四話 死にたがりな少女
私は奴隷。しかも顔の半分が獣化した醜い顔の。
今まで誰も私を買おうとする人はいなかった。けれど、今日ようやく私を買ってくれる人が現れた。
私はいつものように店の一番奥の部屋でただ床を眺めていた。
すると商人様と一緒にその人は現れた。
どうやらその人は鑑定屋で、店に来たのは奴隷鑑定のクエストを受けてのことだった。私の前に現れたのも鑑定するためだった。
私は醜くて、最近は人前に出されることも少なくなっていたから、鑑定もしていなかったのだ。
私は鑑定されることになった。
そして、姿隠しの布を外された。その人は私を見た時、一瞬動揺した。
それも当然のことだ。人間のくせに獣人のような顔をしているから。だが、私自身にもなぜそんな顔をしているのか分からなかった。
おばあちゃんと暮らしていた頃は普通の顔だったのに。いつからこんな顔になったのか。自分にはまったく分からなかった。
鑑定はものの数秒で終わった。
どんな能力が私にあるのか、少し期待した。
もし私に何か特出した能力が備わっていたら、あるいは誰か買い手がつくかもしれない。ただ醜いだけの奴隷では無くなるかもしれないと思った。
そして―――
『商人。この奴隷、俺が買ってもいいか?』
思わぬタイミングで買い手がついた。私を鑑定した鑑定屋だ。
こんな私を買うと言うのだから、凄い能力が見つかったのかと思ったが、しかし、鑑定で視えたのは正体不明の「呪い」だった。
思わず心の中で嘲笑してしまった。
「なんだ、結局私はそんな人間だったのか」と、自虐以外の何者でもない。
でも、それはそれで良かった。
私を買ってくれる人が現れたから。生の執着もいっそう薄れたから。
ようやく心置きなく死ねるんだ。
まだ鎖に繋がれたままだけど、自分で自分の命を絶つことくらいはできるだろう。
私は鑑定屋に連れられて、小さな牢から出た。
◆◆◆
「何してるんだ!!!」
俺は店から出た直後、叫ぶことになった。
なぜそんな事になったかと言うとついさっき買った少女が自分で鎖を喉元に突き刺そうとしたからだ。
せっかく一つ嘘をついてまで買ったのにここであっさりと死なれたらたまったものではない。
少女の鎖を掴んだまま俺は少女に訊いた。
「なぜ死のうとした?」
「⋯⋯それが私の望みだから。私はずっと死にたかったの。そのために今までずっと私を買ってくれる人を待ってた」
「お前が死ぬ理由はなんだ」
「私が死にたい理由?」
「ああ、そうだ。俺が納得しない理由を垂れて死んでいくのなら一生恨んでやるぞ」
「私が死にたい理由は⋯⋯。もうこの世におばあちゃんがいないから。あとは、こんな顔だから。生きていても不幸しかない」
少女は鎖をまるで放そうとしない。
俺が抑えていなければすぐにでも自分の喉に刺す気のようだ。
「まったく、さしずめ誰に売られても外に出た時点で死ぬ気だったんだろう? 俺に拾われてよかったな。俺がお前に生きる理由を与えてやろう」
「⋯⋯それは何?」
「お前にかかっている『呪い』だ。その正体を今から教えてやる。それで、お前は生きずにはいられなくなる」
それが先刻商人に一つだけついた嘘だ。
本当は呪いの正体、詳細、それが何であるかは全て視えていた。
「お前にその呪いを授けたのはお前の祖母だ」
「えっ? おばあちゃん⋯⋯が?」
「お前の祖母は亡くなっているのか。なら辻褄も合う。お前のその呪いはな、お前自身を守るためのものだったんだ」
「私を守るため⋯⋯。どういうこと?」
「お前のその顔も、能力が何一つなかったのも、全部本来の姿を呪いで封じているんだろう。お前が奴隷に成り下がった時を憂いて、敢えて醜く見せることで誰にも関心を向けられないようにした。そうやって、死しても尚お前を守ろうとしたんだ」
「そんな⋯⋯。 醜い顔は、この呪いは、すべて私を守るためにおばあちゃんがやったことだったっていうこと⋯⋯?」
「信じる信じないはお前次第だがな。ただ、お前が死ぬことはお前の祖母の本意ではない。これは確かだ」
これが、俺が鑑定を通して視た少女の祖母の想いの全て。
「どうだ、これで生きたくなったんじゃないか? それともまだ死にたいと思うか?」
少女は首を横に振った。
「⋯⋯ううん」
「そうか、それでいい。ならあとは特別大サービスをあげよう。お前の呪いを解く」
「あなたって、そんなことできるの?」
「俺をただの鑑定屋と見くびってもらっては困るな。少なくとも俺の中では鑑定をするだけが鑑定屋の仕事ではない」
鑑定屋は自慢げに口角を上げてみせる。
そしてもう一度少女の前に手を突き出した。
「解くぞ」
と、俺は宣言する。
その三秒後。
―――シュルシュルと糸がほどかれるように、獣化し侵食されていた部分が取り除かれていく。
さらに三秒と経たない内に、少女の顔は人間味を取り戻していた。
俺は顎に指をつけて少女の顔を眺めた。
「ふむ。お前、もとは中々良い顔をしてたんだな」
丁寧に磨かれた陶器のように白い肌。そして金色の瞳。
奴隷の身分ゆえ、今は汚れてはいるがそれこそ身なりを整えればさらに化けるだろう。
しかし少女は自分自身の疑いが晴れないのか、
「醜くない? 私の顔」
と聞いてくる。
鏡でもあればいいのだが、残念ながら今は持っていない。あとでじっくりと確認して貰うとしよう。
とりあえず俺は答えてやった。
「安心しろ。呪いがなければお前はかなりの美人だ」
「そ、そうなの? 普通なら別にいいんだけど」
「いや、美人かってのは重要だぞ。醜かったお前はひどい扱いを受けていただろ? 要はそれの逆だ」
「⋯⋯よくわからないけど。もとに戻ったのならそれでいいや」
「ふっ。それでいいのか。まぁいいだろう、最後にお前が行くべき場所に連れてってやる」
と言って、俺はその場所に少女を案内した。