5 家の外
フェイスマスクだけをONにして、レンは昼食のメニューを探した。
家の食品庫の中にミートバーガーを見つけて、それをクリック。もちろん、マルチクッカーで温める設定に。あと、オレンジジュースもクリック。今のところ手持ちトークンは1220だから、もう少し余裕ができるまで外食は控えることにする。
まずは、コモンで面白そうなことや、入ってみたいサブワールドのためにトークンは上手に使いたい。
バーチャルアンドロイドがポーズをつけて、キャリーダクトのカバーが開く。開いたダクトカバーの上にほかほか湯気の立ったハンバーガーと氷の入ったオレンジジュースが滑り出してきた。
レンは口の前だけフェイスマスクを上げて、ハンバーガーを頬張り、オレンジジュースで流し込む。
フェイスマスクを脱がないのは、これだけ食べたらまたすぐにコモン・メタにINするつもりだからだ。時間が惜しい。
ハンバーグを頬張りながら、さっき「ハルプ」がホールのショップで買ってくれたダンサーのDPにざっと目を通す。
あ、けっこうすごい人なんだ。わりと小さな劇場やサブワールドにこだわってる・・・。そのスジじゃけっこう有名なアーティストらしい。
じゃあ、2000はお値打ちだったのかな?
ターニャっていうんだ。女性っぽい名前だけど、胸は出てなかったし、スレンダーではあったけど男性っぽい体型だったと思うし、わかんないよね。DPには性別書いてないし——。
さて。
レンは再びスーツを起動させて、ユウノシンになる。
コモン・メタでの「おしゃれな自宅」のドアを開けて、外に飛び出す。
せっかくGENPUKUしたのに、家の中に閉じこもってるなんて考えられない。レンは活動的な性格だった。
ハルプは午後から仕事をするから「リクルス」になると言っていた。
レンはリクルスの顔を知らない。だからどこかであっても分からない。向こうは分かるだろうが、仕事中には声をかけてはくるまい。
パパの仕事は、メタのベースを支えるプログラムの監視やメンテナンスをするエンジニアだと聞いていてから、たぶん仕事中はこの世界のどこかにあるオフィスにいるんだろうけど。
それにチームでやるんだから、仕事中あまり勝手に抜けたりはできないだろう。
とりあえず、午後からは1人で自由!
ユウノシンは、自宅のあるこのプレートの中にあるサブワールドをチェックしてみることにした。
住宅街がメインだから、あまり危険なサブワールドはないと思うけど、ひょっとしたら、塾だの学校だのっていうツマンナイものしかないかもしれない。
まずは、何があるかをチェックしてから、値段と面白そうレベルを秤にかけて入ってみたい。
ミドルスクールは無料だし、このプレートにあることも分かってるけど・・・。その申し込みは来週にする。
1週間はGENPUKU休み!——♪
トークンが足りないようなら、またあの広場にダンスをしに行けばいい。
ターニャを観た今の僕なら、さらにワンランク動きのレベル上がってるはずだし、投げ銭もそこそこ稼げるはずだ。
ユウノシンは地を蹴って、大勢の人が行き交う空域へと舞い上がった。
ゆっくり飛びながら、マップを開いて何があるかを検索する。
眺めている景色の上にマーカーが表示されて、それぞれクリックすればその概略の説明が現れるのはジュニアの場合と同じだ。
ただ、コモンの場合はそれにCMがくっついてきた。たいていは動画で、それも目を引くためにか目まぐるしく動いたり作り込みがスゴかったりする。
音声はうるさいので小さめに絞ったが、動画は面白いので次々にマーカーをクリックして観ていった。
面白い! 面白い! これはCMだけでもしばらく楽しめそうだ。
・・・・が、そのうち目が回って気持ち悪くなってきた。
ぶへぇ——。面白いけど・・・、慣れないとキツいや・・・。コモンではきっと、こんなふうにCMばかり連続表示して見るなんてことしないんだろう。
ユウノシンは、自分がニューGENPUKUなので、もの珍しさについついやりすぎたんだろう、と少し内心恥ずかしくなった。
ユウノシンはマーカーのクリックをやめて、いったん地上に降りた。
少し休んでから、公園でも散歩しようかな。そういえば、緑がいっぱいのプレートがあったな——。あそこは、どんな場所なんだろう?




