Determination
JR東日本高牧支社ビルで、逆月と御木はヘリを降り立った。近くの陸上自衛隊古町駐屯地に特殊作戦群一個小隊を待機させている山本とは、ここから別行動だ。逐次情報の共有ができるよう、ヘリの中で最後のブリーフィングを済ませていた。
待ち受けていたパトカーは、荷物を抱えた二人を後席に乗せると、赤色灯を点灯しサイレンを鳴動させた。白バイ二台が先導に付く。
「群馬県警の木村です。ここからでしたら駅まで三分、すぐそこですよ」
のんびりとした口調とは正反対に、脱兎のごとくパトカーを発進させた。左手でマイクを握り、ひっきりなしに『緊急車両が通ります!』と怒鳴りながら、右手でステアリングを器用に操っている。右足はアクセルに専念し、ブレーキは左足を使っていた。先導する白バイに追突しそうなスピードだが、加速・減速がスムーズで無駄な挙動が無いせいか、不思議と車内は安定している。
木村が運転するパトカーは一般車両の間をすり抜けて、駅入り口の交差点を軽くドリフトして左折。切り返すように右に回り込むと、左にブレイクしたがるテールをカウンターステアと微妙なアクセルワークで抑えて、ロータリーを半周回り高牧駅西口にぴたりと着けた。
「階段を登って右に行くと、奥が三番線です。ご武運を!」
敬礼する木村に答礼し、逆月と御木は階段を駆け上がる。
出発準備を済ませていた片山は警察官に案内された乗客と思われる二人を確認すると、車両のドアを開けた。
乗り込んだのは、スーツと、フード付きのフィールドジャケットの二人。フードで顔を覆った方の男を見て、片山の背筋に寒気が走った。
決して剣呑な雰囲気を漂わせている訳ではない。むしろ安穏とも見えるその男から放たれるのは、無言の威圧感。
片山には、海軍航空隊で終戦を迎えた伯父がいた。物静かで声を荒げる事も無かった伯父だったが、何故か近寄りがたかった記憶がある。
同じ基地から出撃しながら、生き延びた自分と帰らなかった戦友。敵とはいえ、撃墜したパイロット。生き延びてしまった事に対する罪悪感をずっと抱えていたらしい。父からそう聞いたのは、伯父の葬儀の夜だった。
この男は、伯父と同じだった。間違いなく、命の遣り取りをくぐり抜けている。そして自分が生き延びることに関して執着していない。
有澤本部長が言ったことは誇張でも何でもなく、無事には済みそうもない予感がした。
(まあいい。運よく生き残れれば孫の成長を楽しむ。万が一死んでしまったらそれまでのこと。妻と逢って土産話に花を咲かせるだけだ)
片山は腹を括った。




