31 通過点
コヒラノダンススクールにキラントが現れたとき、ナイアスは最初(あいつ、とうとうここまで追いかけてきたのか?)と驚くとともに身構えた。
・・・が、ナイアスが次にもっと驚いたのは、そのキラントに向かってユウノシンがこれ以上ないような笑顔で駆け寄ったことだった。
え? 何? 何が起こったの?
「キラント!」
あまりにも無防備で、開けっぴろげで、真っ直ぐなユウノシンの笑顔に、キラントは少したじろいで赤面した。
「伝わったんだ! 伝わったんだ、キラント!」
「お・・・おまえ、なんで・・・オレなんかにそんな顔できんだ?」
ユウノシンの目の輝きは消えない。
「友だちだから。あのあと、はっきりそう分かったから——。」
キラントは会話が噛み合ってないような気がして、困惑した。まずは・・・、あのことを謝らなければ、と思ってここにきたのに・・・。
「オ・・・オレは、ウイ・・・」
ユウノシンは指を口の前に持ってきて「しっ」というサインを送る。
「あのおかげで、僕は余分なものが取れてあのダンスを手にすることができたんだ! むしろ感謝してる。それを伝えたくて、チケットを渡しに行ったんだ。伝わったんだな? だから、ここに来たんだろ?」
ユウノシンがキラントの肩をガッシとつかんで、輝いた瞳で真っ直ぐキラントの顔を見る。キラントは思わず目を逸らした。
「おま・・・おまえ、クッソ恥ずかしいヤツだな。」
それから、目を逸らしたままでボソッと呟くように言った。
「ああ・・・。オ、オレも、ちょっとやってみようかな・・・なんてよ・・・。おまえにゃ敵わねーと思うけどよ。」
ユウノシンの顔がぱっと輝き、それから「っしゃあ——!」という感じに両拳を握りしめてガッツポーズを見せた。
伝わったんだ!
ここがゴールだった。
ユウノシンにとっては——。
コンクールは、その通過点に過ぎなかったのだ。
シャスルコーチが呆れたような笑顔を見せた。
「あれは・・・、あの神憑りダンスは、たった1人に向けたものだったのか・・・。」
それが、化けた理由か——。とシャスルは思った。
「い・・・いや、そこまででは・・・。コーチにも、ナイアスやみんなにも伝えたかったんです。僕が受けた感動を——。」
シャスルコーチはそんなユウノシンの言葉を捉えて、背中を押すみたいにあの時からユウノシンを苦しめてきた問いの答えを言った。
「そうだ、それが大事なんだ。それが、本当の技術を引っ張り出すのさ。でも、何にそんなに感動したんだ?」
シャスルコーチの質問には、ユウノシンは微笑んだだけでこう言った。
「内緒です。」
「わたしにも?」
と、ナイアスが少しむくれる。
なんだか1人だけ蚊帳の外な感じじゃないか。
「あ・・・、ナイアスには、そのうちこっそり教えるよ。」
シャスルは若い3人の成長を目の当たりにしながら、コーチとしてここで暮らしている自分を思わず省みた。
先生という立場でエラそうなことを言っているが、自分は最近何に感動しただろうか?
あれ? ユウノシンのダンス?
これじゃあべこべだな。来年のコンサートで、こいつらに恥ずかしくないダンスが踊れるように、自分もダンサーとして気合い入れないとな——。
「キラントくんって言ったかな。やろうよ、ダンス。ここはそれほど高くないよ。」
シャスルコーチが営業スマイルを見せた。
「歩き方見てると、君は運動神経良さそうだ。」
ユウノシンが援護射撃を入れる。
「そうなんですよ! こいつ、ジュニアの頃から体育だけは成績良くって。」
「だけは、って言い方ぁねーだろ?」
「ダンスの成績も良かったのかな?」
シャスルコーチが聞くと、キラントは黙った。
「・・・・・」
「ダンスはサボってましたから。」
ユウノシンが笑いながら代わりに答えた。
「ジュニアのは、面白くなかっただけだよ。」
シャスルコーチはそんなキラントを見ながら、笑顔で言った。
「プロコースへ来なよ。本物のダンスは面白いよ?」
コヒラノダンススクールに新しいメンバーが加わった。




