28 ユウノシン!
結局キラントは2日後、ダンスコンクールJカップの開かれるヒガシヤマ会館の前に立っていた。
無視することやチケットの転売も何度も考えたが、その都度「逃げんなよ!」と言ったあいつの自信たっぷりの顔が浮かんできて、屈辱感に襲われた。
逃げたら、敗北を認めたことになる。
それだけは受け入れたくなかった。
どうせ2週間の付け焼き刃だ。他の連中と比べたって、見劣りするに決まってる。それを嗤ってやろう。事細かく比較して・・・。
キラントはことさらにエラそうな態度で歩いて、指定された招待席にどっかと尻を下ろした。
やがて、何だかエラい人のぐだぐだ言う挨拶がおわって、コンクールが始まった。
どのチームも、さすがに全Jエリアの大会に出場してくるだけあって、迫力のあるダンスを見せてくれる。
カッコいい——。
キラントは当初の目的もどこへやら、ついついその世界観の中に引き込まれてしまっている。
そして、コヒラノダンススクールの出番がやってきた。
なんだよ・・・。チームで踊んのか・・・?
何が「ユウノシンのダンスを見にこい」だ。 はあ? 団体の一員なだけじゃねーかよ——。
2週間で他とおんなじように踊れるようになりました、ってか? ww
シートに深く座って足を組んだキラントの連動の表情に、思わずややバカにしたような笑いが浮かぶ。
会場の一応の拍手が終わり、軽快なポップに乗せてコヒラノダンススクールのダンスが始まった。
たしかに、みんな上手い。音楽によく合った軽やかなステップと一糸乱れぬようなチームワークも見事なんだろう。ダンス素人のオレが見たって分かる。
だから、何だ? あ?
やがて、その中から1人が前に出てきて、他の連中をバックダンサーにしてソロで踊り始める。
そいつはアイテムを幾つも使いこなして、舞台に華々しさを提供してみせた。
なるほど。こういう構成なわけか。・・・ってことは、あいつもソロを踊る、ってわけだな?
2人目、3人目・・・と入れ替わりながら短いソロパートを踊ってゆく。
はっは! この短いパートを、2週間で作り上げたから「見にこい!」なんてタンカ切ってみせたわけかい。
いいだろ。他のソロパートの連中と比較して、あとでボロクソに言ってやるぜ!
そして。
5人目にユウノシンが出てきた。
ユウノシンが前面で踊り出した途端、会場の空気が変わった。
どうん!
何か、強い波動のようなものが、キラントの体を貫いて後方へ広がっていった。
な・・・なんだ、これ?
波は、次から次へと押し寄せるようにやってくる。
キラントはその波に小舟のように揺られ、その中でアバターそのものがバラバラになって会場の空間全体に偏在していくような錯覚を覚えた。
嫌な感じではない。むしろ、この上なく心地よく、酔っていくような気分だ。
葉っぱなんて、問題じゃねえ!
ユウノシンはアイテムらしいアイテムを使っていない。
使っているのは・・・、あれはたぶん、スーツにデフォルトで付いているだけの「炎」だ。
あいつは、体だけで・・・、体の表現だけで、この得体の知れないエネルギーを生み出し、会場全体を一瞬で支配してしまった。
それまで多少ざわついていた会場が、しんと静まり返ってしまっている。
ポップのミュージックだけが・・・、いや、それさえも、ユウノシンが巻き起こす波動の前に霞んでしまっている。
一連の動きの中で、ユウノシンは一瞬、ギン! と指先でキラントをロックした。確かに、ロックした。
そして紛れもなく、ユウノシンがロックしたのはキラントだった。
キラントがそれを意識した時にはもう、ダンスは次の流れに移っていて、程なくユウノシンはバックで踊るチームの中に消えていった。
そのあとは、ユウノシンがどこにいるのかも分からないほどチームは見事な一体感を見せ、コヒラノスクールのダンスプログラムは終わった。
その後のプログラムを観ることもなく、キラントはふらふらと酔っ払ったような足取りで会館の外に出てきた。
まだ地面が揺れているような気がする。
心地よい、目眩のような感覚が続いている。
キラントは近くにあった街路灯の柱にしがみついた。
あれが・・・・。
ユウノシンのダンス・・・。
「天才・・・じゃねーかよ・・・?」
連動のままのキラントの目から涙があふれ出し、ぼろぼろとこぼれ落ち始めた。
なぜ泣いているのか、キラント自身にも分からない。
感動しているのか、それとも、自分自身が惨めなのか・・・。
キラントは街路灯の柱につかまったまま、石畳の上にへたり込んだ。




