4.全部、聖夜のせいなんだからっ!
「天子~ 今日は病院行かないの?」
放課後。
机にぐったりしている天子に、花音が話しかける。
「行かない~・・・」
「おいおい やめとけよ花音。
今 行ったってまた天子がキズつくだけだろ」
棗が花音に言う。
「なによ~ 何もしなかったら聖夜が思い出せないでしょ~!」
「・・そっかぁ」
棗はがっくりと肩をおとした。
「うぅ~・・」
天子も、相変わらずぐったり。
「よ~っし! こーなったらこの花音ちゃんが一肌脱ぎますかぁ!!」
「えっ 脱ぐ!?」
棗は、花音の言葉の“一部”に反応。
バシッ!!
そのせいで、花音に思いっきりなぐられてしまった。。
「さってと♪ じゃあ病院行ってきま~す☆」
花音はそう言ってスクバを持ち上げた。
「オ、オレも~!」
ボロボロの棗も立ち上がる。
「え~ アンタは来なくてもいいのに~」
「オレだって天子のために何かしたいんだぃ」
「ふぅ~ん?」
2人はそんな言い合いをしながら、教室を出ていった。
「はぁ~・・」
天子は、ため息をついた。
(2人があたしのこと想ってくれてるのはうれしいけど、なんか心配・・(‐‐;))
「ま、いっか・・もうどうでも・・・」
ガラッ
天子がつぶやいた時だった。
教室のドアが開き、男のコが1人入ってきた。
「あれ? 春咲サン」
それは、この前・・天子が日直の時に廊下でぶつかった、クラスメイト。
「え~と・・名前なんだっけ?;」
天子は申し訳なく言う。
「お前なぁ~・・╬」
「ゴ・ゴメンッ;;」
怒る男のコに、天子はあせる。
「・・新見雄人」
「え?;」
「オレの名前!」
「あ、ああ」
(・・え~っと、にいみ、にいみ、ゆうと・・)
なんとか憶えようと、何度も心の中でそう唱える。
「春咲さんって・・バカだろ。」
「はあぁ!?」
「人の名前くらい、さっさと覚えろよなっ!」
「なっ・・!」
天子はムカッときて、新見を見た。
(えっ・・)
笑っている新見の顔が、後ろから夕日に照らされ、キラキラしていた。
(聖・・夜・・?)
その笑顔は、どことなく聖夜に似ていた・・。
ポロっ・・
「・・え!? ちょ、こんぐらいで泣かなくても・・」
急に涙をこぼした天子に、おどろき、あせる新見。
「ゴ、ゴメンな・・」
「ちっ ちがうよ、なんでもないの・・! ごめんね・・」
天子はあわてて涙をふいた。
「じゃ、じゃあね!」
天子はスクバを持ち、教室を出ていった。
「なんなんだよ・・」
1人残った新見は、天子の出ていったドアを見つめてつぶやいた。
天子は廊下を静かに歩いていた。
(なんでかな・・顔も声も・・そんなに似てないのに・・・)
いつの間にか、もう昇降口の前まで来ていた。
「はぁ・・」
天子は靴をはき、ため息をつく。
「・・全部・・・聖夜のせいなんだからっ!」
そうつぶやいて、天子は学校を出た。
―――次の日・・
「天子~♪」
花音が、天子を呼ぶ。
「何~?」
天子は花音の方へかけよる。
「聖夜、ちゃんと天子のこと思い出そうとしてるみたいよ♪」
「えっ・・!」
「昨日、病院行ったら聖夜がずっと考えこんでたの。
どーしたのよ~って訊いたら、天子のこと考えてたって♪」
「・・///」
(聖夜・・どうしよう・・うれしいよぅ・・///)
「ムフフ~♪ 天子 顔が真っ赤♡」
「そ・そんなことっ・・!///」
天子は、顔がボッと熱くなるのを感じた。
「いいのよ、うれしーことなんだから♪」
花音はそう言って、笑った。
「うん・・」
天子も笑った。
「なんだよ2人とも~! オレも仲間に入れろよな!!」
そこに、棗がやってきた。
「え~ どうしよっかな~ ねぇ 天子?」
「う~ん、どうしよ~?」
花音と天子は、意地悪く言う。
「ちぇっ つめてーの!」
「ウソウソ、あのね・・」
花音は、さっきの話の内容を、棗にも話した。
「あぁ~ 昨日のことか☆」
棗も納得。
「花音ちゃんのお手柄お手柄~♪」
「オレだって行ったぞ!」
「アンタは何もしてないでしょ~」
「お前だって何かしたってわけじゃねーだろ!;」
また、花音と棗の言い合いが始まった。。
(仲いいなぁ・・^^)
天子はなんだか、ほほえましい気分になった。
「ん? そんなにじーっと見ないでよ、天子~;」
「いいから、続けて♪」
天子は笑って言った。
「「 ? 」」
そんな天子に、花音と棗は首をかしげた。
――――――・・・
聖夜は、目が覚めおちついてから、他の患者もいる病室に移されていた。
退院は、もう少しとのことだった。
(はぁ・・なんで憶えてねぇんだよ・・・)
聖夜も聖夜で、よく天子のことを考えていた。
思い出すことはなくても――。
ガラッ
「あーあっ! せっかく退院できたのに~!」
病室のドアが開き、女のコの声が聞こえた。
「もう、梨羽ちゃん! おとなしくしてないからよ」
看護師さんの声も聞こえる。
女のコは歩いてきて、聖夜の向かい側のベッドにすわった。
「ほら! 暴れちゃダメよ~」
「わかってるよー」
看護師さんと、楽しそうに会話をしている。
小さいころからこの病院で入退院を繰り返してきた梨羽は、この看護士さんと、
とても親しいようだった。(2話参照)
「じゃあ、私は仕事に戻るから。安静にしてなさいよ~!」
「はーいっ♪」
看護師さんは、病室を出ていった。
「つまーんないなー」
梨羽はベッドに寝転び、手足をジタバタさせていた。
が、イキナリすくっと起き上り、聖夜の方を見た。
2人の目が、バッチリ合う。
「――あなた、高校生? 高校生だよね!?」
梨羽が、目を輝かせる。
「え、あ、あぁ・・;」
聖夜が応えると、梨羽はますます目をキラキラさせる。
「どこの高校? もしかして花岡!? だったら一応私もなんだよ!!」
梨羽は聖夜の応えなんか気にせず、ペラペラとしゃべる。
「おたがい、早く退院できるといいねっ♪」
「・・あぁ、そうだな・・・」
そう言って笑いかけた梨羽に、聖夜も笑った。