5.悲しみの天子
夏休みに入った。
毎日がジリジリと暑く、天子も相当まいっている。
~♪
ケータイの着信。
「う~・・」
天子はのそのそとソファから起き上り、ケータイをとった。
「もしもーし・・」
『あ、天子~? 今から遊ぼ!』
電話の相手は花音。
『外にいるから~♪』
「え・・?;」
窓から外を見て見ると、花音と棗がこっちに向かって手をふっていた。
『早く準備してきてね~☆』
プッ・・ ツ―――
電話が切れた。
「い、いそがなきゃっ;;」
天子はバタバタと支度をし、階段を下りた。
ガチャッ
「おまたせっ!」
玄関から外に出ると、花音と棗が立っていた。
「よしっ 行こ!」
花音はそう言って歩き出した。
「わっ 待ってよ~っ」
「花音・・今日もハイテンションだな;」
天子と棗も、それに続いて歩き出した。
「まずは~」
花音は楽しそうにしゃべる。
「映画行こっかぁ(^∀^♪」
手を腰に当て、2人に向かって ビシッ! と言う。
「映画? ひさしぶりかも!」
「映画・・って、この前も見に行ったじゃねぇかよっ;」
棗が言うと、花音は
「え~? いいじゃん! あの映画ハマッちゃったんだも~ん☆」
と言って、ニヤリと笑った。
(あの映画って・・まさか・・・;)
棗はゴクッとつばをのんだ。
―――映画館についた。
「どれ見るのー?」
「まぁまぁ いーから♪ ついてきて☆」
「 ? 」
そういう花音に、天子は首をかしげたが、黙ってついていった。
(やっぱり・・!!!;)
棗は、もう一度つばをのみこんだ。。
「――とうちゃ~く!」
3人は、指定された席しすわった。
「なんの映画?」
天子が花音に訊く。
「フフフー♪ 見てのお楽しみ(`∇´)ノ」
(恋愛系かな? それともアクション?)
天子はワクワクしながらスクリーンをながめていた。
棗はただ1人、険しい顔をしていた。
とうとう映画が始まった。
「楽しみだね、棗♪」
そんな天子の純粋な言葉は、このあと、あっけなく終わるのであった・・・
――――――・・
映画がおわり、3人は近くの喫茶店でお茶をしていた。
「ね、おもしろかったでしょ~♥」
花音が言う。
「し・・死ぬかと思った・・・」
天子と棗は、ひどい顔をしていた。。
この映画は、最初っから最後まで、完全なホラー映画だったのだ。。。
「も~っ 天子はともかく、棗は男でしょ~」
「う、うるせぇっ;;」
花音と棗は、またそんな言い合いを始めた。
(なんだかんだいってやっぱり仲いいんだよね~この2人♪)
天子はそんな2人を見て、クスッと笑った。
「あっ そーいや聖夜って、昨日退院だったよなぁ?」
「えっ・・」
棗は、急にポロリとつぶやいた。
「そう・・だったかも!」
花音は、そういえば! という顔で言う。
「あたし・・聞いてない・・・」
「え!? マジで?」
天子が言うと、花音は、しまった、と言うようにいった。
(聖夜・・本当に、あたしのこと・・)
「ごめん、帰るね」
「天っ・・」
天子はさびしそうにニコッと笑い、店を出ていった・・。
(もうなんとも思ってないんだね・・・)
「どうしよう!? 天子・・すっごいショック受けたよね・・」
花音はあわてる。
「う~ん・・今はそっとしといてやったほうがいいんじゃねぇかな・・」
「・・うん・・」
棗と花音は、静かに話していた。
――――――・・・
「やっぱ・・来ないよね・・・」
天子は、暗い窓の外をながめていた。
「聖夜・・」
あのころは・・
よく聖夜が、窓から天子の部屋に上がり込んできていた。
聖夜の告白に返事をしたのも、ちょうどその時。
甘いキスをして、2人で笑いあった。
最高に幸せだった。
こんなことになるなんて、想像もしていなかった。
「聖夜・・どうして? どうしてわすれちゃったの?
好きっていったくせに・・あれもジョーダンだったの?」
天子の目から、涙がポロポロと流れ落ちる。
「こんなに好きなのに・・もうとどかないの?」
天子はその場に座りこんだ。
「もう・・あたしたち、終わりなの?」
聖夜――――――――――――・・
「天子・・」
「・・え?」
誰かの声が聞こえた。
天子が上を見上げると・・
「聖・・夜?」
優しく微笑む聖夜の姿があった・・。
「天子、泣くな! オレがいるだろ?」
「聖夜・・あたしのこと忘れちゃったじゃない・・」
天子はそう言って、うつむいた。
「ちゃんと知ってるぜ? 春咲天子、オレの彼女!」
聖夜はそう言って、ニカッと笑った。
いつもの、聖夜の笑顔で――。
「本当?」
「おう! 忘れるワケねぇだろ?」
「・・聖夜、体・・すけてる?」
「あぁ、もう行かなきゃな・・」
「やだっ 待って! 行かないで・・!!」
天子は、聖夜に抱きつこうと立ち上がった。
スッ・・
けれども、天子の手は聖夜の体を透きぬけるだけだった。
「なんで・・っ」
「じゃあ、またな・・」
「やだっ 行かないで・・ 聖夜―――――――――!!」
チュンチュン・・
「・・また、夢かぁ・・・」
天子はあのまま、泣き疲れて眠ってしまっていたらしい。
「聖夜・・」
天子は窓を開け、朝の涼しい風を浴びていた――。