20 才能ゆえに
「ユウノシンのダンス、少し変わったね。」
このクラスを担当するコルンがバディのシャスルに話しかけた。
「うん。いい感じだ。前みたいに技術が鼻につかなくなった。」
ダンススクールの日常は、月に1つ課題曲が与えられ、それを解釈してダンスを研究し練習してゆく。その中で新しい技術も身につけてゆく。
コモンでのダンスは、単に肉体表現だけではない。端末スーツに装備された機能をフルに使いこなし、織り上げながら、表現を豊かに広げてゆく。
浮遊係数、表情操作、色彩変換、数々のアイテム・・・・。
ユウノシンはそれらの組み上げや織り込みが、スクールの中では群を抜いて上手かった。
それを、シャスルコーチは「上手すぎる」と言う。
「あいつはね・・・」
とシャスルは、このクラスを一緒に受け持つバディのコルンに言う。
「いわゆる器用貧乏の崖っぷちにいるんだ。いや、器用ってのは悪いことじゃない。それも才能だからな。ただ、それは諸刃の剣でね——。」
2人が担当するこのクラスは初心者や趣味クラスではない。プロを目指す若者たちの上級クラスだ。自然、コーチたちの目も厳しい。
「ユウノシンの技術習得力はなまじっかなもんじゃない。もちろん、あいつにはいい感性もちゃんとある。でも、それより先に技術が走っていってしまうんだ。それでは消費されるだけで終わってしまう。何度同じダンスを踊っても飽きられることなく、毎回感動する——。そういうものでないと。」
「それって・・・、ダンスアートの究極じゃない? そんな人、世界に数えるほどしかいないよ? オレは無理だよ。おまえ、できるの?」
コルンが腕組みしながら笑うと、シャスルも苦笑いした。笑いながら、ユウノシンがステップの練習をしているところを遠目に眺めている。
「よくなってるよね、ユウノシン。ステップに心が乗ってる。」
「うん。恋愛がいいふうに作用してるね。ナイアスも上げ調子だ。」
「微笑ましいんだけど・・・大丈夫かな? ダンサー同士の恋・・・。それも2人ともプロで通用するようなレベルの・・・。どこかで・・・」
「悲恋なら悲恋で、それもダンスの栄養になるさ。」
シャスルの返しに、コルンがちょっと沈黙した。
「おま・・・え、悪魔チックだな・・・。」
「な・・・何が?」
「芸術のためなら、人の人生なんかどうなってもいいとか思ってない?」
「そ・・・! そんなこと、思ってないぞ! し・・・幸せになってほしいと思ってるよ?」
当の2人は、コーチがそんな会話をしているなんて思ってもみない。
今、この瞬間の中に自然に溶けて動いている。
「あいつ、ちょっとオレに似てるんだよ。」
とシャスルが言う。
「オレもああいうタイプだったんだ。・・・結局、グローバルアーティストにはなれなかった。」
シャスルは壁にもたれながら、少し寂しそうな目をした。
「自分のダンスコンサートはやらないの? もう・・・。」
「やるよ。今年は無理だけど、来年な。友達のプロデューサーが声かけてくれてるんでね。ミーノホールの予定。またチケット売りのノルマあるから、ヨロシク。」
そのユウノシンは悩んでいる。
シャスルコーチには「少し良くなった」と言われたのだけれど、自分では違いがよくわからない。
ただ、ダンスはスーツの機能やアイテムでやるものではないんじゃないか、という気がしてきている。
あのターニャというダンサーも、アイテムなんて使ってなかった。
この前、あの広場でナイアスと踊ったとき、簡単な初歩的ステップだけだったのに、ナイアスの心がユウノシンの中に自然に流れ込んできた。
ナイアスとの間に、一切の垣根が取り払われてしまったようだった。
そのあとのことも、ナイアスの肌の温もりも、ナイアスの吐息も、全てあのステップの流れに続いていた。
ナイアスが好きだ。
ナイアスに近づきたい。
ナイアスのようになりたい。
その思いが、ユウノシンに無心にステップを踏ませ続けていた。
そして、そんな2人にチャンスがやってきた。




