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血統編

米米 


このストーリーはインターネットに流布している話を参考にしたフィクションである。各々の内容が事実であるとは限らない。


米米



近藤かずみさんは、ひと目見たときから、柴田健介にとって今までに見たことも聞いたこともないような存在だった。こんな人がこの世にいらっしゃるのかと健介には思えた。投資銀行の(トレーダーやセールスマンが受発注の取引決済を主とする部署である)Operation部に配属された近藤さんは、200人ほどいる大きな組織で、Operation内部の総務とも言うべき職でこの部署の潤滑油となる仕事をすることになった。部下が3人いる健介とも自然と仕事をする関係となった。


バブル期当時の外資系投資銀行は、イケイケドンドンといった雰囲気で、六本木に歩いていけるインテリジェントビルに勤務している女性たちにとっては、アフターファイブ後の立地に最適な場所ということで人気があることが推測できた。実際人事部が面接した女性で、応募の目的は六本木に近いからとの賜った猛者がいたこともあったと聞いている。お給料も同世代としてはかなりいいほうだし、うまくいけば、債権・株式トレーダーと結婚できるかもしれない。そうなればお金持ちのセレブになれる可能性がある。女性にとっての究極の目標は、みんなそんなところなんだろうなと健介は思っていた。若い女性の憧れの職場なのかもしれない。一流大学卒、英語が流暢なのは当たり前、容姿端麗の女性が揃っている職場だった。他部署からは、ここはお花畑のようですねと言われたこともあった。(バブル時期だったこともあり、)将来、プール付き一戸建てに住みたいとか平気で耳に入ってくる職場だった。


健介は、体のガッチリした身長180cmの男で、特に顔は母親にじゃがいも顔だよねと言われるくらいの容姿だった。一言で言うなら、ごっつい男と表現される。この職場では、自分は顔も良くないしサラリーも世間的には良くともここではまあまあといった具合で、健介はちっとも誰からも振り向いてくれない異邦人だった。


びっくりする美人もいるかと思えば、よく見れば美人っぽいが厚化粧の女性もいる。しかし、近藤さんだけは、まず話し方が我々一般人と違った。やわらかく控えめでも奥底にしっかりしたものがあると感じられた。品があった。謙虚な姿勢も自然体で堂に入っていた。しっかりとした家庭で大切に育てられたのだろうと推測できた。こんなガサツな会社によく入ったものだと思った。女性の憧れの会社かもしれないが、所詮外資系投資銀行である。お金を切ったり張ったりする会社に品などあるわけがない。


特に詮索していたわけでもないが、自然と近藤さんの噂が、健介の耳にも入ってきた。近藤さんは、あの四菱商事の社長の娘さんだったそうである。そういえば、数年前に大抜擢された社長で、道半ばにして過労でお亡くなりになった社長だった。雑誌や新聞でもあの大会社の社長が急死したので、マスコミで何回か取り上げられていた。そして、旦那さんは財務省のキャリア官僚だったが、離婚したとのことだった。

健介は、なるほどとただただ納得してしまった。

近藤さんが社長令嬢だったこと、財務省の官僚と結婚していたこと。私なんかとは別世界に生きていた人だと容姿から認識できたが、経歴で確認できた。軽井沢のテニスコートで汗を流す姿がさまになっている。見た目と話し方と経歴は一致しているものなのだ。30歳にもなれば、その人の生きざまが容姿に現れてくるものである。そして財務省の官僚と見合い結婚で結ばれたが、今は独身となった。政略結婚だったのかなあ。容姿と話し方から推測するに、まさにイメージとドンピシャの人生だと納得していた。




「柴田さん。今よろしいですか?」

「はい。もちろんです。」

「隣の部署に2名はいってくるので、レイアウト変更したいので。こんな感じにしてもらえませんか?」

「はい。承知しました。いつレイアウト変更ですか?」

「2週間後の週末でいいですか?荷物は、柴田さんと柴田さんのスタッフさんたちが、あちらにおいてある段ボール箱に入れてデスクの上に置いてください。赤ラベルにお名前を書くのを忘れないでくださいね。業者さんに移動していただきますので。」

