表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RETICULE  作者: 有端 燃
13/26

Transmigration

 東京拘置所。

 死刑囚が収監される独居房、いわゆる単独室が並ぶ廊下に、数人の刑務官の足音が響いた。死刑が執行されるのは午前中、この時間に複数の刑務官が来るということは、誰かの執行を意味する。

 足音の主は三人。覚悟が決まっている奴か。靴音を聞いた逆月は、冷静に分析していた。

 収監されて十年、何人かの出房を見てきたが、大人しい死刑囚の場合は概ね三人、暴れる死刑囚の場合は五人の刑務官が連行している。

 隣の単独室からは、泣きながら震える声で一心不乱に般若心経を読む声が漏れてきた。

 ここにいる連中の殆どは、複数人を殺しているか誘拐殺人、強盗殺人など凶悪犯のはずだ。自分の番が来たからといって、今さら泣いて悔やんでも仕方ないだろう。

 感情を殺した逆月の単独室の前で、足音がピタリと止まった。

 覚悟はできている。正座で刑務官を出迎えた。

「九十三番、出房」

 担当刑務官の声に、立ち上がると頭を下げる。

「長いこと世話になったな」

 手錠を填められると、警護の刑務官二人に両脇を抱えられ、担当刑務官を先頭に廊下を進む。ちっぽけなプライドは、怯えの無い足取りの己に満足していた。

 エレベーターに乗り込むと、刑務官が[RF]のボタンを押す。

「刑場じゃないのか?」

 東京拘置所の刑場は地下のはずだ。

「移送指示が出ている」

「今さら、どこに移送する?」

「私には教える権限が無い」

 まあいい、行けば分かるだろう。どこから行ってもあの世はあの世。三途の川の渡し賃が変わるわけではない。逆月は黙って従った。


 エレベーターを下りると、刑務官に連れられて屋上に出る。真冬の澄んだ空気と青空に、思わず天を仰ぎ大きく息を吸った。

 逆月を待ち受けていたのは、三色迷彩の多目的ヘリコプター、UH60ブラックホーク。

 陸上自衛隊?逆月は本能的にきな臭さを嗅ぎ取った。エンジンをかけたまま駐機した機体の前には、スーツ姿の男が二人に市街地用戦闘服を着用した一人。

 刑務官に促されるまま、ヘリコプターに向かって歩いた。そのわずかな間に、週三日許されていた、金網で覆われた二十㎡の運動場では得られない日差しと空気を貪る。

 ただでは死ねそうにないな、強張った御木と山本の顔を見て、逆月は確信した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