表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マスク  作者: Aju


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/52

6 森

 緑の多いジャングルみたいなプレートは、ユウノシンの『自宅』から東方向へ2プレート飛んだところにあった。

 建物がほとんどなくて、本当に森ばかりだ。どうしてこんなプレートを造ったんだろう?

 自然観察? っていうか、メタは『自然』じゃないし・・・。探索できる生物辞典みたいな場所なのかな?

 ジュニア・メタにも『生物園』はあったよね。リアルでは絶滅した動植物を観ることのできるブースもあったけど、コモンではそれをプレート規模にしちゃってるんだろうか?


 ユウノシンはとりあえず、森の中にある瀟洒な建物に降りてみることにした。建物の展望デッキみたいな場所に、人が何人もいる。ユウノシンもそこに降りた。

 それぞれに何かを指差したりしながらおしゃべりして、眺めている。

「何が見えるんですか?」

 ユウノシンは近くにいた人に聞いてみた。年齢のよくわからないアバターだけど、男性っぽい。

「ああ、あなたはここに来るのは初めてですか? このデッキは、自然公園の中ではわりとバードウォッチングに向いてるんですよ。」

 しゃべり方やアバターの趣味などから、中身はけっこう年配の人らしい——とユウノシンは推測した。

「ほら、あそこ。ズームしてごらんなさい。シラコバトがいます。」

 ユウノシンはその人が指差す方を見て視覚をズームしてみるが、どこに何がいるのかわからない。

「ほら、あそこ。ちょっと他より背の高いコナラの木の梢付近の枝に止まってます。」

 わからない・・・・。ちょっと高いコナラの木ってどれ? 全部緑だ・・・。


 ユウノシンが困っていると、その人はユウノシンの頭を両手で挟むようにして視線の方向を固定してくれた。

「あ、いた! なんか、白っぽい鳥?」

「そうそう、それ。野生のものはリアルではもう絶滅しちゃったんじゃないかな。」

 リアルなんて言葉を普通の会話で使うところをみると、やっぱりけっこう年配の人なのかな?

「あ、ほら。あっち。ヤマガラがいます。」

 ユウノシンの首を別の方向に、グキ、っと向ける。


 向けられた方向で視覚をズームしてみると、小さめの鳥が1匹枝に止まってせわしく首を動かしていた。

 オレンジ色のお腹で羽根はグレー、頭はパトカーみたいな白と黒のツートンだ。

「別に珍しい小鳥じゃありませんがね、雀なんかと同類で。でも、野鳥の中ではけっこう人馴れするんですよ。うまくすると手に乗せた餌を食べてくれますよ。鳴き声も可愛いですよ。指向性マイク向けてごらんなさい。え? 持ってない? あなた、指向性マイクのアプリくらい、高いもんじゃないんだから買いなさいよ。」


 ユウノシンは別に鳥に興味はない。始まってしまったこのウンチクをどこで抜けようかと困っていたら、隣で声をかけてきた女性がいた。

「ここで見てるのもいいですけど、森の中を歩くのもいいですよ。ご一緒にどうです? 小さな渓流もありますよ。」

「あ、それ、行ってみたいです。」

「じゃ、こっち。」

「あ、それじゃまた。いろいろ教えてくれてありがとうございましたぁ。」

 ユウノシンはホッとした表情を見られないようにカーソルを笑顔に合わせて、後退りながらバードウォッチングの人にぴょこんとお辞儀をした。

「またいつでもいらっしゃい。私はたいていここにいるから。」

 バードウォッチングの人は、満足そうな笑顔で片手を上げた。絶対年配者だ、この感じ・・・。そういえばアバターは若者っぽいけど、ファッションはなんかダサい。



 階段を下りながら、その女の人は話しかけてきた。

「よかった? なんか困ってたみたいだったから声かけたけど——。」

「あ、はい。助かりました。」

 ユウノシンは表情を連動にして、素直な気持ちを表す。階段をポンポン下りるそのリズムからすると、この人はアバターの見かけどおり、わりと若いのかも——。

 ユウノシンはハルプの言ったことを思い出して、自分なりに推測してみる。


「アバターの見かけはあれだけど、あの人は絶対年寄りだよ(笑)。あのクドさだもん。あ、わたしはミズホ。あなたは?」

「僕は、ユウノシンです。」

「これはまた、立派な名前だね。あ、いやいや、粋だよ。」

 後の方はフォローかな? でも「粋」と言われたのは、ちょっと嬉しかった。


「強引に誘っちゃったみたいだけど、よかった? 森の散策、興味ある? ウンチクから抜け出すために利用しただけでも怒らないよ?」

 施設を出た石畳の上で、たぶん連動らしい笑顔でミズホはふり返った。

「あ、大丈夫です。僕、ここ初めてなんで——。」

「初めてで、ああいうのに捕まっちゃったわけかぁ——。」

 ミズホが影のない笑顔を見せる。それから、ふぅ〜ん、という表情をした。

「ユウノシンさあ、違ってたらごめんね。あなた、ひょっとしてニューGENPUKU?」

「あ、え・・・と、はい、そうです。」

 ユウノシンは素直に認めた。なんだか、この人相手にカッコつけてもしょうがない気がしたのだ。

「あ! 素直! やりぃ! ラッキー♪」

 ミズホは胸の前で手を合わせて、ピョンと跳ねるようなしぐさをした。それから右手をひょいとユウノシンの左手の前に出す。

「お姉さんが森の中を案内してあげる♪ デートしよ? デート♡」

 そう言って、戸惑っているユウノシンの左手を差し出した右手で招く。

 ユウノシンがおずおずと左手を上げると、それをふわっとつかんだ。暖かい。

「イヤだったら言ってね。セクハラになっちゃうから。」

「あ・・・、いえ・・・、別に、その・・・」

 ユウノシンの顔が真っ赤になったのが、マスクの左脇のモニター表示で分かった。

「きゃあー! かわいい! ちゃんと連動のままでいてくれるんだぁ! もう、サイコー! ニューGENPUKUの男の子と森のデートなんてぇ——♡」


 これまで、こんな大人、見たことないんだけど・・・。大人・・・なのかな?

