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第六十八話 三バカ

久々のほのぼの日常回です

「この大バカ者が!!」


 店主絶叫事件の後、すぐさま医務室へととんぼ返りした僕らだったが、案の定テレジアさんに雷を落とされた。


「一体何度言えば気が済むんじゃ!! 怪我をしたらまず我の下へ来いとあれほど言ったよな!!」

「も、申し訳ございません……」


 血の糸に藁巻にされ、逆さに吊られているスルトは苦しそうに謝罪する。だがテレジアさんは満足せず、布団をはたくみたいにポコポコと杖でスルトを殴打していた。


「貴様らもじゃ!! 怪我人はすぐに医務室まで連れてこんか! いくらこやつでも怪我は怪我じゃぞ!? 万が一が起こってしまったら遅いんじゃぞ!!!」

「ごめんなさい……」

「すみません……」


 逆さに吊られているスルトの両脇で正座させられていた僕達は、心の底から反省した。スルトも化物染みた頑丈さを持っているが、人の子だ。スルト自身もそうだけど、僕もリルカも認識が甘かったと思う。


「全くこの三馬鹿め……」

「「「えへへ」」」

「褒めとらんわ!! 全員反省部屋行きじゃ!!!」


 結局、僕らは三人揃ってエミーリアさん管轄の反省部屋に連行される運びとなった。



 反省部屋に連行された僕らに課せられたペナルティは反省文の提出だった。しかしリルだけは、あと一歩で殺し合いに発展しそうだった僕らを止めたということでエミーリアさんが反省文を免除にした。なのでここにいるのは僕とスルトだけだ。


「おかしいだろ……なんでリルだけ反省文免除なんだよ……それなら怪我したオレも免除にしてくれよ」

「はは……」

「オレ達を止めたからって理由は分かるけどよ……それでもこう、なんか…………はぁ~」


 スルトはリルに取られた免除措置に対して、ペンを動かしながらしきりに愚痴っていた。リルにではなく、リルに対して取られた措置に不満を抱いているのが彼らしいと言える。僕らとスルトはまだ出会って数か月だが、それでも「らしい」という表現を自然と使えるのはそれだけ親密になっている証拠だろう。そう思うとなんだか嬉しい気持ちになった。


「甘んじて受け入れよう。元をたどれば僕達が悪いんだ」

「……それもそうだな」


 スルトは息を吐きながら僕の言葉を肯定した。以降スルトが今回の処分についてもう何か言うことは無くて、少しの間用紙の上を駆けるペンの音だけが反省部屋に響いていた。


 こういった文章を書くのは初めてだ。何を書いていけばいいのかとかどういう構成にすればいいとか何も分からない。とりあえず反省していることが伝わればいいと考え、それに適した言葉を出力する。そのパターンを見つけてからはひたすら繰り返すだけだった。


