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RETICULE  作者: 有端 燃
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Terrorist Hunter

「いいか、良く聞け。猶予はあと五時間五十分になった。時間が無い。これからは、出来る出来ないは、物理的、技術的観点のみで判断する。調整だの法律上の問題だのは、一切無視しろ」

 内閣危機管理監、星野の声が響く。

「一点だけ確認だ。さっきのピンク色の粉末、あれは本物のウィルスだと思うか?」

 全員の目が本山に向いた。 

「おそらく。元々、国立感染症センターでワクチン開発用に作られたウィルスを、防疫研究所で取り扱い易いよう粉末状に改良した物です。粉末化できるほかのウィルスから、長期間の乾燥に耐える遺伝情報を組み込む過程で、空気感染と非常に高い致死率に変異しました。ピンク色は、識別用に着色されたものです」

 これは本物の生物兵器じゃないか!どこかで非難の声が聞こえた。

「私は専門家ではないので詳しいことはわかりませんが、単体では増殖はしません。しかし傷口や粘膜に取り付くと、コピーを作るように増殖を始めます。もちろん浮遊しているウイルスを吸い込んでも、目や鼻孔、口内に入っても同様です。列車内など密閉度の高い室内の場合、ガスなどを使って噴霧されれば感染率は百パーセントに近いでしょう。感染した場合の死亡率は先ほど説明したとおりです」

 本山がかみ砕いて説明した。

 星野も生物兵器禁止条約について口に出しそうだったが、どうやら時間を優先するようだ。

「よし、ウイルスは本物として対処する。バルボアがどうやって感染させるかは不明だが、NBCと感染症予防センターは隔離と治療の準備をしておけ」

 何人かが、急ぎ足で会議室を出て行った。

「犯人の要求は飲めない。日本という国が崩壊しかねないからな。東京に着く前に、強行策でケリをつける。情報は保秘を徹底、絶対外部に漏らすな」

 日本という国と、失敗した時にウィルス感染で死ぬ人数、どちらが重いか検討する余地は一ミリも無い。人の命は地球より重い、などというのは戯れ言だ。


「犯人の乗った列車と併走する路線が無いか、すぐに調べろ。路線間の距離は、八百メートル以上千五百メートル以下だ」

 それまで他人事のように聞いていた幕僚長の小宮が、御木に小声で指示した。気づかれない程度に離れていて、狙撃可能な距離だろう。頷いた御木は、ノートパソコンとスマートフォンで調べ始めた。


「強行策を取れそうなのは、特殊作戦群とSATだ。意見を出せ」

 星野の指名に、SATが手を挙げた。

「単独犯による犯行です。ヘリで近づいて狙撃したらどうでしょう」

「駄目だ。狙撃可能な距離に近づいたら、バルボアに気付かれる」

 星野が即座に却下した。

「では、列車を停めて強行突入、音響閃光手榴弾(フラッシュバン)で動きを止めて制圧は?」

「列車を停めた瞬間にウイルスを使われる恐れがある。最終手段だな。特殊作戦群はどうだ?」

「列車と百メートルくらいの距離で、国道が併走している区間がいくつかあります。併走させた車両から狙撃します」

 特殊作戦群の山本。

「道路上からだと、一般人に見られる恐れがある。通行止めが必要だが、その距離だとバルボアに気づかれるだろう」

 僅かの間、星野が考えてから否定した。

「他には無いか?」

 御木は手を挙げた。

「陸幕の御木です。群馬県内に、列車と併走する別路線があります。路線間には何か所か川が流れていて、そこに民家等はありません。JRにお願いして列車を走らせ、列車内から狙撃します。距離は約千二百メートル、今のスピードで走ると併走時間は十五秒弱。ただし鉄橋上からの狙撃のため欄干が邪魔で、実際に狙える時間は五秒程度と思われます」

 御木の言葉に、会議室がどよめいた。

「不可能だ。そんな狙撃が出来るスナイパーはいない」

 特殊作戦群の山本が目を剥いて言った。

「御木、そこまで言うなら当てがあるのだろうな?」

 星野の、いや、おそらくは全員の問いだろう。

 御木は手元のパソコンを操作し、スクリーンに一人の男を映し出した。

逆月柊斗(さかづきしゅうと)。特殊作戦群に所属していた元陸上自衛隊員です。私の知る限り、東洋ナンバーワンのスナイパーで、()()経験もあります」

 陸上自衛隊唯一の特殊部隊であり、空挺レンジャーをはじめ全国から屈強な隊員が集まる特殊作戦群のスナイパーとは思えない、端正で優雅な顔立ち。

 スナイパーや戦闘機(ファイター)パイロットに多く見られる、深く澄んだ瞳が出席者の覚悟を求めるように見据えていた。


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