「あ、そうか。私も言わなきゃ、不公平か——。でも、20代ってことで勘弁して。詳細年齢はヒミツ♪」

 歩きかかってから、ミズホはふり返ってそう言った。

 しっかり大人じゃん・・・。


 それからつないだ手を振りながら、はしゃぐようにして歩き出した。

 なんだか幼稚園の遠足みたい・・・。


 しばらく行ったところでミズホが近くの岩を指差す。

「ほら、これ。クジャクゴケっていうの。孔雀が羽を広げたみたいできれいでしょ? この辺にふさふさしてるのがシノブゴケ。上から見てるだけじゃ、こういうの見えないんだよ。あ、鳥ウンチクから苔ウンチクに拉致直されただけ、とか思ってる?」

「あ、いえ・・・、そんなことは・・・。きれいですね。」

 表情のカーソルを合わせる暇がない。


「湧き水があるんだ・・・。」

 岩の割れ目からちょろちょろと透明な水が流れ出し、岩の表面をつたって苔を濡らしている。

「できる限り本当の自然に近い状態を再現してるからね。ジュニアにも『自然園』ってあったでしょ? ここはまあ、あれのでっかいやつだよ。プレート2つに渡って作られてる自然観察園だね。

あ、ほら、さっき見てたヤマガラがいる。」

 ミズホが指差す方を見ると、ズームしなくてもオレンジ色のおなかをした小鳥が枝にいるのが見えた。


 ツツピィー、ツツピィー・・・。

 指向性マイクなしで鳴き声が聞こえる。


「下から見るとまた違うでしょ。」

「うん。」

「ほらここにはスナゴケがある。山ミツバもある。これは食べられるよ。」

「詳しいんですね。」

「わたし、生物環境学やってるの。こういうデータは、わたしたちみたいなフィールドワーカーが実際の自然から集めてきた生データから作るんだよ。」

「フィールドワークって・・・、ミズホさんは外の世界に行くんですか?」

 ユウノシンは少し驚いた。

「うん。わたしはだいたい、1ヶ月のうち半分くらいは外にいるかな——。21世紀の初め頃に比べたら貧弱になったとはいっても、まだ実際にこういう『自然』はあるからね。そういう所に行くと、わたしはマスク取っちゃうんだ。他人ひとに会うこともないし。気持ちいいよぉ。」

 ユウノシンはミズホさんがマスクを取ったナマ顔でいるところを想像して、顔を赤らめた。

 とはいっても、具体的に想像できるわけではない。他人の肉顔にくがんなんて、幼少期に父母のそれを見る以外に見ることなんてないんだから——。


 また少し手をつないだまま歩くと、ミズホさんが

「あ。」

と言って足を止めた。

 また何か珍しい生き物を見つけたのかと思ったら

「サブワールドがある。」

と言って指を差す。

 指の先に視線をやると、小さめの洞窟があって、その入り口付近におしゃれなアイコンをあしらった表示マーカーが浮かんでいる。

 クリックしてみると『ヨガ教室』という文字が表れて、その下に概略を説明する動画が表示された。

「ヨガ教室だね。他にもいくつかあるよ。この森には——。セラピー系がメインだけどね。森林浴サークルとか、お魚セラピーとか・・・。許可さえ取れれば、こういう場所でもサブワールドは作れるんだ。」

 ミズホさんの説明に、ユウノシンは(やっぱりコモンは違うなぁ)と思う。ジュニアの『生物園』ではそんなこと考えられもしない。


「少し遠いけど、ダンジョンのサブワールドもあるんだよ。」

「え? そんなのも許可出るんですか?」

「密林系な。ジャングルの中で魔物と戦うやつ。」

 そう言って、ミズホさんは笑う。

「行ってみる?」

「いや、いいっす。」

「あれ? 男の子ってそういうの好きなんじゃないの?」

「いや、まあ・・・。嫌いじゃないんですけど・・・。なんか、飽きちゃってて。今は、なんか自分が表現する方が面白いなぁ——って。」


 ミズホさんは、なんだか新しい苔でも発見したみたいな顔をした。

「へえー。今の若い子は、そうなんだ・・・。」

とオバサンくさい感想を言う。

「いや、みんなそうかどうかは分かんないです。僕がたまたまそうなだけかも・・・。」

「いや・・・、でも、たしかに言われてみれば、ああいうダンジョンとかで戦ってる人って、中年が多いって言うわ・・・。そのくらいの年齢の人たちって、ちょうど子どもの頃RPG燃え上がってた時代だもんね。なんか、その情熱がそのまんまになってるって感じはあるなぁー。」

 ミズホさんは、ちょっと呆れたような笑顔を見せる。この人はユウノシンが見る限り、一度も表情固定のカーソルを使っていないように見える。

「わたしたちの世代になると、たしかに彼らよりは熱は冷めてるし・・・。まあ、男の子たちはやんないわけでもないんだけど・・・。ユウノシンの世代になると、ジュニアで飽きちゃうのかぁ——。

う〜ん。世代間ギャップを感じると、自分の年も感じちゃうなぁ・・・。」


「あ、いや、だから・・・、僕だけかもしれないですから・・・。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