「────なぁエルド」

「どうした? もう書き終わったのかい?」


 用紙が半分ほど埋まり、残りの空白をどう埋めようか頭を悩ませていると、不意にスルトが話しかけてきた。


「前から聞きたかったんだけどよ、お前いつからリルのこと好きなんだ?」

「さぁね。気付いたら心奪われてたよ」

「そりゃ素敵な惚れ方だ。オレもそういうの憧れるぜ」

「君も興味あるんだそういうの。意外」


 僕は思わずペンを置いてスルトを見た。


「そりゃあお前、オレにだって恋愛に憧れる気持ちは人並みにあるさ」


 なんだか凄く変な感じだった。言っていることは何も可笑しくないのに、スルトが言っているというだけで可笑しく感じる。


「それじゃあ質問。どんな人がタイプなんだ?」

「人間として強い人だな。これは譲れない」

「えらく抽象的だな。もっと具体的な要素はないか?」

「……特に」

「あらら」


 早々に詰まった会話に僕は少しがっかりする。スルトの恋愛事情が分かると思ったのに、残念。


「大丈夫かなオレ。生涯独身は流石に嫌だぞ」

「まぁ君なら大丈夫でしょ。顔は良いし性格も問題なし。それでいて医者の息子だ。非の打ち所がないよ」

「そんな軽く言うけどよ……」


「将来ちょっと不安だなー」と、スルトは脱力した声で呟いた。


「まぁなるようになるさ。今はとりあえず反省文を書き切ろう」

「だな。さっさと書いて飯食おう」


 それからはもう一瞬だった。書き上げた反省文も無事に受理され、エミーリアさんから念押しの注意を受けてようやく反省部屋から出ることが出来た。


「もうすっかり夕暮れか。思ってたより長く居たんだなオレら」

「まぁ話しながらだったからね。晩御飯には少し早いし、売店で軽食でも買おうか」

「賛成。オレも同じこと考えてたんだ」


 オレンジ色に染まる騎士街を談笑しながら進む。取り立てて挙げるようなこともなく、下らない話ばかりで楽しいひと時だった。そうしてたどり着いた売店の中には見覚えのある人物が一人いた。


「お、アレクさんだ」

「ホントだ」


 スルトが指差した先には陳列された品物を吟味しているアレクさんがいた。スルトの声で僕らのことに気付いたようで、ニカッと笑いながらこっちに歩いてくる。


「お疲れ様ですアレクさん」

「おうお疲れ。テレジアから聞いたぜ? 怪我ほったらかして飯食いに行こうとしたらしいな」

「ア、アハハ……気を付けます」

「別に責めちゃねぇさ。もうしねぇならそれでいい」


 アレクさんは笑いながら僕らの肩を一回叩いた。


「そんで坊主どもはここに何しに来たんだ? 買い食いか?」

「ウッス。晩飯までまだ時間があるのでその繋ぎを」

「ならこのジャーキーでも食うか? いいつまみになるぜ?」

「僕らまだ未成年なんですけど……」

「ガハハ! 冗談だよ!」


 アレクさんは豪快に笑うと手に取ったジャーキーのパックを元の場所に戻した。


「つかアレクさん。まだ酒飲んでるんですか? この間親父に説教されたばっかでしょ?」

「止めてくれるなスルト。酒はオレの酸素なんだ」


 何故かは知らないが、騎士団にはアレクさんのように酒好きな人が多い。ギドさんたちやモーリッツさんもそうだし、聞けばグリム団長も定期的に嗜んでいるそうだ。


 でもアレクさんの場合はちょっとその度合いがオカシイ。医者は勿論、エミーリアさんやテレジアさんにも止められているのに一向に禁酒する気配がない。聞けば健康診断の結果も不味い数値が出ているそうだが、本人はまだ平気だと信じ込んでいるらしい。


「しょうがない……もしもしエミーリアさん?」

「ダァァッ!!! ヤメロ!!!」

「冗談すよ冗談。いくら何でもビビりすぎでしょ」

「お前マジでッ、あぁもう心臓に悪いって……」


 スルトのしたり顔にアレクさんは汗だらけになりながら溜息を吐いていた。よほどエミーリアさんのお仕置きが怖いらしい。ならば酒を辞めればいいのにと思うが、きっと言っても無理なんだろうな。


「でもこのまま冗談で終わらせるのもつまらないッスよね?」

「……おいスルト? 嘘だよな…………?」

「このままだとうっかりバラしちゃうかもなぁ~。なんか口止め料とかあってもいいと思うんだけどなぁ~」


 その時点で僕はスルトが何を企んでいるのか理解した。


「────持ってけ泥棒!! 今日は全部俺の奢りだ!!」

「「待ってました!」」


 流石にこれはファインプレーと言わざるを得ない。悔しそうに叫んだアレクさんの横で僕らはハイタッチをした。


「よしエルド! リルも呼ぶぞ!」

「任せろ! というかもう呼んだ! すぐ来るって!」

「ナイスだ!」

「畜生……!」


 アレクさんが恨めしそうに言うが、無視する。やめろと言われているのに酒を止めないから悪いんだ。恨むなら禁酒しなかった自分か、或いは僕らの教育係になった運命を恨んで欲しい。


「来たよ二人とも!! アレクさんの奢りってほんと?!」

「ホントだ!!」

「やった! おやつ一杯買っちゃえ!!」

「グッバイ俺の給料日……」


 リルと合流した後、僕らはアレクさんの懐に一切配慮せず売店の軽食を爆買いした。詳細は語りきれないので省くが、過去最高に贅沢な買い物だっただけ言っておく。


「気持ちは分かるが……流石にやりすぎだ」

「「「ごめんなさい」」」

 

 後日、僕らはグリム団長に注意を受けた。

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