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第四十話 Fallen Kingdom・Ⅰ

変貌した憲兵は異常増幅した霊力から槍を生成する。


 そのプロセスはカナエの霊力矢と酷似していた。


「UGHHHHH!!」

  

 憲兵は霊力槍をユーリ目掛けて投擲する。霊力によって強化された身体能力から放たれるそれは疾風に等しく、瞬きする間にユーリの眼前へと迫っていた。


 喰らえば死ぬ。単純な事実を認識した瞬間にユーリの世界が超低速に突入する。


 速い。防御は間に合わない。避ける以外に方法はない。槍はどこを狙っている? 間に合うか? 残された時間はどれくらいだ? 焼肉食べたい。


 何がどうでもやるしかない。


 ほぼ並列に近い速度でユーリは思考を回し、殆ど反射で首をグッと横に曲げる。槍がゆっくりとユーリの首の皮を掠めた瞬間、噴き出した血液と共に時の流れが正常に戻った。


「────ッブねェ!!」

 

 あと少し反応が遅れていたら首を貫かれていた。出血個所を片手で押さえながらユーリは戦慄する。目の前にいるのは憲兵ではない何かだ。憲兵だった者というべきかもしれない。


 特にユーリの注意を引いたのは黒い天使の霊力が撒き散らす圧力だ。人でありながら人でない、何かがぐちゃぐちゃに混ざっているような歪さを纏っていた。


「なんだよこの霊力……!」

「UGAA────!!!」


 黒い天使が吠える。霊力から生成した剣を両手に構えると、翼による加速を伴ってユーリへと猛進する。一瞬の間に距離を詰めた天使は乱暴な剣を繰り出した。


「クッ……!」


 内なる憎悪がむき出しになったような剣だった。天使は剣をこん棒で殴りつけるようにひたすら振り回している。最早ユーリを狙っているのか防ぐユーリの剣を狙っているのか分からないほどだ。呼吸する間もないラッシュにユーリは歯噛みする。が、同時に反撃の機会を見出していた。


 意識の分散! タイミングを見極めろ! 


 模擬戦の際にヴェルトから教わったアドバイスをユーリは何度も復唱する。全神経を動員し、敵の攻撃を目で追う傍らで足さばきに意識を向け、散らばったパズルのピースを集める。


 次第に激しくなっていくラッシュにユーリは痺れを切らして攻撃したくなった。このままだと押し切られてしまうと焦る気持ちが強くなっていく。だが反撃のタイミングを間違えればその隙を突かれて死ぬ。


 ────攻撃を仕掛けるときでも相手の攻撃に対応できるようにしろ。


 焦るユーリの心を沈めたのは記憶に新しいスルトからのアドバイスだった。言葉が体内を駆け巡り、焦りと緊張で震えかけていた身体をほぐしていく。頼もしさと安心感を覚えたユーリは冷静を取り戻した。


 その一方で天使は一向にユーリの守りを崩せないことに焦り、無茶苦茶な大振りを多用し始める。それは当たればほぼ確実に決着がつくほどの威力を持っているが、乱雑な上に隙が大きい。


 そんな攻撃が今のユーリに通じるはずもなかった。


「────隙だらけだぜ!」


 研ぎ澄まされたユーリの剣戟は天使の剣を粉砕した。反撃されることを想定しなかった天使は反応出来ずに大きく仰け反る。


「これで、おしまいッ!」


 ユーリは万力を込めた峰打ちを放つ。当たれば気絶は免れないが、一人でに動き出した天使の翼がユーリの剣を食い止めた。


「マジか!?」


 攻撃の失敗を悟ったユーリが天使から距離を取っ────


 バンッという意表を突くような乾いた破裂音が轟いた。


「ウッ……!!」


 音の正体が銃弾だとユーリが気付いたのは衝撃と激痛に左肩を貫かれたからだ。ユーリは痛みに顔を歪ませながら振り向き、憲兵に撃たれたことを理解する。


「今だ!! 取り押さえろ!」


 天使の存在にまだ気づいていない憲兵たちがユーリを捕らえんと不用心に駆けだす。


 これには思わずユーリも怒りを露にした。


「ッバカ野郎が!! 早く逃げろ!!」


 ────黒い風が叫ぶユーリの頬を掠めた。


 糸のように細い蒼白の光が憲兵たちの全身を駆け巡る。憲兵たちの背後にはいつの間にか黒い天使がいて、両手には淡い蒼白に発光する霊力の剣が握られている。


 ユーリが天使の存在に気付いたその瞬間、憲兵たちの上半身がバラバラになった。


「は……?」


 ユーリは悟る。天使が目にもとまらぬ速度で憲兵を切り殺したのだと。理解した事実の衝撃が強すぎるあまり、ユーリは撃たれた傷の痛みを忘れていた。が、天使の黒い眼光が向けられたことでそれもすぐに終わる。

