから川幅は狭いし、遠くなるぞ」

「追いつけるか?」

「ぎりぎり、だがな」

 鈍行と思われている110系車両だが、最高速度は百キロを超える。今も百十キロ近いスピードで『風雅』を追っていた。

「片山さんの目から見て問題があれば教えてくれ」

「追い付くのが精一杯で、並走は無理だ。速度は落とせるかもしれないが、橋の上で追い越す形になるから、狙える時間は短いと思う」

 片山の感覚では、短いというのはかなり控え目な表現だった。

「距離は?」

「確か百メートルくらい遠くなるはずだ。大丈夫か?」

「そこは俺の領域だ。気にしなくていい。橋まで何分かかる?」

 片山は頭の中で素早く計算した。

「三分ちょっとだな」

「三十秒前になったら、無線で合図を頼む」

「分かった。もう一つだけ問題がある」

 片山の口調は、問題の深刻さを物語っていた。

「手短に頼む」

 残り時間は少ない。

「橋の先は右の急カーブで、設計速度は上限八十キロだ」

「つまり……」

「脱線する」

「直前に八十キロまで落としたら追いつけないか?」

「無理だ」

 片山は民間人。脱線の危険が分かっていて、それでもやってくれとは言えない。逆月は一瞬判断に迷った。

「あんた、何か勘違いしていないか? 運転は()()()()だ。気にしなくていい」

 言葉に詰まる逆月に、片山の覚悟が刺さった。

「しっかり掴まってな」


 片山との無線を終えると、御木に向き合った。

「抑えられたか?」

「五分だけ待つそうだ。それ以降は、我々の手を離れる」

「上出来だ。すぐ先にもう一本橋がある。そこで狙うから、一分以内に正確な距離と気象データを出してくれ」

 絶句した御木は逆月からパソコンをふんだくり、列車位置と地図、気象データと鉄橋付近の画像を表示させた。

「これだな。距離は千二百五十五メートル。気温は五.九度、湿度三十四パーセント。風は北東から北北東。風速六、八メートル」

 三十秒余りでデータを出した。

「了解」

 逆月は、狙撃ライフルを再びレストした。

「今度は川幅が狭いぞ。チャンスは欄干が切れてから三秒弱だ。本当にやれるのか?」

 御木は半信半疑で逆月に確認する。やるしか無いとは言え、データを見た限りでは正気の沙汰とは思えなかった。

「さっきも欄干越しに照準出来ていたから、大丈夫だ」

 平然と答えた逆月は、スコープを調整する。この距離と風だと、先ほどより着弾は約九十㎝下がり、左方向にも二十五㎝近く逸れる計算だ。

「脱線がどうとか言っていなかったか?」

パソコンとスポッティングスコープを交互に確認しながら、御木は聞いた。嫌な予感がする。

「橋を越えた先は急な右カーブで、今のスピードだと曲がりきれずに脱線するそうだ」

 他人事のような逆月。

「脱線!? それで、片山さんは何と?」

「運転は自分の領域だから、黙って掴まってろとさ」

 列車を停める気は無いということだ。

「凄い男だな」

 御木は感嘆の声を上げた。

「民間人が腹を括って見せたんだ、俺たちも意地を見せないとな。無様な姿は見せられないぜ」

 逆月の言葉に御木は頷いた。

「よし、今度こそ終わりにしよう」

 御木は時計をちらりと確認する。狙撃まで、一分を切っていた。

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