30 メッセージ
夜の街路灯の光が、キラントの影を石畳の上に落としている。
キラントは座り込んだまま動かない。
何度も何度も、ユウノシンのダンスがキラントの脳裏に浮かび上がっては遠のいていった。遠のいてはまた浮かび上がってくる。
悔しいことに、それは苦痛ではなく、むしろ心地良さでさえあるのだ。
なんで悔しいかって・・・?
へへ・・・。
わかったよ、わかったよ・・・。
認めたくねーんだよ。それだけだよ。・・・わかったよ。認めるよぉ——。
オレは感動したんだよ。
あいつのダンスに、感動したんだよぉ!
これで、いいんだろ?
キラントは石畳の上に仰向けにひっくり返った。
いつの間にか表情は連動に戻している。
左のモニターに諦めたような泣き顔が映っている。
オレは泣いていたのか・・・・。怒ってるとばかり思ってた・・・。
夜空に星が見える。
もちろん、コモンの空は誰かがデザインして作ったものだ。
きれいに出来てるな・・・。
その瞬間、キラントは理解した。
あれは・・・あのソロパートは、オレだけに向けられたメッセージだ!
コンクールでコヒラノダンススクールは優勝こそ逃したが、準優勝だった。ユウノシンに至っては個人表彰まで受けた。
翌日からコヒラノダンススクールでは、入校希望者が倍増していた。
「あれは凄かったぞ、ユウノシン。練習でのおまえのダンスも見てて鳥肌が立ったが、本番のあれはちょっと神がかってたぞ。」
シャスルコーチがそんなふうに手放しで褒めても、ユウノシンはちょっと照れたような表情を見せるだけで、すぐに嬉しそうな表情が消えてしまう。
「何か悩んでんの?」
ナイアスが聞くとユウノシンは「いや・・・」と言って笑顔になる。
でも、何か気がかりがあるな・・・。とナイアスは見ぬいている。
ナイアスの見る通り、ユウノシンには気がかりがあった。しかしその対象が何か、についてはナイアスには想像もつかないだろう。
ユウノシンはキラントのことを考えていた。
伝わらなかったのか・・・。
キラントは来てくれた。コンクールには——。
そして、ユウノシンのダンスもちゃんと見てくれていた。
しかし・・・
表彰式のとき、もう一度確認するとキラントはその席にはいなかった。
・・・・途中で帰ってしまったのか・・・?
あの時。
外で、ミズホさんの前で踊った時、僕は森の全てを感じ取っていた。
草や樹々の葉や花の呼吸を、土の中の無数の生命を、それらを感じ取って・・・、いや、それらと共に、踊ることができていた。
その感動を、歓びを、みんなに伝えたかった。
ナイアスに。シャスルコーチに。リロイアに、カトランに、メイジュに、伝えたかった。そして誰よりキラントに。
おかしい? そうか?
でも、僕がその扉を開けるきっかけは、キラントがくれた。あのウイルスは、むしろ僕から余計なものを削ぎ落とす役割を果たしてくれた。
あれがなければ、僕は森へ行かなかったし、森で踊ることもなかっただろう。
そして僕は、あの外の森でのダンスで、フィジカルな肉体の直感として、キラントが寂しかったんだと知った。あいつのああいう態度は、皆から疎まれ続ける寂しさから自分を守るための鎧だったんだと・・・フィジカルな肉体と森との対話で、突然わかった。
それをキラントに伝えたかった。ウイルスをくれた感謝と共に——。
言葉でなんか、とても伝えられない。むしろ、胡散臭くさえ感じられてしまうだろう。
だから、ダンスを見てほしくて、あんな挑発的な誘い方をしてみたんだ。あんなふうに挑発すれば、あいつはきっと来る。
そしてそこまでは上手くいった。いったはず、だったのに・・・・。
・・・・なのに、なんであいつは途中で帰っちゃったんだ・・・? 僕のダンスでは、伝わらなかったのか・・・?
だけ・・・
ではないかもしれない。ホールの観客はあんなにいたわけだからな。
でも・・・、思い上がりだと言われようと、キラントにはあれが自分に向けられたメッセージであることを今は確信できる。
特にあのロックの瞬間には、間違いなくオレにだけ向けたメッセージがあった。
何度も何度も、キラントの頭の中でユウノシンのダンスがリフレインをするうち、次第にそれははっきりと形をとるようになってきていた。
そして。
キラントが素直に「負け」を認めた瞬間、それは彼の内側でしっかりとした言葉になったのだった。
そんなとこで何やってんだ、おまえ!
さあ、舞台に上がってこいよ!
負けることを恐れて、舞台に上がりもしないのか!?
そうか・・・・。
オレは・・・
人生の舞台に上がることを恐れてただけかもしんねーな。
挑戦状・・・・。
そういう意味だったのか・・・。
キラントの目に輝きが戻っている。
本人は気づいているだろうか。