 

 ────なんだ? この霊力……


 ユーリは迫る天使が放つ霊力の感覚になぜか覚えがあった。


「霊魔……?」


 呟きに天使は答えず、ただ怨嗟に満ちた雄叫びを上げる。

 

 天使は死体から流れた血が溜まって出来た血だまりを踏み越え、焦らすようにゆっくりとユーリへ近づいていく。


 その足音をユーリは死神の足音だと錯覚しそうになった。


「控えよ」


 不意に高貴な威厳を帯びた少女の声が響いた。


「────UGH?!!」


 聞えてきた声に天使が足を止めたその瞬間、赤い刃が天使を背後から貫いた。


「跪け」


 再び声が響く。


 無数の赤い刃が天使の身体の内側から飛び出る。その刃は、硬質化した天使の血液が内臓や血管を引き裂きながら皮膚を突き破って露出したものだ。


 内側から全身をズタズタにされた天使は白目を剥き、声を出す間もなく絶命した。


「血を操る霊臓ソウルハート……!」

 

 目の前で起きた超常現象が霊臓によるものだとユーリが気付くのにさほど時間は掛からなかった。


「少し違うの。我の霊臓は血液を自在に操るだけではない」


 ユーリがいる場所の右斜め後方、細い路地から現れたのは背丈に合わない大きな杖を持った少女だった。どこをどう見ても十代には見えない幼い少女だ。白い髪と真っ赤な眼は貴族の高潔な印象を覚えるが、明らかにオーバーサイズなコートを着用して裾を引きずっている姿が全ての印象を幼児に塗り替える。


「危ない所だったの。いやはや、間に合って良かったわ」


 少女のあまりにもかけ離れた容姿と口調に、ユーリは豆鉄砲を喰らったような顔をした。


「なんだ、この……ま、迷子か?」

「たわけっ!」


 ユーリが素朴な疑問をぶつけると少女は怒り出した。少女は怒りのままにユーリの左肩を思いきり杖で突く。


「痛ッたァ!? いきなりなにすんだテメェ!!」

「命の恩人に対してなんじゃその態度は! 我がいなかったらお主は今頃殺されていたのだぞ!」

「だからっていきなりぶつこと無かっただろ!! こっちは重傷者だぞ!」

「喧しいこのバカタレが!」

「言ったなテメェ!! ちんちくりんのくせに!!」

「ブチ殺すぞ貴様ァ!!!」


 そのまま二人はもみ合いになる。


 不毛な言い争いは静寂を取り戻した街並みによく響いていた。


「大体貴様! 我を一体誰と心得るか!!」

「知るか! どうせただのちんちくりんだろ!!」

「またちんちくりんって言った!!」


 怒りが我慢の限界に達した少女は杖でユーリを滅多打ちにし始めた。


「アイタタタタタッッ!! ちょ、タンマ! タンマァ!!」

「このッ!! このッ!! 滅びろこのッ!!!」

「分かった、分かったから!! 俺が悪かった!! だから傷口を的確に狙ってくるの止めろ!!」


 命の危険を感じたユーリは白刃取りの要領で少女の杖を掴んで止めようとするが、思いのほか少女の力が強くて押し切られそうになる。


「────テレジア。そこらへんで止めておけ」


 醜い争いを繰り広げる二人に声をかける男がいた。


「止めてなるものか! ここで引けば末代までの恥じゃ!」


 少女は振り返らずに声だけを男に返した。男は額に手を当てて溜息を吐く。


「僕からすれば、今の君の醜態の方が恥だと思うが?」

「うっ……」


 男から提示された苦言に少女は気まずそうな顔を浮かべ、しぶしぶといった様子でユーリから離れた。


「あ、アンタらは……?」

「僕はシュプリ・クロイツフェルト。しがない街医者をやっている者だ。そこでいじけているのはテレジア・パトリオット。テミス王国から来た僕の友人だ」

「……えっ!?」

 

 その男の名前は、自分たちが探していた目的の人物の名前と全く同じであった。


徐々に二章のメインキャラが集まり始めましたね。私もワクワクしながら書いております。

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