27 挑戦状
ユウノシンがダンススクールに帰ってきた時、ナイアスとシャスルコーチがほとんど飛びつかんばかりにしてすっ飛んできた。
「昨日、どこに行ってたんだ? スクールも休んで! メールしても返事もよこさないし——。」
「すみません、コーチ。ちょっとスーツ脱いじゃってたもので・・・。」
「OUTしてたのか? 1日中?」
「すみません。・・・午前中だけのつもりだったんですが・・・。」
「体、具合悪いの?」
とナイアスが聞いた。病院に行ったと思ったらしい。
「いや、そうじゃないんだ。・・・あの、コーチ。よかったら、ちょっと見てもらえますか? 新しいソロの部分なんですけど・・・。」
「ソロパートを作り直してたのか? 1日、コモンから離脱して・・・?」
シャスルには、ソロパートのダンスを組み立てるのにわざわざコモンから離脱する意味が分からない。
「ええ・・・。まあ・・・。」
ユウノシンは曖昧な返事をしただけで、そのままフロアの中央に行くと特に何か身構えるわけでもなく、ステップを踏み始めた。
とん。 とん。 とん。
その途端。
ふわん、とユウノシンの周りの空気が変わる。
難しいというほどのステップでもない。
アイテムも全く使っていない。
表情は、連動のままでかすかに微笑んでいる。その眼差しは柔らかく、このスクールの中の何かではなく、別の世界の何かを見ているようでもある。
片手をついて体を回す。
音楽なんか鳴らしていないのに、そこにいる皆の耳の奥にユウノシンの動きの中から自然に音楽が聞こえ始めた。まだ誰も聞いたことのないような音が——。
ユウノシンは、身体の動きだけでこのスタジオの空間を支配してしまい、スクール生たちは自分の練習をするのも忘れて突っ立ったままになってしまった。
「化けた・・・。」
シャスルコーチが、どでかい獲物でも仕留めた猟師のような顔で笑いを浮かべた。
「化けやがった! こいつ——!」
キラントの「自宅」にユウノシンが現れたのは、コンクールの2日前のことだった。
奴隷になった・・・はずのユウノシンの突然の訪問に、キラントの方が狼狽えた。
「れ・・・練習しなくていいのかよ? お・・・オレの、金ヅルちゃんよ。分かってるよな? 裏切ったらどうなるか?」
ユウノシンは動じない。表情に敵対心すら見えない。
「これを持ってきた。」
ユウノシンがキラントの目の前に差し出したのは、S席の、それも関係者席の招待券だった。
「プレゼントだよ。」
「わ・・・分かってるじゃねーかよ? オレは・・・お前のマネージャーだもんな。」
ユウノシンがにっこり笑う。
「あれは全部消えたよ。ダンスのデータと一緒に——。初期化したんだ。」
「なん・・・だと?」
キラントは慌てて自分にだけ見えるアプリ停止のアイコンをクリックしてみるが、ユウノシンには何の変化も現れない。
「ば・・・バカな・・・」
「見にこいよ。」
ユウノシンの目が、突然ぎらっと光った。
「オレが、この2週間でゼロから組み上げたユウノシンのダンスを見にこい! マネージャーやるなら、そのダンサーがどんなダンスを踊るのか、見ないって法はねーだろ!?」
キラントは気圧された。
これは・・・。これは、あのレンと同じ人物か? あの、いじめても嫌な顔するだけだったひ弱な・・・・。
「見にこいよ、キラント。ユウノシンのダンスを見せてやる! そいつはオレの、キラントに対するユウノシンの挑戦状だ! 逃げんなよ——!」
それだけを言ってユウノシンは帰っていった。
ユウノシンが去った後も、キラントは背中を「自宅」の壁にもたせかけたまま、呆然としていた。
あいつは、何を言った?
挑戦状?
どういう意味だよ?
ウイルスが消えたんなら、あいつはもうオレに縛られる必要なんかないじゃないか。なんでわざわざここに来た?
オレなんか無視して、さっさとあっちの世界に行きゃあいいじゃねーか。そこに、有能で感じのいいマネージャーなんかいくらでもいるだろ?
なんで招待状置いてった?
・・・・・・・
自分のダンスを・・・、いや、自分の有能さを見せつけて・・・。オレの敗北感を決定的なものにするためか・・・?
キラントは招待状を破り捨てようとして、またふと手を止めた。
・・・・・・・
いや・・・あいつは・・・そういうタイプじゃねーよな・・・。
挑戦状?
・・・・・って言ったよな?
それは、つまり・・・。
行かなきゃ、オレは永遠に敗北したまま・・・ってことか?




