39 禁じ手
キラントは13人の審査委員がずらりと並んだ前の椅子に、おずおずと座った。
3人はファイターではなく、協会の偉い人らしい。つい、目がキョロキョロと動いてしまう。
が、固定にするわけにはいかない。そんなことをしたら、たぶんもう絶対に合格させてもらえない。
「そんなに緊張しなくていい。きみの最後の技について少し聞きたいだけだ。」
口を開いたのは、格闘技が好きなら知らない人なんかいないスーパースター。あのシン・ハヤトだった。
すごく優しい目をしている。
リングに立っている時は獲物を狙う鷹のような目をしているのに、こんな優しい目をする人なんだな・・・。キラントはぼんやりとそんなことを考えた。
「最後にきみが見せた技は、あれはカポエイラの技だね?」
「は・・・はい・・・。」
「技の名前を教えてくれるかな?」
何が聞きたいんだろう? キラントは不安になったが、ここは素直に答えた方がいい、と思い直した。
「ハ・・・ハボジアハイア・・・。」
「ふむ。」
審査員たちの視線が突き刺さる。
「誰に習ったのかな?」
「あ・・・はい。ダンススクールの・・・コーチが、1回だけやって見せてくれて・・・。そ、それで、カッコいいと思って見よう見まねで・・・。」
「キラントくん。」
「は、はい。」
「ダンススクールの名前は?」
「コ・・・コヒラノダンススクール・・・。」
「きみにそれを教えてくれたコーチの名前は?」
キラントは一瞬、言っていいのか? と思ったが、答えないという選択肢はあるまい。
「シャスルコーチといいます。あの・・・、コーチはオレの共感力を高める訓練として『ジョーゴ』をやってくれて、その中であの技も見せてくれただけなんです! そ・・・それで、オレは格闘技に向いてる、とコーチが言ってくれて・・・」
「ダンスか・・・。」
と誰かがつぶやいた。
ハヤトが両手を顔の前で組んで、にっこりとキラントに笑いかけた。
「我々もカポエイラが全て悪だなんて思ってるわけじゃない。どの流派、つまり誰から伝えられたかが重要なんだ。1回見ただけ、というのは本当かい?」
「は・・・はい。」
あたりが少しざわついた。
「うん。もう下がっていいよ。」
審査評議室から出てきたキラントは泣きそうな顔をしていた。
「何だった?」
ユウノシンの問いかけにキラントは答えずに、別のことを言った。
「あんな技、使わなきゃよかった・・・。KOされてた方がよかった・・・。」
「何言ってるんだ? キラント。」
カトランがキラントの肩に手をかける。
「シャスルコーチにも、みんなにも・・・迷惑がかかるかも・・・。」
キラントは懸命に泣くのをこらえているようだった。
合格発表までに異例の長時間がかかった。
テスト生たちは皆、不安そうな顔をしていたが、長時間の原因はおそらく先ほど評議室に呼ばれたNo.13のキラントであろうことはだいたい誰もが想像できていた。
そして問題にされているであろう最後のあの技がカポエイラであるらしいことも、テスト生はともかく、ジム関係者たちは気づいている。
あんなものを新人に教えたなんて、どこのジムだ?
やがて、合格者発表のアナウンスがあり、中央の空間掲示板に合格者のナンバーと名前が表示され始めた。
No.1 シドロア
No.2 ミルコ
No.4 タイザック
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