41 メンテナンス
リクルスは2つ返事でOKしてくれた。
「でも、その程度のことなら会社の仕事でやっちゃった方が早い。トークンがかかると言っても、そんな大金ってわけでもないよ。」
それはパパから見たら、の話だろ? キラントはそんな状況じゃないよ?
「だって、僕のときはパパの機材でやってくれたじゃない。今度は、ウイルスは入ってない。ただのバグだから、見つけるの、そんなに難しくないんでしょ?」
「だからだよ。レンのときは、表沙汰にするとその友達が警察のお世話になっちゃうじゃないか。まだ15歳の若者だよ? 一旦前科がついちゃえば、タテマエはどうあれ、その後の人生には足枷になるからね。」
パパはそんなこと考えてたのか・・・。
あの時は・・・、レンはどんな気持ちでいただろう?
キラントを、そこまで気にする「友達」として見ていただろうか・・・。
本当の意味でサトルを知ったのは、ミズホさんと「外」に出てからだ。
「その子が家庭の事情でトークンがないなら、僕が代わりに立て替えてもいい。その方が早いし、バグで身体の方が変な癖を覚えないうちに削除した方がいいんだろ?」
パパはリクルスの名刺をユウノシンのマスクにダウンロードしてくれた。
「そこが会社のサービスセンターの住所だ。明日キラントを連れておいで。ものの30分もあれば削除は終わるさ。難しい仕事じゃない。トークンは前払いしておくから、来るだけでいいよ。」
午前中の指定された時間にサービスセンターに行くと、そこにリクルスが待っていた。
「初めまして、キラント。私がリクルスです。」
「実は、僕のパパなんだ。」
今の今まで隠していたユウノシンが、ちょっとバツ悪そうに言う。
「お・・・お世話に、なります。ト・・・トークンまで出してもらっちゃって・・・」
キラントはユウノシンがこれまでに見たことのないほど恐縮している。
「出したんじゃない。立て替えただけだよ。ユウノシンによれば、きみはすぐに稼げるようになるっていうじゃないか。『先行投資』だよ。リターンは期待してるよ? ぜひビッグになって私にも福をもたらしてくれ。」
リクルスの軽口に、キラントも少しリラックスしたようだった。
ジュニアの頃は、こいつがこんなに繊細なやつだなんて思わなかったなあ。
ユウノシンはちょっとだけ面白がっている。
「なあ・・・」
とキラントが言った。
「なんで、ユウノシンはここまでしてくれるんだ? オレはお前にあんなことまでしたのに・・・。恨まれてても当然なのに・・・。」
「最初は・・・」
とユウノシンは言う。
「パニックにもなったさ。・・・でも、あれがなければ僕は今、このステージにはいない。ナイアスにも置いてけぼりだった——。」
ユウノシンはキラントの背中を押した。
「治療受けてこいよ。」
そして、にかっと笑って見せた。
「上に行こうぜ! 僕たちは、まだ15なんだ。」
ブースに案内したところで、リクルスは実際に「治療」にあたるスタッフを紹介した。
「彼女はカミリン。スーツの遠隔メンテナンスの技術者だ。私はこれで自分の仕事に戻るから。カミリン、あとはよろしく。」
リクルスはそう言い残して、自分の職場に戻るべく立ち去っていった。
「カミリンです。どうぞよろしく。」
カミリンは紅いショートヘアの、知的そうなアバターだった。胸は少し大きめに設定してある。(キラントには好みかな?)(^^;)
もっとも、アバターの見た目で中身は判断できないが(キラントなんか、その最たるものだ)、まあ、遠隔メンテナンスの技術者っていうんだから「知的」なのは間違いないだろう。
「それではキラントさん、こちらのベッドに横になってください。短時間ですが体を拘束しますので、そのままじっとしてください。遠隔メンテナンスの間、スーツを動かすとバグのある部位の特定ができない場合が出てしまいますので。少し窮屈ですが、我慢してください。10分ほどで終わりますから。」
ユウノシンは傍らでそれを見ている。
リクルスは30分くらいかかるようなこと言ってたけど、10分でできるんだ・・・。
「キラントさん、目の前に現れた承認ボタンをクリックしてください。スーツの操作権をシェアして遠隔操作を行うことを、わたしに対して承認するボタンです。」
ユウノシンからは見えない。プライベートアイコンだ。
メンテナンスが始まった。
キラントは目を瞑っておとなしくしている。カミリンがその傍でバーチャルパネルを操作して、キラントのスーツに散らばったバグの特定と削除の作業を始めた。
パネルは他の人には見えないから、カミリンはただ空間を指で叩いているように見える。
ユウノシンから見ていると、横になったキラントの体のあちこちに赤い光る点が現れて、それが緑に変わっては消えてゆく。
あれが、バグが削除された——ってことなのか。
初めて見るパパの会社の仕事だった。
「お疲れさまでした。もう動いて大丈夫ですよ。」
10分くらいで「削除」の作業を終えると、カミリンはぐるっと回ってベッドの拘束バンドを解いた。
「今度は動作チェックを行いますので、わたしの言うように動いてみてください。」
キラントがベッドから立ち上がる。
「ではまず、真っ直ぐ立ってみてください。」
「はい、けっこうです。それじゃ、歩いてみてください。」
15〜16分かけて、カミリンはキラントに体操みたいないろんな動きをさせてパネルに表示されるデータを見ていた。
「はい、OKです。お疲れさまでした。では、キラントさん。目の前に現れたシャットダウンのアイコンをクリックしてください。それでスーツの操作権のシェアは切断されます。」
やはりユウノシンからは見えないプライベートアイコンだ。
なぜかキラントは、少し躊躇ってからそれをクリックした。
「これでメンテナンスは終了です。何か不具合がありましたら、こちらに連絡くださいね。」
そう言って、カミリンはキラントに名刺を手渡した。キラントはそれを受け取って、ちょっと嬉しそうな表情をしてからポケットにしまった。
コモンの中での名刺のダウンロードはポケットにしまった時点で完了する。
ユウノシンはセンターの外に出てから、改めてそのシャープなデザインの建物を見た。
なんか、パパの仕事もカッコいいな——。




