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第四十八話 終わりの始まり

地獄が加速します

 スルトとジョセフの戦闘は熾烈を極めた。初手は剣と拳のぶつかり合い、爆炎を纏うスルトの拳とジョセフの霊力の剣が真っ向からぶつかり合い、そして鍔迫り合い。ほぼ完全な拮抗状態になって埒が明かないと判断した両者は同時に距離を取る。


『ザイン・フォール』


 翼で空に飛翔したジョセフが霊力弾を連射する。スルトは霊力弾の直撃を無視しながら、霊臓による炎の噴射を利用した飛翔でジョセフに迫る。霊力弾は全弾スルトに命中したが、鉄と同等以上の硬度を誇る上に霊力による防護を得たスルトの肉体に傷はつかなかった。


 下から迫ってくるスルトの拳をジョセフは後退して躱し、そのまま空を飛んで距離を離そうとする。スルトもすぐに体勢を立て直してジョセフを追跡する。


 アスガル上空で黒い天使と赤い彗星のレースが始まった。


「ファイヤーフライ」


 無数の炎の蛍たちがホーミング弾のようにジョセフを追いかける。左右上下どのようにジョセフが逃げても蛍たちはピッタリ同じ軌道を通って追尾している。ジョセフは舌打ちをして、その高度を急激に下げた。


 空から住宅街に突入したジョセフは立ち並ぶ建物の隙間を縫うようにして飛行する。蛍たちはその複雑な軌道について行けず、建物や看板などに衝突して消滅した。


 追跡を振り切るうちに記念公園の近くまで戻ってきていたジョセフはそのまま高度を上げようとする。しかし既にスルトが待ち構えていた。


 蛍たちが陽動だとジョセフが気付いたのはスルトに頭を鷲掴みにされたときだった。


「逃げられると思うなよ」


 ジョセフの頭を掴んだスルトは勢いよく地面へ投げつけた。抵抗する間もなく、ジョセフは受け身を取ることすら出来ずに地面に叩きつけられる。記念公園のほぼ中心に蜘蛛の巣のようなクレーターが出来た。


「……」


 スルトは炎で高度を維持しながら土煙が昇るクレーターの中心を睨む。その背後には無数の蛍と数匹の火の鳥が構えている。


 土煙の中に影が現れる。その翼が揺れると土煙が吹き飛んだ。


『雑菌ではなく蠅だったか。雑菌を撒き散らす害虫め』


 憎悪の響きを込めながらジョセフは歯を食いしばる。その頭からは血が流れていた。


『消え失せろ!!!』


 叫びと共に大量の霊力弾をジョセフは発射する。向かってくる超密度の弾幕にスルトは蛍たちをぶつけて相殺した。


 小爆発が巻き起こる。幾度も、霊力弾と蛍が衝突するたびに煙と爆風が起こる。両者の視界から互いの姿が煙の中に消えていった。


『アアアアア!!!!』


 数瞬後、爆煙を突き破って現れたジョセフがスルトに肉薄する。勢いのまま振るわれたジョセフの剣戟は当たれば確実にスルトを一刀両断出来ていたが、スルトは危なげなくこれを躱し、続けて振るわれた剣戟も同様に躱す。


 三手目以降、ジョセフは焦りからか大振りを多用し始めた。


『消えろ!! 消えろ!! 消えろ!!』


 剣を振るうたびにジョセフは叫ぶ。高速の連撃だったが、そのいずれも躱されるか受け流されるかで当たることはない。振るうたびに剣は速度を上がっていくが、それ以上に乱雑になっていった。


『死ね!!!』


 しびれを切らしたジョセフが右の剣を勢いよく振り上げ、スルトを切断しようとするが不発。振り下ろした瞬間に手首を掴まれ、動きが止まった刹那、ジョセフは腹部に数発の拳を喰らった。


 ダイナマイトが爆発したような威力だった。そのあまりの威力にジョセフは肺の中にある空気を全て吐き出し、声にならない声を上げた。右手首は未だ掴まれたままである。


 スルトは打ち上げられたジョセフを引き戻すと、そのまま左手でもジョセフの腕を掴む。ハンマー投げの要領でジョセフを何度も振り回し、東の方角に投げ飛ばした。


ついばめ」


 スルトの指示で待機していた火の鳥たちが動き出す。東へ飛んでいくジョセフを追う。ジョセフは動きを見せず、あれよあれよという間に火の鳥の突撃を喰らうかと思われた。


『邪魔をするなァ────!!!』


 瞬間、鳥たちの身体に蒼白の線が走る。否、それは残像である。ジョセフに接近した鳥たちは両断され、自分が切られたことに気付かぬまま消滅した。


 ジョセフは翼を巧みに操作することで無理やり慣性を打ち消したのだ。その後残されたほんの僅かな猶予で体勢を整え、火の鳥の群れを切り裂いたのである。


 結果、ジョセフは殆ど無傷で危機を一旦凌ぎきった。決着と行かずとも深手は確実だと思っていたスルトは内心で驚愕していたが、ある違和感を覚えていた。


「……」


 スルトの視線の先には息を切らして苦しそうな顔を浮かべるジョセフがいる。それでもジョセフは憎悪に満ちた視線を止めず、剣を持つことを止めない。その姿にスルトは執念と後悔を感じ取った。


「……お前は何がしたいんだ? 人を殺したくて殺しているのか? それとも自棄になってるだけか?」

『……』


 その風貌は間違いなく人外であり、霊魔に違いはない。最初はスルトも霊魔であると断定していた。


 しかし、今は違う。ジョセフから放たれる膨大な霊力を何度も体感した。そのたびに深い絶望と悲しみを受け取った。取り返しのつかない後悔に囚われたジョセフの姿に、かつての自分と重なって見えていた。


「自棄になって暴れてるならもうやめろ。それ以上はお前の心が壊れるぞ」


 攻撃の手を止め、ジョセフに語りかける。


 もしかしたら。そんな僅かな可能性にスルトは賭けた。


『黙れ』


 ────可能性など有りはしない。


『お前に何が分かる』


 今のジョセフに声など届かない。


『部外者のお前に何が分かる!!』


 誰だろうと、ジョセフの絶望は止められない。


『知ったような顔をするなァ────!!!!!!』


 最早止められるものではないのだ。


 ミリアはもう、この世にはいないのだから。


「…………」


 スルトは少し苦し気な表情で歯噛みした。その間、ジョセフは天高く飛翔すると翼を勢いよく開いた。


『立ち上がれ反撃者達よ!! 時は満ちた! 今こそ我らを害した全ての怨敵に裁きの鉄槌を下すとき!! 死してなお忘れがたき絶望の天罰を!! 我らこそが天罰である!!』


 その号令はアスガル全土に響き渡る。静寂の後、あちこちで発生した青白い爆発は反撃者達の絶叫である。


『────イツマデェ!!』


 爆発の後、大量の霊魔が出現する。それはかつて天使病を患った人間たちだ。内にため込んだ負の感情がジョセフの号令と共鳴し、情動過負荷を起こしたのだ。


『アスガルに報いあれ!!!』


 黒い天使たちがアスガルの破壊を開始する。十一人、あるいは十一体の黒い天使がスルトへ襲い掛かった。

アニセカ小説大賞に応募しています。

総合ポイントで足切りがあるかもなので、よろしければポイント評価やブックマーク等お願いします!!!


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