なんとも、優雅な話し方とはにかんだ笑顔に、健介は見惚れた。




かずみは、津田塾大学在学中にお付き合いしていた男性と結婚するつもりだった。相手も自分も両思いだし、結婚すると口約束した仲ではなかったが、かずみには、2人には通じるものがあると感じていた。父親と同じライバル会社ではあるものの大手の商事会社に勤めていることがちょっとひっかかっていたが、父も度量の狭い人ではない。学歴も背丈も容姿もなにも問題ないだろう。スペイン語も堪能だし、性格も前向きでしっかりしている人だ。(どうしても所属会社が気にくわないのなら、彼氏は転職してくれるだろう。)両親も賛成してくれるに違いないとかずみは高をくくっていた。


新卒で都市銀行に勤めはじめて、半年ほど経った時、母親の誕生日に、フレンチのカンテサンスで、お祝いの食事をしている時、お見合いをして欲しいと言われて、口に含んでいたワインを吹き出しそうになった。彼を両親にいつ紹介しようかと考えていたところだったからだ。母には彼のことを話していたので、こんな展開になったことに違和感があった。父に反対してくれなかったの?恋愛と結婚は別物ということなの?と。


かずみは、「付き合っている人がいるのだけど。 まだ結婚の約束はしてないけど。 フィアンセといえないけど。お見合いしなければいけないの? とりあえず、しとけってことなの?」

「いい感じの人だから、とりあえず会ってみれば。かずみが嫌なら嫌でいいじゃない。」

今まで、一人娘を大切に、そして意思を尊重して育ててくれた両親からは、意外な会話の展開だった。




お見合いの相手は、財務省のキャリア官僚だった。あっと驚くほどの男前ではある。というよりも、頭のいい人というか偏差値の高い人というのは、こういう顔をしているのかとかずみには思われた。かずみは自己評価としては、決して美人ではないし、スタイル抜群でもない。名家の家柄でもない。大企業の社長の娘ということだけが取り柄なのだろう。東京大学出の出世街道まっしぐらの男性からみれば、どうってことのない女に見えるだろうから、この縁談は先方から断ってくるだろう。かずみは、女としては、振り向かれないので、悔しいところもあるが、それはしょうがないこと。まあ、大切なひとと結ばれるのだから、よしとしないとひとり納得していた。


「お見合い相手はすごくいい男だったわよ。履歴書ではあなたよりずっと完璧よ。ロボットのように仕事ができるのだろうなという感じ。冷泉家とか近衛家とかからお嬢さんをもらってくださいという感じ。それとも政治家の一人娘とか。わたしには、あなたみたいな人間らしい人があっている。」と彼氏には報告した。かずみとしては、彼氏に対しての最大の褒め言葉のつもりだった。

「心配していたけど、かずみさんがその人に向かわなくてよかったよ。」

「出張で中南米のエルサルバドルに行くことになってね。2週間位かずみさんの顔みられなくなってしまう。」

「どうしても私の顔見たくなったら、ZOOMで連絡してくださいね」とショートケーキを頬張りながら、グレープフルーツジュースを飲んで言った。

かずみが彼氏と話せたのは、これが最後となってしまった。




彼氏は、山道を走っているところ、トラックに後ろから追突された。運悪く、ガソリンタンクに引火して、大爆発して自動車もろとも焼けてしまった。死体は丸焦げで、誰の死体かもわからない状態だった。

かずみは、あまりに突然なことで、ショックを受けているはずなのに、勤めも休むことなく通常生活を続けられていたことが自分でも不思議だった。しかし、口数は少なくなって、ボーっとしていることが増えた。

「ごめんね。かすみちゃん!」と言って彼が突然あらわれるのではないかとかずみは考えていた。






半年くらい前のお見合いのことは、なんの音沙汰もかずみにはなかったので、これ以上ショックを与えないために先方からのお断りの連絡を両親は黙っているのだろう。お見合いどうだったの?尋ねることもなく、勝手にそう思っていた。

