8.小さなチャンス
少し涼しくなってきた。
木の葉の色も変わり、すっかり秋。
(何か、大事なこと忘れてる気がするんだよな・・)
聖夜は学校の通学路である、そんな並木道を、静かに歩いていた。
「聖夜くーん!」
ちょうどその時、曲がり角の向こうから、女のコの声が聞こえた。
「・・高橋」
聖夜が目を向けてみると、それは梨羽だった。
「おはよっ♪」
聖夜に追いついた梨羽は、ニコッと笑って言う。
「あぁ、はよ」
「あいかわらずそっけないなぁ」
そう言いながらも、梨羽は笑っている。
「ふふっ さっき拾っちゃった~♪」
梨羽は言って、聖夜に何かをさしだした。
「どんぐりって・・・ ガキかよ~」
聖夜は笑って言った。
「え~いいじゃない! かわいかったんだもん♪」
梨羽も笑う。
「お前はほんとノー天気だな・・」
そう言って笑った聖夜の顔は、少し寂しげだった――。
(なんだこれ・・ 前にも、同じような笑顔を見た気がする・・・;)
――――――――ザワッ・・・
「え?」
「だからっ!体育祭、なんの競技する?」
花音が天子に言う。
「うーん・・・。あたしは玉入れとか、実力がハッキリしないのがいいなぁ・・」
「やっぱそうだよね~
・・けど、考えてることはみんな一緒だよ。ホラ・・」
そう言って、花音はクラスの真ん中を指差す。
「今、玉入れのじゃんけんしてる(笑)」
「ええぇ!? ま・待って! あたしもやるっ!!;」
天子はあわててじゃんけんにまざる。
『じゃーんけーんぽんっ!』
天子はチョキをだした。
しかし偶然にも、みーんなグー。
「・・・・・・・orz」
天子は一回戦で敗退してしまった。
「あはは、天子ど~んま~い(笑)」
花音は笑って言う。
「よぉ~し・・次は勝つ!!!」
天子は気合を入れなおした。
・・・・・・・が。
天子は全敗。
その結果、学年リレー女子の代表になってしまった。
「ほえ~~~~~~~っ( ■ ;)」
天子は頭をかかえて座り込む。
「天子。こうなったからにはしょうがない。
がんばってね~♪」
花音は他人事のように流す。
「天子。がんばれ。」
棗も花音と同じくそう言って流す。
「・・・・・・はぁ~~い・・もぅ最悪―――!!!」
天子は机に顔を伏せた。
「ふふふ★ それはどーかなぁ~」
花音がニヤリと笑う。
「え? どーいうこと???」
天子は顔を上げ、首をかしげる。
「ほら」
花音が指さす方を見ると、聖夜が男子たちにかこまれ、笑っていた。
「聖夜も、学年リレー男子の代表だって♪」
「えっ・・・!!」
(聖夜も・・・? うそ・・・・・っ///)
「天子、聖夜に思い出させるチャンスじゃん!! がんばりなよっ!」
「う・うんっ!」
(そっか・・聖夜もなんだ・・・っ)
天子は、少しだけ気が楽になった。
――――――数日後・・・
体育祭の練習が、いよいよ本格的に始まった。
「て~んこ~!」
花音が向こうで手をふっている。
天子は手をふり返す。
花音は200M走と二人三脚で、天子とは離れた場所で練習している。
「天子ちゃ~ん! 敵同士だけど、がんばろねっ(#`ω´)ノ」
「うん、結ちゃん・・」
中学から同じだった上原結も、天子と同じ学年リレーの選手だった。
「それにしても・・・みんな速そぅ・・・・・・・;」
天子はため息をつく。
「え~そんなことないよ、だって結、50M8.1秒だし(笑)」
「は!! 速ッ;;」
「え?; 天子ちゃん何秒?」
「あたし9.2・・・(汗);」
「マジでΣ(゜Δ゜;) 」
結は、意外!という顔で天子を見た。
「それにしても、水月くん速いね~ 100Mが、11.4でしょ?」
結は、男子の部を見ていった。
「え!? そうなの?」
「らしいよ~」
(あたし・・・一応彼女なのに、何も知らないんだ・・・・・・)
天子はそう思い、少し寂しくなった。
ピッ
笛の音がなる。
そのたびに、選手が走り込みをする。
ピッ ・・・・ピッ
ふだんこんなことをしない天子にとっては、
けっこうハードな練習だった。
ピッ
また笛が鳴る。
そして、選手が走り出す。
「天子ちゃん!? 走らないの!!?」
「えっ!?」
さっきの笛は、天子の番だった。
(やばっ ボーっとしてた・・・!!)
天子は急いで走りだした。
「きゃっ・・」
ドサッ・・・・
そのせいで足がもつれ、天子は転んでしまった。
「天子ちゃん!?」
それを見ておどろく結。
「いった~・・・」
天子は起き上ろうと足をついた。
「いっ・・・・つ・・・」
(あ、あれ・・・・? 痛っ・・・・・・・・)
「大丈夫!? 立てないの?」
結が天子に駈けよる。
『ストーップ!』
それを見て、3年の先輩たちはひとまずダッシュを中断した。
「大丈夫? 春咲さん」
「立てる?」
「はい・・・すみません;」
天子は結の肩をかり、保健室へ行った。