Agitation
二〇二三年九月。
【テイラー通信】アフリカ南西部に位置するロウド共和国の鉱山地域で発生したエボラ出血熱は、一ヶ月が過ぎた現在も感染域を広げ続け、週明けの月曜日には首都ボンダでも感染が確認された。
WHOは、各国に渡航の自粛を呼びかけると共に医療支援を要請しているが、感染症治療が可能な病院数や医師、医薬品類が絶対的に足りず、死亡者は一万人を突破した模様だ。
国境なき医師団の関係者によると、医師や看護師にも感染者が出るなど治療現場は混乱状態にあり、予断を許さない状況にある。
発生源と共にウィルスの遺伝子調査に当たっていたWHO感染症対策室によると、過去に例を見ない速度と死亡率で感染を広げているエボラ出血熱は、突然変異の遺伝子を持ち、血液や体液、排泄物だけでなく、空気感染の可能性があると発表された。
発表が事実であれば、今後爆発的な感染が予想され、ロウドに留まらずアフリカ全土に広がる恐れがある。
ロウドでは世界各国の支援のもと治療に当たっているが、発生から二ヶ月が過ぎた現在、急増する罹患者と共に死亡者数も増え続け、致死率は九十五%を超えている。
二〇二三年十一月。
【テイラー通信】変異型エボラ出血熱の感染拡大に歯止めがかからないロウド共和国では、発生の原因が鉱山の開発を支援している京華人民共和国の工場にあるとのデマが流され、デモ隊に現地の京華人や工場が襲撃されるなど、新たな火種に悩まされている。
襲撃された京華人によると、宗教的理由でロウド人が食べない豚肉が感染源との噂がSNSを中心に流されているという。
以前から燻っていた鉱山開発を巡る京華人民共和国への不満が、エボラ出血熱をきっかけに爆発した形だ。
ロウド政府は国民の不満がいずれ政権に向かうのではとの懸念から、デモの鎮圧に努めているが、政権と対立している軍部が反発、対立を深めており、エボラ出血熱と軍部の両方を抑え込もうと躍起になっている。
二〇二三年十二月。
【テイラー通信】エボラ出血熱が蔓延しているロウド共和国で同時多発的に軍事クーデターが発生、主要都市と大統領府を掌握した軍部により政権交代が発表された。
旧政権は京華人民共和国の資金を背景に政権運営をしていたが、主力産業である鉱山開発から京華人民共和国が撤退したことが引き金になったものと思われる。
政権を取り戻した軍部は、日本の製薬会社と協力して変異型エボラ出血熱の治療薬とワクチン開発に成功、認証されたばかりの新薬を大量に投入して、感染の終息を急いでいる。
二〇二四年十一月。
【テイラー通信】変異型エボラ出血熱の大流行が終息したアフリカ南西部のロウド共和国で、外国人を狙った強盗殺人事件が連続して起こっている。
被害者の多くが京華人民共和国と日本の政府関係者や商社員であり、全員に激しい暴行の形跡が確認された。金品は奪われているものの、暴行の激しさから現地の警察当局は、強盗目的以外に怨恨の可能性も視野に入れて捜査を始めた。
日本の外務省は、ロウド在住の日本人に対し戸締まりを確実に実施すること、不要不急の外出を避けることなどを呼びかけると共に、渡航注意情報を発表している。