もう済んだことと記憶の片隅にあるだけであった。

先方から、縁談を進めたいとの話がかずみの耳に入った。まだ終わっていないことにかずみは驚いた。




財務省の金子聡太は、どんな少年時代、青年時代を送ってきたのだろうとかずみは想像をたくましくしていた。受験も苦労することなく、恋愛で傷を受けることなく、順調に大人になったのだろう。結婚することになったとしても、処女検査されて、失格です。はい!サヨナラですと言われて終わるのかなとおぼろげに考えて、クスッとした。


金子聡太は、日本料理の個室で、デザートの黒蜜葛切くずきりを食べながら、話を切り出した。(シャレの効いた男でもあるなあとかずみはほくそえんでしまった。)

「 私達は、お見合いの前に、結婚を考えている相手がいました。私のガールフレンドは日航機の事故で亡くなりました。近藤さんのお相手は、自動車事故で失ってしまったとお聞きしました。私達は、当初うまくいくはずのない縁談だったのです。今は、もしかしたら、うまくいくのかもしれない。これはなにかの縁なのかもしれないと考えるようになったのです。私は、近藤さんの話し方とはにかむ笑顔が大好きです。私と一緒にいるのがいやだと考えないのであれば、おつきあいしていただけませんか?食事をしたり、お酒を飲んだりしながら。距離が詰まることがあれば、結婚しましょう。」




かずみは、なんだかよく分けのわからない論法であったが、口下手でもなく、TVでは、見ることがないほどのイケメン男に、結婚という言葉を口に出されて、悪い気がしなかった。


大企業の社長令嬢と財務省のエリート官僚の結婚式が、ホテルオークラで、盛大に開催された。

父親が結婚祝いに購入してくれた港区のマンションで新婚生活が始まった。かずみも仕事をつづけた。実家からの援助もあり、お金は多分なんとかなるのだろうと思っていたが、子供が出来るまでは働くことを了解してもらった。

毎日、朝ご飯を作り、お弁当をわたし、夕食をつくって、残業続きで帰宅が翌日になる時以外は、2人で食べた。結婚生活は、可もなく不可もない. あえて言うなら”静かな結婚”だった。

しかし、かずみは2度流産してしまった。1度目の流産後、流産は仕事を続けていたのが理由でもないはずだったが、仕事を続ける雰囲気でもなかったので、仕事をやめた。2度目の流産前には、かずみの父親が過労でなくなった。凄くショックなことであったが、それを理由にはしたくなかったし、そうではないと思っている。夫婦間に溝ができてきたわけではなく、もともと無理な結婚であったからか。

子供ができていたら、変わったであろう。でも、さずからないままだったので、日々ニュース番組をチェックする日々で、牢獄にいるような気分になっていった。浮気しているのだろうかとかどうしようもない妄想も抱くようになった。妊娠するのに肉体的欠陥があるわけではない。まだ20代だし、出産できる可能性は高いだろう。でも、このまま人生が終わってしまうのかと弱気になっていた。父は他界し、母は入院している。母はいつ永眠してもおかしくないと医者に言われている。


母に結婚生活のことを相談することをためらったが、思いを告げてみた。離婚はもったいない。子作りに励みなさいといわれると叱咤激励されると思ったが、母は意外なことを告白してくれた。




「ごめんね。かずみ。どうしようもなかったの。お父さんも私もどうしようもなかったの。本当にごめんなさい。かずみには好きな人と結ばれてほしかったの。学歴も家柄も関係ない。かずみの好きな人と。だから、学生時代の恋人とうまくいって欲しかった。それはお父さんとお母さんの願いだった。このことを信じて。」

「お父さんは、伏見家の落し胤であったという連絡がきてしまった。平たく言えば、天皇家を相続できる血筋なの。お父さんは、天皇家のY遺伝子を持っている人だったの。それに、久邇宮家から駆け落ちした娘が私の祖母であることをお母さんから知らされた。いわゆるお母さんは皇族の血筋なの。かずみは、天皇家と皇族の血筋のいわゆる高貴な血統に属する。お父さんがフィリピンに左遷されて、実績を上げて本社に戻ってきたのは、伏見家の血筋が大きな手助けになっている。2段階特進で社長になったのも伏見家の血筋がなかったらありえないことなのよ。」

