3 ダンス ダンス
前の人のダンスが終わって引き上げてくるのを見ながら、ユウノシンはちょっと周りの様子を見る。
すぐに出てくる人がいなさそうなのを見定めてから、ユウノシンは、ぽおん、と宙返りしながら広場の中央に出た。
観衆の視線が一斉に自分に集まるのを感じるが、怯まない。
表情は連動。
楽曲は・・・、「マリン・バブル」。
ハイテンポでちょっと変調の難しい曲だが、ジュニアの学園祭で優勝した時に使ったやつだから、いい感じに踊れる自信はあった。
音域の広い電子音がランダムな感じで弾けて、イントロが始まった。ユウノシンは足をそろえて両手を開くと、その両手の先を指先までしなやかな動きで、それでいて電子音の1音1音に合わせて明確に区切りながら、空中にドットを描くように動かしていった。
その手の先に、ライトブルーの狐の尾のような形の何かが現れる。それを揺らすように操りながら、ユウノシンのダンスが始まった。
周りでちょっとどよめきが起きる。ゆらめく青い何かが海を表現しているのだ、ということは観衆にはすぐ分かった。
ちょっと素人離れした表現力だ。
新顔だよな、こいつ。
今まで見たことない。
どこからきた誰だろう?
ユウノシンの手に操られて揺れる青い何かは、実は「炎」だ。別に有料の特別なアイテムじゃない。ノーマルスーツに標準装備されているデフォルトアイテムに過ぎない。それの色を、カラーチェンジャーで変えてみただけのものだ。
ユウノシンは初めに見たあの白い何かを操っていたダンサーの動きをイメージして、ダンスを組み立ててみたのである。
もちろん、あんなにすごい動きはできないけれど、イメージだけは近づけてみようと努力している。
トークンの投げ銭がユウノシンに向かって集まり始めた。
え? 投げ銭、もらえるの?
まさかいきなり自分にそんなこと起きると思っていなかったから、賽銭箱を用意してない。投げられたトークンはそのままユウノシンのまわりの空間に漂うだけになった。
うわ! どうしよう? このまま、どこかへ流れていってしまったらもったいない。
でも、賽銭箱を取り出すためにダンスの流れを止めたくはない。曲の最後まで、しっかり踊り切りたい。
ユウノシンは、炎と同じやり方でトークンが操れないか試してみることにした。投げられた相手は間違いなく自分なのだから、賽銭箱に入れなくてもアイテムと同じように操れるのでは?
はたしてそれは成功した。
青い炎のまわりをトークンがふわふわとまとわりつくように泳ぎ出し、ここの観衆たちが見たことのない舞踏空間を作り出した。
拍手が起こり、さらに投げ銭が増えた。
しかし、それはユウノシンにとっては逆に負担になった。数が増えて操りきれなくなったのだ。
動きが乱れた。
そこに突然、銀髪で青い目をした少年が飛び入り参加して一緒に踊り出した。
踊り出した、といってもニコニコしながら簡単なステップを踏んでいるだけだ。・・・が、驚いたことに胸の前に賽銭箱を抱えている。
もちろん、ユウノシンのではない。その少年のものだ。投げられたトークンはその賽銭箱にどんどん吸い込まれていく。
え? え? えええええ??
何? この子?
「大丈夫。あとで全部キミの口座に移すから、最後まで踊りきろう。」
少年はユウノシンに笑顔を向けながらそう言って、相変わらず簡単なステップだけを踏んでいる。
ままよ。全部持っていかれても、これも社会勉強だ。オトナの世界、コモンの洗礼だと思えばいいや!
ユウノシンは開きなおって、さらに堂々と、力強く、大きく、楽曲のクライマックスに向かって表現を加速させた。
楽曲が終わってユウノシンがお辞儀をすると、隣の銀髪の少年も同じようにお辞儀をした。やんややんやの拍手が起こり、投げ銭がさらに増える。それらは全て、銀髪の少年の賽銭箱に吸い込まれてしまった。
観衆は2人1組のユニットだと思ったらしい。
誰? この子?
観衆の輪からやや外れたところに来ると、少年はユウノシンに古い友人みたいな口調で話しかけた。
「いいダンスだった。やっぱ才能あるなぁ。あ、これ、大丈夫。全部レンの口座に入れるから。」
え? なんで僕のジュニア・ネーム知ってるの? ジュニアの友達の誰か?
でも・・・口座番号知ってるジュニアの友人なんて・・・いないはずだぞ?
少年はそんなユウノシンの疑問が分かっているらしく、名前を名乗った。
「僕は、ハルプ。この格好のときはね。ビジネス・アバターの時の名前は、リクルス。」
リクルス? そのアバター・ネームは・・・。
パパ!!?
表情を連動にしたままだったので、ユウノシンは思わず「げっ・・・」という表情を出してしまった。
慌ててカーソルを笑顔に合わせる。思いっきり、ぎこちない。
「そんな顔するなよ。GENPUKUした最初のうちは、誰でもやってることだよ。親や、先にここにきた兄弟なんかが・・・。ただの友達って顔でさ、コモンの案内をしてるのは普通だよ?」
ハルプは苦笑いをする。
これは、たぶん・・・連動・・・だな?
そこにナイアスがやってきた。
「まさかコンビだったとはなぁ——。ジュニアの友だち?」
「あ・・・、うん、まあ・・・。」
カーソルで固定したままのユウノシンの曖昧笑顔を見て、ナイアスは「はは〜ん」という表情を見せた。これは、たぶんナチュラルに連動・・・。
読まれたぜ、パパ。
「わたしはナイアス。ユウノシンとは、さっき知り合ったばかり。」
「ボクはハルプ。ユウノシンとはジュニアの頃からの付き合いなんだ。」
「そうみたいね。」
ナイアスは今度はたぶん固定したであろう愛想笑いでそう言った。
「わたしはよく、ここにいるからまた来て。特にユウノシンのダンスはまた観たいし。」
それから、ユウノシンの肩を指でちょいとつついた。
「なにが『苦手じゃない』だよ。すごいじゃん。ちょっとトリハっちゃったよ。ユウノシンはプロになれるかもね。」
それから、今度はたぶん連動であろうとびきりの笑顔を見せて観衆の輪の中に戻っていった。




