47 新人潰し
「はっ! うはははははっ!!」
ナイアスが昨夜ユウノシンに教えてもらった技術を使って昨日ダメ出しをくらったパートを踊った後、「どうですか?」と恐る恐る訊いてみると、ハルミオはものすごい形相で(そう形容するしかない)近寄ってきて、ナイアスの頭をぽんぽんした。
こ・・・これは・・・?
褒められてるのかな? それとも、バカにされてるんだろうか?
「うはは! おまえを拾って正解だったぞ! 宝石の原石だとは思ったが、こりゃあ!」
そう言ってまた、悪魔のような笑い顔を見せた。
「どデカい宝石だったぜ! バケモノ級だ! よく一晩でこんなこと考えついたな!」
「あ・・・いや・・・、その・・・。これ、わたしが考えたんじゃなくて・・・、教えてくれた人がいて・・・。」
ハルミオの目が、ギラっと光った。
「誰だ、そりゃあ? そんなスゲー振り付け師と知り合いなんか? 有名なヤツか? いや、そんなはずねーな。有名どころはだいたい知ってるが、一晩で新人のダンスをここまで進化させるようなヤツはいねえ。——ってことは、今はまだ野にいるんだな!?」
ハルミオは顎に手を当てて、少し考えていたが
「そいつをうちに迎えることはできないか? ナイアス。」
シロノアンさんが、顔面蒼白になった。
「あ・・・あの・・・。」
ナイアスはシロノアンさんをチラ見しながら、弁解する。
「ふ・・・振り付け師じゃなくて、ダンサーです。同じダンススクールの友人なんです。アドヴァイスくれたのは・・・。」
とりあえず『友人』ということにしておいた。本当は、カレシなんだけど・・・。(*´艸`*)
ハルミオはまたナイアスの頭をぽんぽんとして、(はぁ〜ん)という顔をした。
「このパートはこれでOKだ。 おい、おまえら! 新人に先越されたぞ?」
そのまま、定位置の椅子に戻っていって腰を下ろす。
(あいつの表情は正直だな・・・。(笑))
ハルミオのダメ出しは、日を追って厳しくなっていった。
「これからもっと細かいことにまでダメ出しが出てくるよ。でもそれは舞台が少しずつ出来上がってきている証拠さ。細部の仕上げに入ってきてるってことだ。」
リンドアがそんなふうに言ってオーディション組の皆をほぐそうとするが、そんなものはハルミオの怒声の前にあっという間に消し飛んでゆく。
「グロース! それのどこが『ぶっ殺してやる』目だ!? スーツの表情調整に頼るんじゃねぇ!」
そうかと思えば、別の人には目の前で動きの手本を見せたりする。
「たとえば、こう動いて見せるんだよ! おまえのじゃ『挑発』してることにならねぇ!」
自分で演った方がいいんじゃないの? と思うくらい、ハルミオの演技は真に迫っている。
「あの人は、役者としても一流なんだよ。」
シロノアンさんが、ナイアスにそんなふうに話した。
「どうして自分で舞台に出ないんですか?」
「他の俳優をみんな喰っちまうからだよ。バランスが悪くて、それじゃ舞台としては成功しないんだ。」
それで舞台全体を作る演出の方に手を出してるうちに、「気鋭の演出家」ということになったらしい。
あの人きっと、自分で舞台に出たいんだな・・・。自分ならこう演るってのが、きっと全部の役柄にあるんだろう。
それにみんながついて来れないから、イラついてるんだ・・・たぶん。
「だめだ、だめだ! グロース! そんなんじゃ、今殺されようとしている命が見せる最後の炎じゃねえ! もっと全存在を客席に向かって撃ち出せ!」
ハルミオがまた立ち上がってオーディション組のグロースのところへ行く。
「おまえのダンスと演技じゃ、はい、死ぬ役終わったらビール飲みに行くぞぉ、くらいにしか見えねぇんだよ!」
始まった・・・。ハルミオ節。。(^_^;) きっつぅー。
「チッパーはたしかに目立たない脇役だけどな。この瞬間だけは、客席を呑み込んじまわなきゃダメなんだ!