「民主主義だから、この世の中は実力でのし上がれると思ったら、大間違い。血がものを言っているのよ。アメリカでだって、マイクロソフトのビル・ゲイツはロックフェラーの子供と言われているし、ヒラリー・クリントンはロックフェラーが、売春婦に産ませた子といわれている。例を挙げたらきりがない。

日本だってそんなものなのよ。ヤクザでものし上がった人の娘は、名家に養子に出されて、皇族として嫁いだりしている。飽く迄も男系が基本だけど。近藤家の場合は、男系も女系も(ある意味)完璧だから、特に目をつけられてしまった。かずみには、とんだ迷惑だったけど。上級国民の仲間になれる機会だったの。サラリーマンでも学者でも官僚でも、よほどのバカでも支援があるのよ。とても大きな支援が。」

「あなたの彼氏は、事故死に見せかけて殺されたのよ。秦氏とか八咫烏とか聞いたことがあると思うけど、もっと上には天皇家を超える組織があって、日本は守られているらしい。私達にはどうあがいても太刀打ちできない血の宿命がある。

聡太さんのガールフレンドも事故にみせかけられて、葬られてしまった。結婚前、聡太さんが、それなりに積極的だったのは、事情をうけいれていたから。上級国民になれるチャンスに。中川男爵の家出した5男の系統で上級の血ではないけど、容姿もよし、そしてとても優秀だから聡太さんは選ばれたのよ。上級の血族にはいれるように。子供ができればこの一族のメンバーに入れた。時間がたって、聡太さんはこの宿命に抗いたくなったるかもしてない。」


「もう。あなたは自由に、好きに生きて頂戴。30歳くらいで、子供を授からなかったら、開放してもらえるはず。私は、もうすぐ死んでしまうから。あなたなら、この呪われた人生を強く受け止められて、生きていけるでしょう。」




自宅のマンションで、かずみは聡太と机に向かい合って、黙っていた。

かずみは、離婚届を渡して、印鑑をお願いします。とだけ告げた。聡太は、何も発言することなく、名前を書き、印鑑を押した。かずみは、聡太がガールフレンドを失い、自分の状況を認識し、自分の人生をどのようにとらえていたのだろうか?かずみの状況も知って、結婚生活を開始したこと、6年間の結婚生活をどのような思いで、仕事をし、生活をしてきたのだろうか?妊活をすることもなく、離婚届に黙って印鑑を押して名前を書き記したことをどのように思ったのだろうか?かずみも聡太も、どこまで知っているのか知らないのか確かめなかった。

そういえば、自分もそうだけど、聡太さんも口数が少なくなっていったなあ。

お互いに現状を受け入れて、新たに進んでいこうとしているとかずみは感じた。

私は前を向いて、生きていく。聡太さんも前を向いて生きてください。

かずみと聡太は、最後に抱き合って、「ありがとう」と言い合って、区役所に向かった。




それにしてもかずみの彼氏は何も知らずになくなったとはいえ。かずみと巡り合ったがゆえに短命となってしまった。とりあえず、元カレのお墓参りをしてから、転職活動をはじめた。父の元部下の紹介の転職エージェントにお願いして、有名都市銀行出身で英語ができて、バブル経済崩壊前だからか、スムーズに就職できた。お金に不自由はしていないし、なにかあったら田園調布の一戸建てを売ってしまえばいいと思っていたから、まあ、順調な滑り出しだ。


クリスマスパーティで、イケメンなトレーダーと少しだけ何気ない会話をしたことがあった。トレーダーをゲットして、優雅な生活をしたい女性が少なくないので、翌日お局様と言われているお方にトイレに呼ばれて、何を話したのとつめよられたこともあったが、結婚をするつもりもなかったかずみには、微笑みながら、高校生みたいと適当に流せた。

