21 微かなシミ
『第7回ダンスコンクールJカップ・アマチュア部門』出場希望者募集。
スクールの掲示板にその情報がUPされたのは、まだミラクル・ヴォイドのコンサートの熱量が残っている頃だった。
「ユウノシンも出てみないか? ナイアスは当然出るだろ? ってか、この間のエキストラダンサーは全員出てもらうぞ?」
シャスルコーチがそんなふうに2人に話しかけてきたのは、情報がUPされた当日だった。
年1回催されるJカップ・アマチュア部門は、プロの登竜門とも言われる大会だ。開催は2ヶ月後。
ソロと団体の2つのエントリー枠があるが、スクールからは団体にエントリーするという。
「12人程度の編成で組み立てる予定だけど、上位の4〜5人にはソロパートも用意するつもりだ。それとも、ユウノシンはソロでエントリーするか?」
「そ・・・そんな、自信はありません。今・・・。」
最近よくなった——。とコーチには言われているけど、正直ユウノシンには何が変わったのか、がよく分かっていない。
ただ、できるだけスーツの機能やアイテムに頼らないで踊る——ということを心がけているだけだった。
「やろうよ、ユウノシン!」
もちろん、ナイアスと一緒に晴れ舞台で踊ることは、ユウノシンにとって目下の目標でもあった。否なはずがない。
ユウノシンのモチベーションにエンジンがかかった。
ナイアスとのデートも、ミドルスクールの勉強も、ダンススクールの練習も、全てがフルで回り始め、充実した日々になってゆく。
ダンススクールに再び、あのユウノシンが戻ってきた。
一緒に練習する仲間たちがそんなふうに思っている中で、ひとりユウノシンだけが一抹の不安を抱えている。
たしかに、以前に比べるとダンスに力が出てきたような気がする。ナイアスの持つ、あの力だ。
ただ、何が変わったのか、その具体的な何かが分からない。ひょっとしたら、ただナイアスを反射しているだけなのかもしれない。彼女と恋人になれたことで・・・。
だとしたら・・・・。
ユウノシンは暗い深淵から浮かび上がってきそうなその恐ろしい考えを、見えないところに押しやって、明るい方向に顔を向けた。そこにナイアスがいる。
僕はナイアスを放したりはしない!
それは・・・・
自分のダンスのため・・・?
コンクールが近づくにしたがって、チームはいい仕上がりを見せるようになってきた。
「全員、いい感じになってきている。絶対、上位に入賞できるさ。特にソロパートを踊るうちのトップ5は、ここまでくれば個人受賞も射程内だ。」
シャスルコーチもコルンコーチも異口同音に、そんなふうに太鼓判を押してくれていた。
しかし以前と違って、ユウノシンはそうして褒められるたびに自分の中のあの微かな不安が、じわり、とそのシミを広げるような気がしてならなかった。
それを振り払うように、ユウノシンは練習に打ち込んだ。
ソロパートの組み立ても、順調に仕上がりつつあった。
リロイアも、カトランも、メイジュも、ナイアスも。それぞれの持ち味を活かしたソロパートの組み立てをほぼ終えていた。
負けるわけにはいかない。そしてみんなの足を引っ張るわけにもいかない。団体戦なんだから——。
コンクールまであと2週間。
そんなユウノシンに、まさかの災厄が襲いかかる。




