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マスク  作者: Aju


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7 メルアド交換

 ユウノシンはミズホさんとけっこう森の中を歩いた。

 あのバードウォッチングの人と違って、ミズホさんの植物や小動物の説明は熱があって、しかもキレが良くて分かりやすく、新しい知識もいっぱい入ってきた。

 理科の授業とは全然違う。


 ミズホさんは、いろいろな植物や動物を見かけるたびに、その特徴や生態について簡潔に分かりやすく説明してくれ、そして、それが棲息している「外界」の魅力について語ってくれた。

「ユウノシンくんもさぁ。」

とミズホさんは言う。

「一度わたしと外界の実物を見に行かない? 君のリアル住居から、そんな遠くないところで設定してあげるからさ。」


 ユウノシンはすぐには答えられない。

 それはGENPUKUしたてのユウノシンにとって、強烈過ぎる「お誘い」だった。

 いきなり「セックスしましょう」と言われたようなものだ。まだアバター同士のキスだって経験ないのに・・・。

 自称20代のお姉さんと・・・?

 生身の身体からだで待ち合わせ・・・?


 病院でお医者に体を診てもらうのとは、ワケが違うぞ!?


「あ・・・あの・・・」

 ミズホさんは笑い出した。

「そりゃそうだよね。GENPUKUしたばかりで家族でもない女の人からこんな誘い受けたら、そりゃあビビるよね。」


 ミズホさんは少し距離をとった表情をした。これもたぶん「連動」だ。

「わたしみたいな仕事に就こうっていうんなら別だろうけど——。ユウノシンは将来の希望とかあるの?」

 ミズホさんは話題を変えた。

「あ、一応・・・、今は、ダンサーになりたい・・・かな・・・と。」

「へえ!」

とミズホさんが目を輝かせる。

「ダンス、上手いの?」

 そうマトモに正面から聞かれると、返事に困る。

「はい」なんて答えたら、思い上がってると思われるじゃない。


「ええ、まあ・・・。ジュニアでは、そこそこいい成績もらってたんで——。今んとこ、他にできそうなこと、ないし・・・。」

「ふーん。」

と、ミズホさんがイタズラっぽい目をする。

「やって見せてくれない? ちゃんと投げ銭払うから。」

「ここで?」

「最高の舞台だと思わない? 森の中だよ。観客が1人で悪いけど——。その代わり、投げ銭はずむよ?」


 ユウノシンはあたりを見回してみる。

 おあつらえ向きの小さな池があった。水は澄んでいる。


 この水の上で踊ったら面白そう。

 と、ユウノシンは思った。

 思ったら、もう内側から湧き上がってくる表現欲求を抑えることができなくなった。

「いいよ。」

 ユウノシンは、ふわっと岸辺の水面の上に跳んだ。水面に足先をつけて立つ。

 身体からだの浮遊を調整する目盛りを0.9程度に設定している。これでユウノシンの身体からだは、コモン・メタの世界に対して羽毛のように軽くなっている。

 これが、水面に足先だけつけて立つ、ということを可能にしている。

 

 あのダンサーみたいに、水面を利用して「重力」を表現してみよう。

 とユウノシンは考えていた。


 それを実現するためには、浮遊の係数を下に落ちる時には0.2くらいにして普通に体重があるように見せ(0にしないのは軽やかさを演出するためだ)、水面に触れた途端、0.9に戻して水面に立つ。

 踊りながらの調整だからかなり難しいが、ゆっくりした動きなら可能だろう。

 まあ、失敗しても見てるのはミズホさんだけだし。ニューGENPUKUだって知られてるんだし。恥かいても、今さらだよね。

 ユウノシンは意を決した。


 楽曲にはクラシックを選ぶ。「惑星」の中の「ジュピター」だ。このゆっくりとしたテンポなら、ユウノシンの今の実力でも重力を感じさせるダンスは踊れるはずだ。


 ゆっくりとした音が流れ始め、ユウノシンの足が、ぽん、と水面を蹴った。

 水面にやわらかく波紋が広がった。




 最後に、水面に跪くようにして両手を広げたユウノシンに、ミズホさんが割れんばかりの拍手を贈る。

「すごい! すごいじゃない! 何が、そこそこ成績よかった、よ!? ジュニアの何かの大会で優勝とかしてるんでしょ?」

「あ・・・、え・・・と、まあ・・・その・・・」

「賽銭箱、どこにあんの!?」

 ユウノシンは、それを出し忘れて踊っていたことに、今気がついた。カーソルでクリックして、胸の前に取り出して両手で持つ。

「忘れてた・・・。」

 あっはっは、と豪快に笑って、ミズホさんはその中にさらっと2000トークンを入れた。


「え? ちょっ・・・」

「何? わたし、感動したんだから。小さなホールのチケット代くらいは出させてよ。十分、それだけの価値あったよ。」

 ユウノシンは真っ赤になった。

「かわいい———!

 ミズホさんがまた嬉しそうに笑う。連動だ。

 ユウノシンも連動のまま、赤くなっている。

 この人の前だと、なんかひどく素直になれる。親に対してより素直な表情見せてるな——と思うけど、それが不思議と心地よい。


「あっちのプレートも行ってみる?」

と、ミズホさんが誘ったが、ユウノシンはかぶりをふった。

「行ってみたいけど、夕方から予定あるんだ。ジュニアの友達で先に来てる子たちが、ニューGENPUKUのお祝いパーティーやってくれるって——。」

「そりゃ、すっぽかすわけにいかないね。残念。」

 ミズホさんはそう言って、右手を出して握手を求めてきた。ユウノシンもその手を握り返す。

「また会えるといいね。」

「はい。また森を案内してほしいです。」

「じゃあ、メルアド交換しよ? 暇のある時、連絡するし。」

「あ、はい。」

 ユウノシンはまた少し赤くなった。でも、連動であることは変えない。


 それぞれ、手を近づけてメルアドを立ち上がらせる。

 それがお互いの手のひらに、すっと吸い込まれるのを見届けて、手を振って別れた。


 今までいた森を見下ろして中空を会場の方に飛びながら、ユウノシンは自分の顔がにやけてくるのを意識した。

 カーソルを合わせて「普通」の表情に固定する。


 なんか。

 初日から、素敵な経験できちゃった——。



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