こんな俗世間の出来事が微笑ましかった。まあ、それなりに仕事をして、気楽に生きていけそうだった。


テニスに誘われればテニスをし、富士山登山に誘われれば登山をして、フレンチレストランに誘われれば、フレンチを楽しんだ。風に吹かれるままに、吹かれた。




軽井沢でのテニスの帰り道、偶然かずみは、健介のマークⅡに乗せてもらって帰った。二人は、テニスのウィンブルドンの話や、会社のどうでもいい話をしながら東京まで帰った。

健介は、かずみさんを好きなのですモード全開で、バレバレで恥ずかしいなと思いながら、事故だけは起こすまいと気をつけた。

かずみは、バツイチのアラフォー女になろうとしているのに、健介さんは健気だなあと”はにかんだ”。2度流産したバツイチアラフォー女に、好意を寄せてくれていると思うと、さらに”はにかんだ”。もう結婚はしないと心に決めたかずみだったが、それにしても、この裸を見せることになっちゃったら、めちゃ恥ずかしいな。まだまだ捨てたものじゃないかと心が微笑んだ。

健介さんに、「再来週あたり、二人で温泉にいきましょう」と誘われて、ハッとした。




健介は調子に乗りすぎと思いながら、このままうだうだとすごしていくなら、ふられたら、きっぱり諦めようと思って、草津の温泉付き別荘に誘ってしまった。

後で日帰りだと思ったのだろうかとモヤモヤしていたが、そうなったらそうなったで、日帰りしようとしていた。

自分はもうすぐ40歳、かすみさんは、35歳くらいだから、まあいいか。かすみさんなら、会社でもうまくあしらってくれるだろうと良い方に解釈することにした。健介にとって、このウキウキ感は人生初めてだった。


かずみは、どうなるのだろうかと軽く考えていたが、一応勝負下着らしい下着を身につけていった。

車の中でもびっくりするくらいりっぱな別荘についてからも、健介さんはスムーズな会話ができなかった。めちゃ緊張していた。この別荘、無理したのだろうなとかずみは思った。

ここで温泉にも入れたし、帰ろう。とかずみが言ったら、健介さんはどうなるんだろう。意地悪してみたくなる興味があったが、<後で分かったことだが、そうなってしまったら、健介は帰るつもりでいた。>かずみは朝食をこの別荘で食べることにした。ふたりは、温泉街のスーパーで、黒毛和牛があったので、すき焼きにした。瓶ビールも大瓶4本も購入した。


お腹いっぱいになって、酔っ払ったが、かすみさんもすごく酔っ払っている感じだった。ふたりは、布団にはいった。健介は、手をかずみさんの手に触れて握った。


朝起きるとかずみさんは布団で寝ていなかった。

健介は、触れるものすべてにぬくもりを感じ、見えるものすべてがより明るく、頭がボーと麻痺している感じでいた。しあわせとは、こういうものなのかと思った。




かずみは、月のものが2ヶ月も来ていなかった。まさかとも思ったが、していることはしているので。(結婚生活でも)避妊はしていなかったし。妊娠検査薬でも、産婦人科でも妊娠と結果が出た。

恐る恐る上目遣いで健介さんに告げると「お願いします。産んでください。もちろん私で良かったら結婚していただけますか?」と頭を下げてきた。

10秒後「はい。」かずみは、目を見開いて、答えた。




健介さんが、早急に実家に挨拶に来ていただきたいとのことでしたが、安定期にはいるとすぐに福岡空港に二人で降り立った。<国内ではあまり意味のないファーストクラスだった。>

車で迎えに来るのでと聞いていたが、黒塗りのリムジンベンツが待っていた。健介とかずみがベンツに近づくと、黒尽くめの男がリアドアを開けて出迎えてくれた。真ん中と後ろの座席のウインドウにはシャドーフィルムが貼ってある。助手席の男が、備え付けのバーから、健介さんにはベルギービール、かずみにはジンジャーエールと注文に答えて出していただいた。運転手も助手席の男も顔に傷があるわけでもなく指が10本ずつある。普通の顔をしている。でも、黙っていてもオーラに異様な迫力があった。ナイフで平然と人を殺している場面がかずみの頭に浮かんだ。

