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第四十二話 Fallen Kingdom・Ⅱ

「ミネルバさん。そいつは?」

「彼女は医療教会の協力者です。皆さんの敵ではありません」

「…………チッ」


 イーストウィングの人たちは何もしてくることはなかった。ただ「早く出ていけ」と邪魔者を見る目で私を見つめるだけ。それは彼らが出来る最大の攻撃だった。


 暴力で訴えることはせず、かといって言葉をぶつけることもせず。それが意味するところは、暴力と言葉に傷付けられた彼らはそれ以外の方法で他者を拒絶することを選択したという事実だ。

 

 自らを害した存在と同じ尺度に存在する者とならないよう、それ以外の方法で。ミネルバさんも一見すると受け入れられているように見えるが、そこには蔑んだ目がある。


 これが彼らの選択なのだ。私は、同じ事例を地球にいた頃から何度も目撃している。


 だから知っている。こういった選択は結局は武力闘争に繋がってしまう。現にこのケリュケイオンという組織はこの国の政府を打倒しようとする勢力。今更取り立てる必要もない。血で血を洗う紛争まで秒読みの状態なんだ。


「……」


 今私の中にあるのは不快や怒りではなく、この国の未来に対する不安だ。


(カナエさん……)

(大丈夫。心配してくれてありがとう)

 

 ミネルバさんの気遣いも今の私にはあまり届かなかった。幸いだったのはイーストウィングの奥に行くほど人が減っていったことだ。ミネルバさんに聞くとこの先にはケリュケイオンのリーダー格が集まる隠れ家があるんだとか。


 件の隠れ家だというログハウスに着いたとき、ミネルバさんは扉をノックした。すると扉の向こうから「その右手にあるものは?」と問いかけられる。合言葉ってやつかな。


「銀貨三十と蛇の杖」


 ミネルバさんが答えると、扉がゆっくりと開かれた。合言葉ってやつかな。


「ジョセフさん。お久しぶりです」

「……君がここに来るのは珍しいな、ミネルバ」


 ────扉から出てきたのは、私が昨日国立公園で遭遇したあの天使だった。


「……そこの方は?」

「大丈夫、彼女は敵ではありません。憲兵隊に追われていた私をここまで連れて来てくれたんです」

「ふむ……事情は理解した。ひとまず中に入るといい」

「ありがとうございます」


 ミネルバさんに続いて私も軽く頭を下げた。招き入れられたログハウスは結構広くて、しかしリビングは何かの薬や医療器具が所狭しと置かれている。そのため広さの割に広いという印象は覚えない。


「────えっ」


 私はそれよりも、ログハウスの中にいた人間に驚愕した。


「カナエ!? 無事だったのか!!」

「おわっ!? いきなり動くなバカ者!」


 そこにいたのは幼女から治療を受けているユーリだった。私もユーリも互いの姿を見て固まった。


 しかし、次に現れた人物は更なる驚愕を私にもたらした。


「────む、ミネルバ君じゃないか」


 ログハウスに入ってすぐ右にある部屋から出てきたその男は半裸だった。濡れた髪をシャカシャカとタオルで拭きながら出てきたことから恐らくは風呂上り、扉の奥には風呂場だということが分かる。


「いきなり駆け込んでしまって申し訳ありません。教会が憲兵隊に狙われてしまって」

「事情はそこの少年から全て聞いている。危ない所だったらしいな」


 私はいきなり半裸の男が現れたことに驚いたし、平然した顔で髪を拭きながらミネルバさんと話す男にも何の反応も示さず普通に話しているミネルバさんにも驚いた。


 しかしそれ以上に、その男が私達が探していた件の医者であることに驚愕していた。


「シュプリ・クロイツフェルト……?」

 

 未だ思考が現実に追い付かない状態のまま、私は茫然とその名前を呟くことしか出来なかった。


「君が……」


 シュプリ・クロイツフェルトは神妙な顔で私を見ていた。



 奇妙な邂逅を果たした私達は、とりあえずシュプリさんが着替えるのを待ってから自己紹介をするということでお茶を濁した。


 最初に私達を出迎えた翼の人はジョセフさんと言って、医療教会の元教区長でミネルバさんの前任だった人らしい。ユーリの治療をしていた幼女はテレジアさん。見た目とは裏腹にかなり長い時を生きているそうで、シュプリさんとは古くからの友達らしい。聞くところによればヴェルトの出身国であるテミス王の騎士団に所属している医者だとか。


「────つまり、お主らのもう一人の仲間が天使病について調べるためにシュプリを探しているということか?」

「そういうことだな。一応兄貴からシュプリさん宛てに手紙も預かってるんだ」

「僕に?」


 ユーリはヴェルトから預かった手紙をシュプリさんに手渡した。


 手紙の内容は私もユーリも知らない。父親の知り合いだったとヴェルトが言っていたから、多分ヴェルトのお父さんに関することが書かれているんじゃないかと私は勝手に予想している。


 実際、シュプリさんは手紙を読みながら懐かしそうな眼をチラつかせている。


「世間というものは狭いものだな……こんなところで、点と点が繋がってしまうとは」


 手紙を読み終えたシュプリさんは深く息を吐いた。その後、一瞬だけテレジアさんの方を見る。


「何じゃ? なぜ我を見る?」

「なんでもない。────さて、ユーリ君に、カナエ君と言ったな。僕は確かにヴェルトの父親と知り合いだ。今でこそ連絡を取り合うことはないが、少なくとも僕は友達だと思っている」


 その言葉を聞いて私とユーリは少しだけ肩の荷が下りたような気がした。心のどこかでシュプリさんが忘れている可能性を考慮していたのかもしれない。ひとまず、懸念点は一つ消えた。


「僕で良ければいくらでも知恵を貸そう。その代わりに君たちも協力してほしいことがある」

「協力してほしいこと?」


 ユーリが首を傾げながら聞き返した。


「ケリュケイオンの外部協力者になって欲しい。ヴェルトも含め、君たち三人の協力があれば天使病を終わらせることが出来るかもしれない」


 唐突な提案に私もユーリも困惑してすぐに反応出来なかった。少し経って状況を理解した後も、軽はずみに肯定も否定も出来ず、ただどうしようかと考え込むばかりだった。


 ────そんな折、ヴェルトからのメッセージが届いた。メッセージが送られてきたことを知らせる通知音は、迷う私たちを急かすように鳴り響いていた。


 

 青天の霹靂。今スルトが直面している状況を端的に表すとしたらこの言葉が相応しいだろう。


 デリング劇場周辺。対魔組合を離れて少し経った頃、デリング劇場周辺で錯乱した憲兵が市民を攻撃したという騒動の噂を聞きつけたスルトは、人々が逃げてきた方向へ駆け足で向かっていた。


 至る所に破壊痕を残しているデリング劇場前の広場についたとき、スルトは思いもよらない人物と邂逅を果たした。


「初めまして……ってことにしとくか? スルト・ギーグ」


 その男とスルトは面識はない。

 

 しかし、スルトの直感はその男の正体を知っていた。


 ────間違いねェ!! オレはこの男を知っている!!


「そうだ。お前が想像してる通りさ」


 あのときオレが覚えた違和感は正しかった! コイツは間違いなく組合支部で職員に化けていた野郎だ!


 スルトは確信し、その男の名を叫んだ。 


「────ラーク!!」

「大正解。それじゃ死ね」


 ラークの影が生物のように蠢く。


万喰者マンイーター


 底の無い漆黒の悪意がスルトに襲い掛かった。

ここでまさかのラーク戦です。驚きましたか?

ですがこの先の展開はもっと凄いことになりますよ……?

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