二話 疎まれた鑑定屋
「⋯⋯はぁ。やっぱりこの国はだめか」
人が行き交う大通り、無名の鑑定屋こと俺はため息を吐きながら歩いていた。
俺は鑑定屋だ。その名の通りいろいろなものを鑑定する職業で、この国へは鑑定屋として名を売りに来ていた。⋯⋯のだが、しかし結果は惨敗だった。
隣の俺が生まれた国と比べて、この国はそこまで鑑定を必要としていなかったようだ。
どうやら女神を信仰する人が国民の大半を占めていて、鑑定は全て聖女が行っているらしい。
『鑑定』の力は珍しいものだが、金色の瞳が象徴の聖女は皆平等に持っている。わざわざ俺のようなよそ者鑑定屋に高い金を払ってくれる人はいなかったのだ。
しかも鑑定はもはや聖女の十八番のようなものになっていて、他の人間がやるのはあまりいい印象を抱かれない。
つまり、この国では絶対に鑑定屋として売っていくことはできないということだ。
そうと分かればもう用はない。元の国に帰るだけだ。そう、帰るだけなのだが⋯⋯。
肝心の金がそろそろ底をつきそうなのだ。
この国にやって来るまでにすでに手持ちのいくらかを使ってしまった。
国を渡るのもそう楽ではなく、国に帰るにしてもその分の金が要る。まさか一晩中野宿で帰るわけにも行かない。
なので手っ取り早く国に帰れるだけの金を手に入れたい。
とは言っても三日の飢えもしのげないほど金がないわけではないので、あと何日か分の金は持っている。その期間でなんとか帰れるだけの資金を稼ぐ。
もちろん金を稼ぐアテはある。
「クエスト掲示板」だ。
これはどこの国にもあるであろう、様々なクエストが貼り出された掲示板である。
クエストは誰でも受けられ、クエストの内容ごとに報酬は違う。これで金を稼ぎ、日々を生きている者もいるくらい。
俺はこれで手頃なクエストを見つけて、それで金を稼ぐつもりだ。
俺はクエスト掲示板の前までやって来てクエストを眺めた。
「さて、どれにしようか⋯⋯」
そうだな、俺は生まれてこの方戦闘をしたことがないから受けるとしたら安全なクエストだろう。
昔から鑑定の腕だけを磨いていたため、剣も使えないし魔法もまともに使えない。一言で言うなら戦闘向きではない。
もういっそのこと鑑定を使って受けれるクエストは無いものか。そんなクエストだったら俺も喜んで受けるが。
「ま、無いよな」
この国では『鑑定』自体聖女の十八番なのだ。わざわざクエストとしてここに貼り出すメリットがない。そう都合よくあるわけない、か。
と、思いつつ俺が鑑定系のクエストを探すのを止めようとした時、一つのクエストが目に飛び込んできた。
「これは? なんだ? 奴隷、鑑定?」
前言撤回しよう。やっぱりあった。
奴隷鑑定の依頼。クエスト内容はその名の通り奴隷の能力鑑定を行うというもので、なんとも触れ難いクエストだ。
ここに貼ってあるからには法に触れるものではないのだろうが。というかそもそも奴隷自体は違法でもなんでもない。受けても問題はないだろう。
しかし、なるほど。違法でないとは言っても、やはり奴隷という響きは外聞が悪い。女神信仰の教会所属の聖女にはさぞ頼みづらい内容だったろう。
一応、法には触れてないし、何より俺の鑑定が使えるクエスト。これは絶対に受けるべき。
「よし、決まりだ」
俺は国に帰るべく金を稼ぐため奴隷鑑定のクエストを受けたのだった。