33 足掻き
ナイアスがオーディション漁りを始めた。募集されるオーディションに片っ端から応募を入れるのだ。
「ナイアス、どうしちゃったんだよ? そんなに応募して、全部受かっちゃったらどうすんの? こっちの仕事もあるんだぜ?」
ユウノシンの言う「こっちの仕事」は、ユウノシンを指名して来たイベントのダンスチームの仕事のことだ。ユウノシンの心配をよそに、ナイアスは気にする様子もなくからっと笑う。
「大丈夫だよ。全部受かるはずなんてないから。そっちの仕事はちゃんとやるから、心配しないで。」
「ナイアスの実力だったら、全部受かる可能性だってあるよ? チームと合わせる時間取れるの? それに、受かったらそれだってちゃんとやらなきゃ、だよ?」
「分かってるよ。」
ちょっとナイアスがむくれた。
「僕たちはまだ、マネージャーをつけられるほど稼げるわけじゃないから、仕事と時間の管理は自分でやらないと・・・」
「ユウノシンは、わたしの保護者か!?」
ナイアスがいつもにないキツい言葉でユウノシンに言い返したので、ユウノシンはちょっとたじろいだ。
「い・・・いや、別に・・・できる自信あるならいいんだけど・・・。」
「機嫌悪いな、ナイアスちゃん。ケンカでもしたのか? それとも、あの日か?」
キラントが下卑た話題を小声で振ってくる。そういうとこが友だちできにくい要因だぞ?
「いや・・・」
と表情を固定にして、ユウノシンはそれとなくキラントに悟らせようとするが、たぶんキラントは気づかない。サトルは昔から、そういう機微に疎い。
でもたしかに、どうしたんだろう? ナイアス・・・。まだその日じゃないはずだけど・・・。(・・・って、ユウノシンはなんでそんなことまで知ってる?)
ナイアスもまた表情を固定にしている。
聞こえたのかな?
そうではない。
ナイアスが表情を固定にしたのは、自分がまた変な顔をしていると思ったからだ。
焦っている・・・
というのも本当は分かってて「まずいかも」と思っているのに、たぶん自分自身に対して気づかないふりをしている。
そんな日々が数日続いた頃、ナイアスにコルンコーチが話しかけた。
「ナイアス。今、キミのデータ見てたんだが、少しオーディション応募しすぎじゃないか? ちょっと絞った方がいいと思うぞ。」
「う・・・受けちゃダメなんですか?」
ナイアスが固定の表情のままで言う。コルンコーチは、ふっと小さくため息をついた。
「ナイアスの実力ならどこを受けてもいいけど、3つも4つも受かっちゃったらどうするんだ? スケジュール管理できなくなるぞ? だからって受かってから選んだりしたら、新人としては印象悪過ぎだし。先々に響くよ?」
「そ・・・それは・・・・」
ナイアスは相変わらず表情固定のままだ。
「なあ、ナイアス。まわりを見て焦ってるのかもしれないが、キミにはキミの良さがある。そいつを活かせる場所で戦うべきだ。この中だと・・・」
とコルンコーチはリストの1つを指差した。
「このハルミオのミュージカルなんかいいと思うけどな——。」
ここでナイアスはやっと、自分が固定のままでコーチと話していた失礼に気がつき、表情を連動に戻した。
「絞れよ。エネルギーを集中して、今の自分を凌駕するんだ。分かるね?」
ナイアス自身は気づいていないが、連動の目にまたいつものいい光が戻ってきている。
コルンコーチは、こういうアドヴァイスのタイミングが上手い。
ナイアスがオーディションの応募を絞った練習に切り替えた頃、今度はキラントが最終選考まで残ったオーディションを落ちたというニュースが入ってきた。
「やっぱ、甘くねーわ・・・。プロ、舐めてたぜ。」
なんで? とナイアスは驚いた。
2次審査はオープンスペースで、スクール関係者は見学できたから見せてもらったけど・・・、あのオーディション、そんなレベル高くなかったよ?
ここにキラントがいる! って、思いっきり目立ってたじゃん?
動きのキレだって、アドリブ対応だって、先輩格のナイアスがむしろキラントから学ぼうと、このところキラントの練習を目を皿のようにして見ていたくらいなのだ・・・。
あれで落ちるの?
選考基準、何・・・?
「キ・・・キラントのダンスレベルに審査員の目がついていっていないんじゃないの?」
ナイアスが他人のことなのに動揺している。
「あ、ナイアス。いいこと言うじゃねーかよ。」
が、しかし。キラントが張ってみせた虚勢を、コルンコーチが無慈悲にも打ち砕いた。
「それはないな。そういう解釈をしていると、この先も上手くいかないぞ?」
情けない顔になったキラントと、純粋な疑問系の顔をしたナイアスを前に、コルンコーチは淡々と説明を始めた。
「キラントのダンスは目立ちすぎるんだよ。技術は荒削りだけどキレもパワーもあって存在感もあるしね。」
「目立つとダメなんですか?」
と、これはナイアス。
キラントの動きのキレの秘密を盗もうと頑張ってた矢先だけに、「目標が違う」と言われたみたいで、混乱したのだ。
「いい場合と、ダメな場合があるんだよ。求められてない場所でオーディションを受けると、そういうこともある。」
コルンコーチは、ちょっとナイアスに向けても話しているつもりだ。
「たとえばこの前のコンテスト。ユウノシンのソロは会場を圧倒したけど、その後チームの中に戻ったら、どこにユウノシンがいるのか分からないくらい皆に溶け込んでたろ?」
そういえば・・・、とキラントはそのシーンを思い出している。
「キラントはまだ、それができない。キラントのダンスは、どこで踊ってても全部目立っちゃうんだよ。それだとチームダンサーを募集してた今回のオーディションでは『要らない』という結論になっちゃうわけだ。」
「そうか! オレは生まれながらに主役張るしかない運命なんだな?」
キラントの強がり(負け惜しみ?)をコルンコーチが苦笑いしていると、壁に背をもたせかけていたシャスルコーチが、ゆらりとこちらに歩き出してきた。
「キラント。面白いこと、教えようか?」




