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第百話 矛盾 

 翌朝にもう一度話し合う約束を交わした後、ガスコインと別れたオレはユーリ達が予約してくれた宿で二人と合流した。

 

 また例のごとくオレの部屋に勝手に入ってきては三人で夕飯を食べることが決まって、その後はたわいもない雑談に花を咲かせながらだらだらと時間を過ごしていた


 聞けばオレがガスコインと話している間に二人は賭場に行ったらしい。ユーリに誘われてカナエが付いていったとのこと。


 そこまで金を費やしたわけではないらしいが、カナエがポーカーであり得ないくらい無双したらしく、一時間で数十万ニルの大勝ちをしたんだとか。


 その話を聞いたオレは大量のチップを無表情でオールインして相手を追い詰めるカナエの姿を想像して噴き出しそうになった。


 久しぶりの雑談を楽しんだ後は明日に備えて寝るだけだった。


 明日の予定はどうしようとか、ガスコインと会う約束を忘れない様にしておこうとか、色々考えている内に意識は眠りの世界に落ちていた。


 そしてまた、オレはあの不思議な夢をみた

 


 気が付くと、オレは見覚えのある広大な荒野のど真ん中に立っていた。目の前にいはやはり黒い靄に覆われた巨人、ギガント族がいる。


『お久しぶりです、陛下』

「……」


 やはりギガント族はオレに跪いた。相も変わらず、このギガンド族はオレのことを陛下と呼ぶ。


「一ヶ月振りだな」

『間違いはありません。今度は覚えておいででしたね』


 ギガント族は嬉しそうに声を弾ませた。オレからすれば今度も何もこれで二回目なのだが、それはこの際どうでもいい。


「二つ聞かせろ。この空間は一体なんだ? オレをここに呼び出しているのはお前の意志か?」

『後者については「はい」と答えましょう。そしてこの空間は我々ギガント族の集合夢です』


 オレの問いかけに対し、ギガント族は案外素直に返答した。


「集合夢という割には、お前しかいないようだが」

『いいえ、陛下。我々はここにおります。今こうして陛下と言葉を交わしているギガント族こそが我々なのです』

「……ややこしいな」

『難しく考える必要はありません。魚群のようなものだと思ってください』


 そう聞くと確かに分かりやすい。黒い靄がかかっている理由もそういうことなんだろう。


「とりあえずこの話は置いておこう。お前たちがオレを呼びだした理由は何だ?」

『どうしても伝えなければならないことがあったからです』


 どうせスケールのデカい話を聞かされるんだろう。今までの経験からオレはもう何となく分かっていた。


『我々はアスガルにて、誠に勝手ながら陛下の御身を一度だけ使わせてもらいました。その際に陛下の記憶が我々の中に流れ込んできたのです』


 あり得ないと思うことはなかった。


 心当たりがあったからだ。アスガルでラークに出し抜かれ、ファウストに腹をぶち抜かれて気絶したときだ。


 腹に風穴を開けられれば普通は死ぬ。しかし、オレは何故か死ななかった。むしろ目が覚めた時には穴が綺麗さっぱり塞がっていた。気を失った場所と目覚めた場所も違っていた。そのときは何も分からなかったが、このギガント族がオレの身体を動かしていたと考えれば全ての辻褄が合う。


『テミスに対して強い憎しみを抱いているようですね?』

「……」

『望まぬ戦争による望まぬ虐殺、恩師の自決、親友との死別……陛下の深い悲しみと絶望を目の当たりにしました』


 どうやら、本当にオレの記憶を追体験したらしい。勝手に同情されても反応に困るだけだが、しかしただ同情するためにこの話をしているわけではないはず。


『今からお伝えする内容は、陛下にとっては到底受け入れ難いものかもしれません。ですが、我々は陛下を否定するつもりは一切ございません』

「何が言いたい?」


 嫌な予感がした。


 不安の波風が心に波紋を生むような、そんな嫌な感覚が胸の奥で巣食っている。


『テミスは正義を司る女神。ソレは紛れもない真実です』

「……」

『そして陛下も、神託によって選定されたテミスの使徒なのです』

 

 不愉快。

 

 心の中にあったのはただそれだけだった。


「……勝手に言ってろ。今更何を聞かされたところで何も変わらん。奴が罪なき人々を見殺しにした事実は揺るがないんだ。オレはそれを正義とは認めない」

 

 決して認めてなるものか。だからオレはテミスを捨てたんだ。


 真の正義を果たすために、あまねく悪を焼き払うために。


『陛下がそう思われるのも無理はありません。しかし、これには深い訳があるのです』

「訳? 深い訳だと? ふざけたことを言うな!!!!」


 不愉快極まりない、いい加減我慢の限界だった。


 コイツらは、どこまでオレの神経を逆なですれば気が済むというのか。


「人を見殺しにしていい理由なんかこの世に存在しねぇんだよ!! 一つだって存在しちゃならないんだ!! 例えどんな言い訳があろうと、そんなものを正義と認めてなるか!!」


 ギガント族は何も言わず、オレが言い終わるまで黙って聞き入れていた。


『……申し訳ございません。少々語弊があったようです』

「何が語弊だ、見苦しい!! 言い訳があるなら素直にそう言ってみたらどうだ!!?」

『言い訳ではありません。ただ一つの事実でございます』


 ギガント族は怯まず反論してきた。性懲りもなく何を言うのかと思ったが、ギガント族があまりにも平然とした態度を貫いていたので、オレは逆に冷静になることが出来た。


『正確に言うならばテミスは人々を見殺しにしたわけではありません。それ以前に、彼女はもうこの世界には存在していません』

「……何?」


 オレは耳を疑った。


 テミスがこの世に存在しない? 


 コイツは一体何を言っている? 


 噓をついているようには見えないが、だからと言って言葉の意味がまるで理解できなかった。


 ────ただ一つの真実を知るまでは。


正義の女神(テミス)は、四千年前のラグナロクにて戦死しております』


 抱いていた全ての感情は、驚愕に塗り潰された。


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