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マスク  作者: Aju


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8 パーティー

 会場はユウノシンの「自宅」からさほど遠くないところにあるパーティーサイトだ。複数人で「飲食」もできる特殊なアプリを備えたメタ内施設である。

 まだ少し時間があったので、最初に行った広場に行ってみた。ダンスサークルの人たちが集まっていたあの広場だ。

 でも、そこにもうあの人たちはいなくて、別の誰かが等身大くらいの立体絵画を描いていた。

 あんまり上手くないな——。と、横目で見ながら通り過ぎる。


 ナイアスって言ったっけ。あの子ともメルアド交換しておけばよかったかなぁ——。

 でも、よくここに来てるって言ってたよね。じゃあ、また会えるよね。きっと。



 会場に着いてバーチャルアンドロイドに案内された部屋に入ってみると、天井から壁からキラキラした飾りがいっぱい付けてあって、正面に「GENPUKUおめでとう! レン♡」と書いてあった。

 空中をふわふわと漂っている不思議な生き物みたいな立体絵画は、たぶんサクラの作品だ。あいつ、絵が上手かったもんなぁ——。

 わあっと拍手が起こった。


 気恥ずかしくて、顔が赤くなる。・・・が、レンはそのまま表情を連動にした。

 パーティーを企画してくれた親しい友人たちに、しょっぱなからぎこちない固定表情はないだろう。

「ほらほら、レン。こっちに来て。前に。」

 一応、招待状に参加メンバーそれぞれのコモンでのアバターネームと顔は添付されていたから、誰が誰かは概ね分かる。

 が、人数が多いので、一応間違えないようにマスクの右脇にリストを表示しておく。呼び間違えたら、相手はちょっと寂しい思いをしちゃうだろう。


 レンは新しいアバターの顔だけは事前に幹事のリオンに送っておいた。そうでないと、入ってきたのがレンだと誰にも分からないからだ。

 アバターネームは「会場で発表して」とリオンが言ったので、まだリオン以外誰も知らない。

 ちなみにリオンのコモンでのアバターネームは「カイト」だ。別に「リオン」でも響きいいのにな——とは思うが、そこはレンにも分かる。

 GENPUKUしたんだぞぉ——! というのを実感する上でも、それまでとは違った響きの名前にしたいものなんだ。

「はあい、はい。それじゃあ、レンのアバターネームを発表してもらいまぁっす!」

 カイトが大袈裟に片手をレンの方に伸ばして、少し袖の方へ下がった。


 レンは照れながらも表情は連動にしたままで、

「新しいアバターネームは、『ユウノシン』と言います。よろしくお願いしまーっす!」

と言って、体を2つに曲げるくらい深くお辞儀をした。

 わっと拍手が起こって、クラッカーの弾ける音が続いた。

「ユウノシン。なんか、かっけ〜!」

「江戸ネームみたい。」

 さあ、大変だ。これからみんなのアバターネーム間違えないように挨拶しなきゃ。


「レ・・・ユウノシンのお父上からも少し援助もらったからねぇ——。今日はちょっと贅沢な食べ物も用意してあるよぉ。中央のテーブルから好きなもの取って食べてってねー♪」

 カイトが見事に司会をやってのける。あいつ、こんなスキルどこで身につけたんだよ?

「ほら、これ、ユウノシンのアプリ。みんなで会費出し合ってるから、おまえは今日は好きなだけ食べていけよ。」

「ありがとう。」

 ユウノシンは、それを受け取って手のひらに吸収する。


 もちろん、メタの中で直接食べられるわけじゃない。

 テーブルに乗っているのはあくまでも「サンプル」であり、実物はリアルの自宅のデリバリーポストにドローンで配達され、各部屋のキャリーダクトのトレイに出てくる。

 その所要時間、長くても90秒。

 このシステムがあるから、こういうパーティーサイトの運営が可能になるのだ。


 レンはフェイスマスクの口の前だけを上げて、出てきたカップの唐揚げを頬張る。

 うんま!

「極上の鶏肉じゃん。これ——。」

「だろ?」

 カイトが自分で作ったわけでもないのに自慢する。

 まあ、予算があったとはいえ、幹事の手柄でもあるよな——。


 カイトはココナツジュースのグラスを持っている。これ、グラスで来るのかな?

 こういうシーンでは、アバターの口は厳密には連動していない。フェイスマスクを上げているからだが、食べたり飲んだりしている間はアバターの口はそれらしく自動で表示されている。

 ぎこちないっていう人もいるようだけど、口の中でぐっちゃぐっちゃ噛んでる様子なんか表示したら、キモチ悪いだろう。——とユウノシンは思う。


「食べて」とカイトは言うが、入れ替わり立ち替わりいろんな人がやってきて話しかけるので、ユウノシンは挨拶の方が忙しい。

 えーっと、この子は・・・アスラン。ジュニアネームはキリか。

 えっと、こっちは・・・スミレ。あ、サクラ?

「あ、えっと、あれ描いたの、スミレ?」

「うん・・・。どう?」

 少し頬を赤らめる。

「いい! すげー、いい! 一段と上手くなってない?」

 リップサービスが全くないって言えば嘘になるけど、でも、本当にいいんだな。なんていうか、漂ってるだけなのに、雰囲気あるんだ。


「勇ましい名前つけたんだな。」

 えーっと・・・・。こいつ、誰? 金髪で、すらっとした長身で、この席で張り付いたみたいな微笑の固定、って。

 リストにはない。

「誰?」

輝人きらんとってんだ。お見知りおき。」

 表情が微笑のまま全く変わらない。なんかキモチ悪いやつ・・・。

「ってか、サトルだよ。覚えてるだろ? 友達のサ・ト・ル。なんで、メルアドくれなかったの?」

 肩に、ベタッという感じで手を回してきた。思わず体を引くが、捕まってしまう。

 ユウノシンは急いで表情を曖昧な微笑に固定した。


 ジュニアを先に卒業する時には、誕生日が遅くてまだ残る友達にコモンでのメルアドを教えるのが普通だ。もちろん、全員じゃない。気に入った友達にだけ。

 レンは誕生日が遅い方なので、そうして教えてもらったメルアドにはジュニア卒業の2週間くらい前に新しいコモンでのメルアドを送信してある。

 まあ、「礼儀」ってやつだが、中には送ってない相手もある。

 これを機会に縁を切りたいヤツってのもいるんだ。その1人がこのサトルだった。



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