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3.記憶

「――はぁっ はぁ・・」

天子は走る。

向かっているのは聖夜の病院―――。


――数分前・・


天子はスクバに教科書などを入れ、家に帰る支度をしていた。

そして、のんきにバッグのファスナーを閉める。

と、その時・・・


 ~♪


ケータイの着信。


「 はい 」

『あ、天子ちゃん!?』

天子が電話に出ると、ハスキーボイスの女の人の声が聞こえた。

――――聖夜のお母さんだ。


『今から病院に来られる?』

「え、はい そのつもりです」

『よかった! さっきね、“聖夜の意識が戻った”のよ!』

「えっ・・!!」

天子は一瞬、夢なのではないかと思った。

信じられなかった。


 “聖夜の意識が戻った”


何度も何度も頭の中でリピートした。

『それじゃあ、待ってるわね』


プッ・・ ツーツ――・・・


電話が切れた。


天子はスクバを片手に教室を飛び出した。






(早く行きたい・・早く会いたい・・聖夜・・・!!)




走るのはあまり得意じゃない天子だが、1分でも、1秒でも早く

聖夜に会いたいという気持ちが、天子の足をどんどん速めた。


「天子ーっ!」

後ろから、花音と棗が追いかけてきているのに気づき、天子は足を止めた。

「どうしたの? そんな急いで・・」

追いついた花音が言う。

「病院行くんだろ? ・・まさか聖夜に何かあったのか!?」

棗も言う。

「あのねっ・・聖夜の意識が戻ったって・・!!」

天子は言った。その声はかすれた涙声だった。

「マジ!? じゃあ急がなきゃだよね!!」

「よしっ 行こーぜっ!」

「うんっ・・!!」

3人は再び走りだした。







―――――ガラッ



「聖夜ッ!!」

天子の声で、病室にいた4人の視線がこっちに向く。

それは、聖夜の両親に双子の兄、流衣。 それから・・ 聖夜だった。

聖夜はベッドの上にすわっていて、顔だけがこっちを向いていた。

天子は聖夜に駆けよった。





ギュッ・・





天子は、聖夜の胸に飛び込んだ。

聖夜を抱きしめる天子の目からは、涙があふれていた・・。


「よかった・・あたしっ 聖夜がこのままあたしの前から

 いなくなっちゃったらどうしようって・・こわくて・・・」


「・・・」




グイッ




聖夜は、天子を自分の体から引き離し、顔をじぃっと見つめた。


「聖夜・・?」


天子は不思議に思い、聖夜を見つめ返す。

すると、聖夜も不思議そうな顔をし、そして、ゆっくりと口を開いた。






「おまえ・・誰?」







( えっ・・――――――!? )






「ちょっと聖夜!! それってひどくない!?」

「おまえ・・っ」

花音の怒った声や、棗のおどろいた声がうっすらと聞こえる。


( なに・・ウソ・・? )



ドクン・・・ ドクン・・・



「わりィ・・マジで憶えてねぇっつーか、

 わかんねぇんだ・・・ 棗の女か?」

「は・・!? おま・・っ マジで天子のことわかんねーの!!?」

棗は顔をしかめて言う。

「天子・・?」

「そーだよ!! 春咲天子! ホントに憶えてないの!?」

花音も聖夜に言う。

「・・・わかんねぇ・・」


「・・っ」




ダッ・・



天子は病室を飛び出し、走った。

どこに向かっているかは自分でもわからない。

でも、足が止まらなかった・・。




パンッ・・


「サイテー!!

 あんた・・天子がどんな思いで毎日病院来てたと思ってんの!?

 聖夜の目が覚めるのを誰よりも願って・・ずっと待ってたんだよ!?

 なのに・・・こんなのヒドイよっ!!」

花音は聖夜の頬を思いっきりビンタし、大声でそう言った。


ダッ・・!!


そして、天子の後を追いかけた。


「マジかよ・・;

 聖夜、オレのことはわかんのか?」

棗は聖夜に訊いた。

「あぁ、棗・・と、さっきのヤツ・・花音はわかる・・

 けど・・アイツ・・・あぁくそっ・・

 わかんねぇよ・・なんでだ・・!!」



( アイツはいったい・・・――――? )









――――・・・



「天子っ! いた!!」

「・・花音・・・」

天子は、病院の中庭の、隅にあるベンチで泣いていた。

「天子・・」

花音は天子の隣にすわった。

「無事でよかったけど・・信じらんない!!

 どーして天子のことだけ憶えてないワケ!?

 ヒドイよっ!!!」

「・・花音、あたしは大丈夫だよ・・・」

「天子・・?」

「だって、聖夜が無事だったんだもん!!

 こんなにうれしいことってないよ!」

そう言って、天子は笑った。


ぺちッ


「 たっ 」

「天子! ムリするなって、このまえ言ったでしょ!!

 強がったって、あたしにはお見通しなんだからね!」

花音は、天子のおでこを軽くたたいて言った。

「いーっぱい泣いちゃっていいんだよ。

 あたしは天子の味方なんだから!」

「・・花音っ・・うっ・・うゎ――・・ん・・・」


天子は花音の胸の中で泣きだした・・。




( 聖夜・・本当にあたしのこと憶えてないの・・?

   ぜんぶ・・ぜんぶ忘れちゃったの・・・?

               聖夜・・―――――――― )











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