シカグラグループに殴り込みをかけようと、キマオウの制止を振り切って出ていったチッパーが、途中でニンゲンに捕まって殺される。その瞬間に見せる生命の叫びが、キマオウの意識を変えるんだ。シカグラと手を組んででも、ニンゲンに対抗しようと——!」
言いながら、ハルミオは自らキマオウのそのシーンをやって見せる。
いや・・・、こんなオーラ、誰も出せないから・・・。
リンドアが背後でビビっている。
「チッパーの死に際がナンチャッテじゃ、そこに説得力無くなっちまうだろーが! ナイアス!」
へ?
いきなり振られてナイアスは焦った。
「今ここで、おまえは殺される。もう誰とも、大好きな人とも会えない! おまえならどうする? どう踊る?」
ハルミオがものすごい形相でナイアスを見る。本当に殺されるんじゃないか? というほどだ。
いやだ!
ここで殺されて、もうユウノシンにも会えないなんて!
「それだ! 表情はいい。それをダンスでやってみろ、ナイアス!」
は? 何言ってんの、この人?
ハルミオの殺気は消えていない。
ダンスで恐怖を表現しろってことだろうけど・・・。と一応、ナイアスの理性はそう思うが、体の動きはあまりダンスにはならない。
ハルミオの殺気から逃れようと、もがくようなステップになる。
助けを求めてあたりを見回す。立っている人たちが、みんな人形に見えた。
助けて!
誰か! 助けて! 助けて!
ユウノシン——!!
「うん。これなんだよ、グロース。」
突然、ハルミオの殺気が消えて、ナイアスの耳に周囲のざわめきが聞こえてきた。
「チッパーにはなってなくて、ナイアスのまんまだけどな——。」
そう言うと、背中を丸めてまた椅子の方に戻っていった。
なに? なに? わたし・・・、実験台に使われたの?
その日、みんなの稽古が終わっても、グロースは1人残って同じパートを繰り返し繰り返し踊っていた。
「もうやめましょう、グロース。身体壊したら何にもならない。なんとなれば、照明とか音響で上手くやれますから。」
シロノアンさんが心配して声をかける。
「シロノアンさんの言うとおりだよ。もう帰ろうよ、グロース。」
ナイアスも近くに行って声をかけた。
「なあ、ナイアス。どうやったら、さっきみたいなのできるんだ?」
「い・・・いや、あれは! ただ、ハルミオの殺気ににビビってただけだから・・・。」
ナイアスは思い出したら、また涙が出そうになった。
今日はユウノシンに会いに行こう・・・。
グロースの動きがおかしくなったのは、その2日後だった。
少し足を引きずっているように見える。
「グロース、足をどうした?」
ハルミオが目ざとく見つけてグロースに声をかける。
「な・・・なんでもありません! 大丈夫です!」
グロースはぴょんぴょんと跳んで見せる。
「医者に行ってこい!」
「ハ・・・ハルミオさん! 大丈夫です! ちゃんとやれます! やらせてください!」
「バカか、てめぇは! この先、悪化させて舞台に穴あけたらどーすんだ! それでもプロか!?」
グロースは、すがるような目でハルミオを見ているが、ハルミオは目を合わせもしない。
「医者に行け。ちゃんと治して戻ってきたら、考えてやる。誰か自宅まで連れてって、OUTさせろ。」
グロースを連れていかせると、ハルミオは呟くように言った。
「あと1ヶ月で穴を埋められるようなヤツが、オーディション受けにきたヤツの中にいたかな・・・?」
「ハ・・・ハルミオさんが、あんなふうに言うから! グロースは、それに応えようとして・・・頑張って、頑張って・・・」
ナイアスが珍しく責めるようなことを言うと、ハルミオがジロっとナイアスを見た。
「アマチュアじゃねーんだ! プロが『頑張りました』だけで通用するか! 甘いこと考えてると、おまえもシドになりきれねーぞ? いくら才能があっても、プロになれねーヤツは切るからな!」




