7.新学期
2学期になった。
今日からまた学校生活が始まる。
「はーっ まだまだ暑いなぁ」
夏休みは昨日終わったばかりで、気温は変わらず高いまま。
天子は、パタパタと手で扇ぎながら廊下を歩く。
ガラッ
教室のドアを開け、中に入る。
「あっ”おっはよ! 天子♪」
それに気づいた花音が天子に言う。
「おはよ~!」
天子も言い、自分の机にスクバを置く。
「おぉ、天子おはよ」
すると、棗も天子に言う。
「おはよぅ」
天子は笑う。
(よかった・・天子が元気そうで)
花音は、泣いてばかりだった天子が笑っていて、少しホッとした。
「おおっ 水月じゃん!! 久しぶりだな~」
(えっ・・)
教室のドア付近から聞こえたその声に、天子の動きが止まった。
ドクン・・ドクン・・・
天子は、顔を上げることができなかった。
聖夜に、自分の記憶はない。
どんな顔をして会えばいいか、天子にはわからなかった。
「お? そのコ誰!? すっげかわいいんだけど!!」
男子たちの声に、天子は顔を上げた。
聖夜の後ろに、1人の女のコが立っている。
(えっ・・!?)
それは、梨羽だった。
「あぁ、同じ病院に入院してたヤツ。そこで会ったから」
聖夜はなんでもないことのように、サラッと言う。
(梨羽・・ちゃん・・・)
「ちょっとぉ? どういうつもりなのかなー聖夜ぁ?╬」
「顔かしてもらおーかぁ? なぁ、聖夜・・?╬」
そんな聖夜に怒りが募った花音と棗が、ケンカ腰で言う。
「な、なんだよお前ら;」
「いいから! ちょっと来なさいッ╬」
花音が、聖夜の腕をグイグイと引っ張っていく。
「ちょ、なんなんだって!!;」
「いーから黙って来い!!╬」
そう言って、棗が聖夜の背中をけとばす。
「って! 棗・・お前、おぼえてろよ╬」
(花音、棗・・)
天子はただ、そんな3人の背中を見つめていた。
「ねぇ、名前なんてーの?」
男子たちは、聖夜に構わず梨羽に話しかける。
「私、高橋梨羽です! よろしくね!!」
梨羽は、ニッコリ笑って言った。
男子たちは、そんな梨羽にすっかり夢中。
そんな中、1人の男子が、天子の方へ近寄ってきた。
「おっはよ~ 春咲さん♪」
新見だった。
「・・新見くん」
「元気ないな。どーした?」
「別に・・」
心配する新見に、天子はそっけなく言う。
「冷てーなぁ。・・春咲さんさぁ、オレの気ひいてんの?」
「はぁッ!?;」
急にそんなことを言い出す新見に、おどろく天子。
「だってさ、オレと会うたびにガン見してくるし、そのわりに冷てぇし」
「そ・そんなこと・・っ」
「この前だって、オレの顔見て急に泣きだすし・・」
「それは謝る!ゴメンッ!! でも、あたしそんなつもりは・・;」
天子はあわてて言う。
「春咲さんに気ぃひいてるつもりなくても・・オレが気になるだろ!?」
「えっ・・!?」
新見は頬をピンク色に染めている。
(それって・・)
「天子!!」
「は・はいっΣ(゜Δ゜;)」
急に名前を呼ばれ、天子がふりむくと、花音が立っていた。
「あんたもちょっと来る!!」
「は、はい・・;」
花音は天子の手を引っ張って行ってしまった。
「・・?;」
新見はただそこにボーゼンと立っていた。
「――もうっ 天子!!」
花音は声を張り上げる。
「な・なに・・?;」
天子には、わけがわからない。
「天子がじっと黙っててどうすんの!?
聖夜に思い出させなくていいの!!?」
「そ、それは・・」
「なにか方法があるよ!! 一緒に考えよ?」
花音は、天子に言う。
「・・そうかもしれない、方法はあるかもしれない、
聖夜が無事でよかった、聖夜が学校にきてくれてうれしい・・
けど・・!! 女のコと一緒だなんて・・・
もう、あたしどうしていいかわかんないよ!!」
天子はついにバクハツし、泣きながら走って行ってしまった。
「天子・・」
(このままじゃダメだって、あたしががんばらなきゃいけないって、
そんなことわかってる・・!!
でも・・どうしたらいいか、わかんないんだよ・・・)
ドンッ
「きゃっ・・」
天子は下を向いて走っていたため、誰かにぶつかってしまった。
(た・たおれる・・!!)
そう思い、ギュッと目をつぶった時だった。
グイッ
――腕を引っ張られ、なんとか助かったようだ。。
「ご・ごめんなさいッ ありが―――」
天子はお礼を言おうと顔を上げて気づいた。
「聖・・夜・・・」
天子は足がすくんで動けなかった。
「わりぃな、大丈夫か?」
「う・・うん」
そんな、簡単な言葉しか言えない。
「・・なんで泣いてんの?」
「えっ・・」
天子は聖夜に言われ、ハッとした。
「な、なんでもない!! 大丈夫だよっ」
涙をぬぐい、聖夜に心配させないように笑う。
「ならよかった。じゃあな」
聖夜はそのまま立ち去っていく・・。
「――聖夜っ!!」
天子は思わず、聖夜を呼びとめてしまった。
(あっ!? え、えーっと・・)
聖夜は何も言わず、天子を見ている。
「聖夜、 本当にあたしのことおぼえてないの・・?」
「・・あぁ。ゴメンな」
聖夜は答えた。
「・・そっか、じゃあね」
天子は言って、聖夜とは反対の方向に歩き出した。
ポロッ・・―――
そんな天子の目からは、キラリと光る一筋の涙がつたっていた・・。
「なんで、思い出せねぇんだよっ・・!!」
ガンッ
聖夜は頭をかかえ、壁をたたいた。
「くそっ・・」