43 ハルミオ
「なに? まだオーディション組に台本渡してない? 自己紹介より台本渡す方が先だろが。」
ハルミオが容赦のない声でリンドアたちを叱りつけた。
「考えてきた配役を発表するから、先にオーディション組に台本配れ。それがなきゃ、自分が何やるのかすら分かんねーだろ。」
レギュラー組があたふたと台本をオーディション組の8人に配っていった。
「オーディション組は初めて台本を見るんなら、登場人物の設定のとこだけ目を通せ。それが終わったら、配役を発表する。」
それだけ言うと、ハルミオは黙って近くの椅子にすとんと座り、そのまま目を半眼にした。
半眼になっても鋭いハルミオの眼光は、台本を食い入るように見つめているオーディション組の8人を順にゆっくり眺めまわしてゆく。
まるでアバターの向こうの実肉体まで透視しようとしているかのようだ。
出演キャストは15人。ミュージカルの舞台としては少ない部類に入る。
どの役も重要で、「端役」なんて言える役はない。そのうち5人は、出番のない時には「通行人」や「お店の客」なんかのモブ役も割り振られている。
わ・・・わたし、アバター1個しか持ってないけど、大丈夫なのかな? モブになった時「あれ? さっきの人?」とか思われちゃわない?
ナイアスは一応、オーディション受ける前に原作となった小説だけは読んでおいたけど、それをこんな少人数でやるとは思っていなかった。
ナイアスはだんだん不安になってきた。
「そろそろいいか? 配役を発表するぞ。」
ハルミオが椅子に座ったまま言うと、レギュラー組に緊張が走った。全員がハルミオの方を向く。
オーディション組の面々は、もっと緊張してそれに倣った。
「既に話したとおり、主役キマオウはリンドアにやってもらう。キマオウと対立するシカグラはサザンカだ。ここまではいいな?」
レギュラー組が小さくうなずく。
ハルミオは次々に淀みなく配役を発表していった。
「ゴリニア役はセネテス。サモーニャ役はハリタ。シド役はナイアス。・・・」
えっ?
シドって・・・。
自称ノラ猫、実は家猫で、月の光の中で踊る月の精のようなメス猫。主役のキマオウの心の支えでもあり、憧れながら近づけない屋根の上の猫。
たしかに、踊ってばかりの役かもしれないけど・・・。この物語の中心を成す役じゃないの——!?
そ・・・そんなの・・・そんな大役、わたし・・・。
ナイアスは台本を持ったまま、固まってしまった。
全員の配役を発表し終わると、ハルミオは椅子から立ち上がって言った。
「異論のあるヤツは今言え。」
ナイアスは何か言いたかったが、誰も何も言わないので声を呑み込んだ。
「ハルミオさんが考えたベストの配役に、オレたちは応えるだけです。」
レギュラー組はみんな、うんうんとうなずいている。新人のナイアスがこの大役をやることに、嫉妬だなんだというような負の感情は全く持っていないようだった。
それだけハルミオの演出は信頼されているということなんだろう。
「よし。今日は、これで解散。明日までに台本を読み込んでおけ。特にオーディション組。明日から読み合わせに入る。始まったらレギュラーもオーディションも区別しないから、そのつもりでいろ。」
それから、ハルミオはオーディション組が固まっている場所に近づいてきて言った。
「帰って読み込むのも、ここに残って読み込むのも自由だが、レギュラー組のアドヴァイスが聞ける分、ここにいる方が得だと思うぞ? あ、そうか。自己紹介、オレが止めたんだったな。」
そう言って、ハルミオは改めて皆の方を向いた。
「集まって輪になってくれ。オレはハルミオ。この舞台の演出兼監督をやります。よろしくお願いします。」
ハルミオはこの時だけは丁寧な言葉遣いになって、皆に深々と頭を下げた。
「んじゃ、弟子組から、簡潔にな。」
「改めて。キマオウ役をおおせつかりました、リンドアです。よろしくお願いします。」
「シカグラ役のサザンカです。よろしく。」
「ゴリニア役をやります、セネテスです。よろしくお願いします。」
「サモーニャ役をやることになりました、ハリタです。根は優しいおばさんなんで、役と混同しないでくださいね♪」
「ダンプ役のシュスランです。どうぞよろしく。」
「トリッパー役のコーレです。モブA・Bも兼任します。よろしくお願いします。」
「マダ役のクルミです。モブCと警察官1も兼任です。よろしくお願いします。」
レギュラーの人たちも、モブとか兼任するんだ・・・。
「どうした、ナイアス? おまえの番だぞ。」
「え? ・・・あ、シ・・・シド役をやることになりました、ナイアスです。お・・・お芝居は初めてなので、ご迷惑をかけるかもしれませんが・・・」
「迷惑だと思うなら、今すぐ降りるか?」
いきなりハルミオから怒ったような声が飛んだ。
ナイアスがびっくりしてそちらを見ると、ハルミオの目が怒っている。
「い・・・いえ! やらせてください! 頑張ります!」
レギュラー組からクスクスという笑いが聞こえてきた。
「うん。なるほど——。シド、素でいけそうだね。」
レギュラーの誰かが小声で言った。
オーディション組は度肝を抜かれて、皆ビビっている。
口が悪いとは聞いていたけれど・・・、これって、そのレベル超えてない? 死に物狂いでついていかないと、途中でもクビになったりするんじゃない?
オーディションを通ってきた中で、俳優志望でないのはナイアスだけだ。ナイアス以外は皆、ハルミオの評判だけは聞いている。いい評判も、悪い評判も・・・。「新人つぶし」などという陰口をたたかれていることも・・・。
「集合時間は明日の10:00だ。全スタッフによる全体打ち合わせを行う。その後、第1回読み合わせだ。」
ひと通りの自己紹介が終わると、ハルミオはそれだけを言い残して帰っていった。
ハルミオが去ると、リンドアやサザンカやハリタなどレギュラーの人たちがナイアスに声をかけてきた。
「いきなりカマされたね。気にすることはないよ。(笑)」
「稽古が始まれば、あんなもんじゃないから。(笑)」
いや、それって・・・・慰めになってないんですけど?




