五話 この顔はあなただけのモノ
俺は鑑定屋だ。
いつもは故郷の国で毎日鑑定をしている。
だが、今日は珍しく隣の国に来ていた。
この国に来るのはじつに五年ぶりで、今日が二度目になる。前回行った時は鑑定の仕事が全くと言っていいほど無く、無駄足になってしまった。
だから今回は鑑定の仕事をしに来たわけではない。今回俺がこの国に来た目的は教会の聖女の一人である知人に会うためだ。
そいつは五年前に教会に入り、今日までの五年間でかなり高位の聖女になったようだった。
聖女としての適性が高く、普通の聖女が赴かないような僻地にも赴いて聖女の結界を張りに行っているらしい。
仕事もそつなくこなし、人当たりが良い彼女は民からの人気も高い。しかし、一つだけ彼女にまつわる謎があるのだという。
それは彼女がなぜか自分の顔をヴェールで覆い、ひた隠しにしている、ということだ。
ヴェールをとるのはせいぜい癒しの力を使う時くらいで、民のほとんどが顔を見たことが無かった。べつに人に見られたくないような顔をしているわけでもない。
彼女の顔を見たことがある一部の民の話によると、もうそれはそれは美しい顔をしているようだが。彼女は人に顔を見せない。
今日はそいつに会うついでに、自分の顔を見せない理由も聞いてみようと思う。
そんなことを考えながら俺は彼女がいる教会に着いた。
その教会に人気はあまり無い。普段は怪我の治療や祈りを捧げるだかで人がわんさかいるみたいだが、今日は休みなのらしい。
俺は教会の入口で立ち止まった。
「よう、久しぶりだな」
相変わらず顔にヴェールをかけている聖女に軽い挨拶を投げてやった。
俺に気づくと半透明のヴェールをとって微笑んだ。
「うん。久しぶり」
聖女のために作られた真っ白い服を着て、前会った時よりもさらに綺麗な肌をしている。その姿だけで奴隷だった頃とは大違いだと思わせられる。
「だいぶ様になってるじゃないか」
「む、そう? あなたに助けられてこの教会に来てからすごい頑張ったからね」
「ちょうど五年前くらいか? 奴隷だったお前がこんなに立派そうに聖女できるとはな。驚いたよ」
「全部あなたと教会の人たちのおかげ。特にあなたにはすごい感謝してる。おばあちゃんの呪いを解いてくれて」
「⋯⋯まぁ解いてやったはいいが、まさかお前が聖女だったなんてな。お前を買った時は思いもしなかった」
こいつが聖女だと分かったのは呪いを解き、ついでに再度鑑定したときだ。金色の瞳を持ってる時点で何か嫌な予感はしていたが、それが見事に的中してしまった。
その後、俺はこいつを教会に連れて行き、聖女として生きるよう言った。
ここまでちゃんとした聖女に仕立て上げたのは教会の心やさしい先輩聖女なわけだが、それ以上にずいぶん俺に恩を感じているようだ。
こいつの祖母の呪いを解いてやったのがそんなに良かったのか⋯⋯。
すると聖女は俺の手を引きながら言った。
「こんなところで立ち話はあれだし、それにせっかくこっちに来たんだから街を歩きながら話そう」
「ああ、それもそうだな」
高い金を使って隣の国まで来たのだ。こいつの言う通り楽しまなきゃ損かもしれない。
先導すると言わんばかりの聖女はいつも以上に楽しそうだ。今日は教会が休みだからうきうきしているのだろう。
俺は不意に彼女の顔を見た。彼女はまたヴェールをつけようとしていた。
「ん、あれ? お前またヴェールをつけるのか?」
「うん」
俺は聞こうと思っていたことを思い出す。
「そうだ、そう。お前、何でいつもヴェールで顔を隠してるんだ?」
「おばあちゃんのお墓参りとか、外さなきゃいけない場面でははずしてるよ」
「いやそういうことじゃなくて。普段からの話だ」
「んーーー」
彼女は一瞬困ったような顔をしてから、なぜか頬を赤らめて、
「この顔はあなただけのモノだから。他の人にはあまり見せたくない。それが理由」
「・・・・・・は?」
俺はこの後、この言葉の真意を身を以て知ることになった。