健介さんはなんの説明もなくじっと黙っていた。




山を越えて、平地にでると塀に囲まれた大きな家の前に着いた。

表札はなかったが、代紋もなかったので、ヤクザではないのだろうと少し安心した。まだ確定しているわけではないが。でも、料亭でもないし、ただならぬものを感じた。

木製の門を通り、日本庭園のように整えられた草花と大きな錦鯉が何匹もおよいでいる池を横切ると木造建築の大きな家に入った。そして、30畳の部屋に通された。


健介さんからは何も説明がないまま、二人は大広間のふかふかの唐草模様の座布団に座っていた。

和服の老人と中高年の男性が障子を開けて堂々と入ってきた。

「遠いところから、お越しいただきありがとうございます。私は健介の祖父 楊傑こちらは健介の父 楊強。健介がお世話になっています。」

「近藤かずみです。よろしくお願いします。」と頭を下げて、挨拶をした。

しばらく二人の男は、かずみを凝視していた。


楊傑が口を開いた。

「お話しなければいけないことがあります。黒塗りの車、この屋敷、健介がありふれた家系でないことはお察しのことでしょう。健介の祖父、父親は中国人です。健介は中国人と日本人との間の子です。健介は母方の姓名を名乗っているので、柴田健介です。戸籍も日本人です。正真正銘の日本人ですからご安心ください。」


「祖父も父も李家というイルミナティ12家に所属しています。青島という中国、香港、台湾を拠点とした中国随一の暴力団です。道仁会という暴力団と組んで、九州の福岡に進出しています。李家は元総理の安倍晋三さんの家系ともつながりがあります。李家でも青島は、日本での稲川会のように、ドブ掃除をしている団体ともいえます。世界を牛耳るロスチャイルドが企画した事件の、押し寿司から漏れてしまった世間に知られてはいけないことを隠すのが主な仕事です。売春や麻薬などなんでも金になることはやりますが、主な仕事は世間に知られていけないことを隠蔽することで成り立っている組織です。中国共産党の政権下で、そんなことができるのかと不思議におもうかもしれませんが、青島は中国共産党と組んでいます。民主主義でも共産党でも、同じように動くことが出来るというのが実情です。青島は、中国でも、香港でも、台湾でも、福岡県でも活動している。」

「健介の母親は、李家の呪縛も、青島の呪縛も離れようとして関東に健介と逃れた。父親はそれを許した。健介は何も知らないで生きてきた。しかし、伏見家の血統のかずみさんと結ばれることになった。子供も妊娠している。伏見家と李家との血の繋がりは、大変喜ばしいことと青島のトップでは大騒ぎです。」


「無事に生んでください。このとおりです。」

二人の和服の男は、頭を下げた。




かずみは、無事に男の子を出産した。健介さんには似てなくてよかったとクスッとした。

この子は、有無を言わさず青島の一翼を担っていくのだろうか? 運がなければ悲惨な死を招くのかもしれない。抵抗しても無駄だ。青島の勢力がすざましいことは、健介の祖父から叩き込まれた。無駄な努力をすれば、私の命さえ危ないかもしれない。

陸軍中野学校の策略で、朝鮮王族の血を引く金正恩の母親となった横田めぐみさんも似たような気持ちだったのかもしれない。


満面の笑みで、楊傑は、楊強につぶやいた。

「それにしても健介は大仕事をやってのけてくれた。八咫烏も何も言ってきていない。李家なら文句言えないだろう。あの子は、人相学でも帝王の器と判断された。帝王学をあの子には学んでもらう。もし2人とか男の子を生んでくれたら、最高だな。女の子でも文句はない。お婿さん探しが大変なことになる。かずみさんには悪いが、上海か台北に住んでもらおう。もし子供の成長を頻繁に見たいのなら。」






第一章 血統編は終了。  第2章 激闘編へ。

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