プロローグ2「変動」
森に入るとすぐにあたりが薄暗くなってきた。
村の東側に位置する広大な森の中は様々な獣が住んでおり、村の食糧にしている。
父のフィリウスは村で数少ない猟師だから、毎日罠の点検に駆り出されているのだ。
俺もよく手伝いをさせられているからなんの問題もない。
「お………やっぱり壊されてるな」
一個目の罠は固定具を外されていた。
最近獣が罠の仕組みに気付き始めている。
よく罠を壊されてしまうのだ。
というのもよくあることで、一つも罠にかかっていないこともしばしばある。
そろそろ最新式の罠を買うべきなんだろうけど、街までは遠いし、金も全然ないんだよな。
そうこうしていると一個目の罠を直し終えた。
「これで一個目か、今日は夜までかかりそうだな」
しばらく罠を点検していると次第に暗くなってきた。
そろそろ終わりそうだ、あと少し。
収穫も少しあったし、今日はしっかり夕飯が食べれそうだ。
罠にかかった獣はその場で血抜きしている。
獣のさばき方は父さんから教わった。
思えば、生きる術は全部父さんから学んだかもしれない。
感謝してもしきれないな。
次の罠の場所まで歩いていると、暗い森の中にぼんやりと光る明かりが見えた。
「………なんだ?」
深い森の中だが、時々行商人が通ることもある。
道に迷ってるかもしれない、案内してあげよう。
明かりに近づくとだんだんと姿が見えてきた。
一般的なローブをまとった長い黒髪の男性だ。
その手にはものものしい杖を持っている。
杖の先端がほのかに光を放っている。
誰だ?行商人には見えないが。
「すいません、こんな森の中で何してるんですか?」
ルークが話しかけると彼は静かに振り向いた。
「ああ、君は近くの村の人かな。
私の名前はメルクリウス、占い師だ。
各地を放浪しているんだが、森に入ってしまって………
恥ずかしながら迷ってしまってね。」
「そうなんですね!だったら村まで案内しますよ!」
しばらく歩いていると、メルクリウスが立ち止まった。
目線の先には獣は息絶えていた。
「この世は残酷なんだ………生きるために他人をむさぼる………
道楽のために人生をもてあそぶやつもいるがね。
獣も同じだ
私はこの獣がなぜ息絶えたかは知らないが、多くを殺し、そして今自らも息絶える」
メルクリウスは悲しげな顔をしながらつぶやいた。
軽く葬儀の言葉を残すと、ルークに向かった。
「君もその世界の中にいるんだよ。
そろそろ村に帰った方がいい」
「?………どうしてですか?
まだ村にはついてないですよ?」
ルークは不思議そうに聞き返す。
メルクリウスは木々の隙間に見える空を指さした。
そこには立ち上る煙がかすかに見える。
「あっちは………村の方向だ!
ごめん、行かなきゃ!」
ルークはすぐに走り出した。
どんどんと占い師から遠ざかり、村の方へと一目散に走った。
あの煙、きっと火事に違いない。
みんなに何もなければいいけど………。
少しの不安を胸にひたすら走って森を抜けた。
村に戻ると、悲惨な光景が広がっていた。
家は打ち壊され、火が放たれている。
地面についた大量の足跡が何者かに襲撃されたことを物語っている。
そして、いたるところに村人が倒れている。
きっと抵抗した結果だろう。
「こ………これはいったい………誰がこんなことを………」
驚愕するルークの目に、家の前に倒れたフィリウスが映る。
「父さん!いったいどうしたんだよ!」
ルークは急いで駆け寄った。
フィリウスは体から血を流し、息も荒いことが感じ取れる。
「ル………ルークか、無事だったんだな、よかった」
フィリウスはせき込みながらも答えた。
「奴らに襲われたんだ。
油断していた………どこから………」
「どういうことだよ!大丈夫か!」
朦朧とする意識の中でルークに語り掛ける。
「いいかルーク、アレンとクレアはさらわれてしまった
奴らは大きな計画を動かそうとしている
きっとお前は強くなれる
これからは世界を歩くんだ
そしてどうか、家族を見つけてくれ!」
フィリウスは細く、しかし力強くルークに言った。
「は………どういうことだよ………
さらわれたって、誰がそんなことを!」
ルークは疑問を投げかけるも、フィリウスの意識はすでに失われている。
「いいか………託したぞ………」
「父さん?………父さん!!」
ルークがいくら呼び掛けても、それ以降フィリウスが目を覚ますことはなかった。