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RETICULE  作者: 有端 燃
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Political Decision

「責任を取るのはお前たちじゃなく、俺の仕事だ」

 坂東の宣言に、会議室内は静まりかえった。

「三年前の事は絶対に公表できない。日本という国と人質八十人、どちらを取るかは考えるまでも無い。表沙汰にするくらいなら、人質を犠牲にする方を選ぶ。政治判断っていうのは、そういうことだ。違うか?」

 出席者を見据える坂東に、誰も答えられない。

「勘違いするなよ。人質を死なせても構わないと言っている訳じゃない。どちらかを取らなきゃならない時に、それを判断して、全ての責任を取るのが俺の仕事だ」

 歯に衣着せぬ物言い、党内力学に配慮しない行動力。出身地が同じことから、昭和に一時代を築いた総理大臣になぞらえて、坂東は【コンピューター無しブルドーザー】と揶揄されていた。

「しかし総理! 自衛隊に任せるとなれば、これは治安出動になります。法的に考えても、我々警察が解決に当たるべき事案でしょう!」

 御木が声の主に視線を飛ばすと、先ほど責任云々をぬかしていたのと同じ人物、警察庁長官だった。

 確かに今まで自衛隊の治安出動が決定されたことは一度もない。浅間山荘事件の時も、オウム真理教の時も警察が対応している。治安出動には国会の承認が必要で、加えて世論やマスコミ、近隣諸国の反発などの高いハードルがあるからだ。

「自衛隊が()()()、しかも死刑囚を使ったことが公になれば、責任問題どころか国家の威信にも関わります」

 たたみかける警察庁長官に、ため息をついた板東が冷たく告げた。

「ことが公になれば、その時点で日本の威信は地に堕ちるんだよ。この後に及んで責任だの威信だの言っている()()()は必要ない。今すぐ出て行け」

「いいでしょう。この先警察は無関係ですから、何があっても知りませんよ」

 顔を真っ赤にした警察庁長官が捨て台詞を吐いて、SAT指揮官とともに出て行った。


「自分で腹を切る覚悟もないくせに、口だけは一丁前だったな。ところで陸幕のお二人さん。俺は何をすればいい?」

 板東に問われ、小宮に促された御木が立ち上がる。

「逆月の移送を許可して下さい。名目は何でもかまいませんが、東京拘置所で刑の執行を行うのにあたり、保安上の問題が発生する恐れがあるなどの理由で良いと思います。逆月の身柄は小菅で合流した警察と同行して引き取り、バルボア狙撃まで私が責任を持って見届けます。書類上では大阪拘置所あたりに移送を完了させ、死刑執行命令書へ署名、執行済みとして処理をお願いします。同時に、逆月のデータを全て抹消して下さい」

「なるほど。無事に狙撃できれば、名の無い男として釈放。万が一の時でも、正体不明の犯罪者で、政府とは無関係という訳だな」

 坂東がうなずいて、法務大臣に大至急と指示をする。

「お前、逆月と心中する気か?」

 御木の覚悟を見てとった坂東が言った。

「彼は空挺レンジャー課程の同期です。バディを務めるのは、私しかいません」

 逆月の名前を出した時から、御木は腹を括っていた。

 やはりな。御木の面構えを見て、坂東は納得する。防大を主席で卒業しながら現場に拘り、通常のレンジャーでは飽き足らず空挺レンジャー課程から冬期レンジャー課程まで終了した変人がいると聞いた事があった。今はスーツ組だが、骨の髄まで軍人だ。

「バックアップは、特殊作戦群とNBCに頼みたい。特殊作戦群には、移動のヘリと足の付かない狙撃銃、試射場所の手配もお願いします」

御木に答えるように、特殊作戦群司令、山本が立ち上がる。

「十分以内にヘリを用意します。御木を乗せ、小菅で逆月を回収後、習志野駐屯地に直行。用意した狙撃銃の試射をしたら、指定場所までヘリで送り届けます」

 山本の説明を受けた坂東は、視線を国土交通大臣に向けた。

「『風雅』が走る路線、併走する路線は全て運休、通過駅は入場制限だ。JRには迷惑をかける事になるが、すぐに対応してもらえるか?」

 頷いた国土交通大臣が、後ろに座る男たちと、二、三言交わすと、その中の一人を紹介した。

「JR東日本から来ていただいている、有澤(ありさわ)事業本部長です」

紹介された男が立ち上がる。

「JR東日本鉄道事業本部の有澤です。関連路線を運行中の列車を順次運休し、入場制限を完了するには、最低でも三時間はいただきたい。その間に、併走する五高線を走る気動車と運転手を、群馬県の高牧駅に用意します」

「感謝します。振り替え輸送や運休に伴う費用は機密費からお支払いしますし、今後の新路線開通や用地買収など、最大限の支援を約束します。くれぐれも保秘を」

 坂東が深々と頭を下げる。

「承知しました。高牧駅近くにある弊社の高牧支社屋上には、ヘリポートがあります。駅まで車で五分ですから、どうぞ使って下さい」

すぐに手配するからと、有澤は会議室を後にした。


法務大臣から、移送の手続きが済んだと報告を受けた坂東は、御木に歩み寄った。

がっちりと手を握る。

「頼む」

 返事代わりの敬礼を返すと、山本と共にヘリポートに走った。

「やはりお前は、スーツより戦闘服が向いているよ」

嬉しそうに笑う山本、苦笑いの御木。

 猶予は五時間。

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