12 カクベエのダンス
ナイアスはダンスが終わると、やり切った! という顔でカクベエのもとに小走りでやってきた。
「グッダン! よかったよ。ミスらしいミスもなかったし、ナイアスは残れるね ♪」
カクベエは親指を突き上げて見せる。
「ユ・・・カクベエも頑張って。」
「うん。一緒にオーディションに行こう。」
第5、第6グループと終わり、いよいよカクベエのいる第7グループの番になった。最もハイレベルなダンサー4人のグループだ。
埋没したらダメだ。
そのためにカクベエも創作ダンスの細部に至るまで、練りに練ってきた。
さあ、カクベエのダンスを見せてやる!
4人それぞれが円の中で最初のポーズをとる。スタジオ中が静まり返った。スクール生の誰もが固唾を飲んで見ている。
このスクールのベスト4のダンスが始まるのだ。
楽曲が始まった。
いきなりシン・ギランのシャウトから始まる。
カクベエは両手を突き上げ、手のひらから炎を噴き上げた。
噴き上がった炎が、ギランの天地を切り裂くほどのシャウトを表現している。
その炎のまわりを、キラキラした何か小さなものが渦を巻くように廻っている。銀色に光るそれは、カクベエが手の中に隠し持っていたちょっとした小道具だ。
かつてトークンを操った時の技を進化させたものだった。
その炎を自在に操りながら、円の中を目一杯に使ってギランの歌を表現してゆく。
スタジオの中にどよめきが起こった。
すごい!
ナイアスは目をハートにして、カクベエのダンスに見惚れてしまった。レベルが全く違う。これが! カクベエの、レンのダンス——!
このまま、プロのソロとしてやっていけそうな・・・。わたし、すごい人と「幼馴染み」やっちゃってる——!
他の3人のダンスも、どの人もすごいんだけど・・・。その中でも、ひときわ目立ってる。
腕や脚、身体の動きに合わせて、炎は膨らんだり細くなったり、何本にも分かれたりしながら、踊るカクベエの身体をまるでギランの声がまとわりついているように包み、廻り、離れ、そして天に噴き上げた。
カクベエの円の中だけ、他とは違う重力線が働いているようにさえ見えた。
ここに、カクベエがいる! って、こういうことなんだ。
わたしはちゃんと、ナイアスがいる! ってできたんだろうか?
最後の音が消え、4人の動きが止まると、スタジオの中が拍手の嵐になった。
スクールのトップ4人が、ギランの歌で同時に踊るなんて——。ちょっとしたダンスコンサートじゃない?
すべてのプログラムが終わって結果発表を待つ間、カクベエは「やり切った」という表情をしていた。
「すごいね。わたし、まだまだカクベエに教えてもらわなきゃ。」
ナイアスがカクベエの肩に肩を預けるようにして言う。
「すぐに出来るようになるさ。ナイアスは誰よりも努力家だもん。」
やがて、スタジオの中央に審査委員長が出てきた。
審査結果の発表だ。
「では、第一グループから。名前を呼ばれた人は、2週間後のオーディション本番に向けて準備を始めてください。課題曲は明日、ミラクル・ヴォイドの公式サイトで発表されます。
2週間しか準備期間はありません。当ダンススクールを代表してオーディションを受けるわけですから、たとえ採用されなくても、恥ずかしくないダンスだけは見せてきてくださいね。」
第1グループは1人。第2、第3グループからは2人ずつ合格者が出た。
次はナイアスのいる第4グループだ。ナイアスが、カクベエの手をそっと握ってきた。
「大丈夫だよ。」
「第4グループ合格者は、シュトゥール。ナイアス。」
「やった!」
思わずカクベエとナイアスはハイタッチをしていた。連動にしたままのナイアスの目に、涙が浮かんでいる。
第5グループも2人で、第6グループからは3人の合格者が出た。
「続いて、第7グループ。」
いよいよカクベエのグループだ。やっぱ、緊張するな・・・。
審査委員長が名前を読み上げ始める。
「リロイア。カトラン。メイジュ。・・・」
やっぱり4人全部か——。
誰もがそう思ったその直後・・・・
出てきたのは意外な一言だった。
「以上。」
・・・・・・・・・・・・・
え?
なんで・・・?