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マスク  作者: Aju
11/52

11 テスト

 ついにその日がやってきた。


 テストに合格すれば、オーディションが受けられる。

 普段はオーディションを受けるのに、いちいちスクールの推薦は要らない。しかし、今度のオーディションはそこらへんの二流ホールのものじゃない。

 あのフクオウホールで行われるメジャーイベント、ミラクル・ヴォイドのバックダンサーを募集するものだ。


 若い才能にチャンスを!


 ミラクル・ヴォイドのボーカル=シン・ギランのこの言葉とともに、公演の行われる各地域から新人を募集し、常連バックダンサーたちの周辺で踊らせる——という画期的な企画だった。

 ダンサーを目指す若者にとって、これほど魅力的な企画はめったにあるものじゃない。


 審査は規定と創作の2パートを5人一組で踊る。

 規定は振り付けが決まっているから、よほど大きなミスでもしない限り差はつかないだろう。差がつくのは創作ダンスの部分になる。

 5人がそれぞれ与えられた円の中で「表現」を競うわけだが、5人いっぺんに踊るから他の人のダンスに呑まれてしまえば審査員の印象に残れない。どれだけ印象的な表現ができるか——が勝負を決めるのではないか。

 カクベエであるレンはそう考えて、今日のためのダンスを練り上げてきた。


「なんか、どきどきするぅ——。」

「大丈夫だよ、ナイアス。いつも通りにやれれば。」

 そう言うレン自身が、どきどきを抑えられていない。


 落ち着け。カクベエ。

 おまえは、やれる!


 カクベエは最後のグループになる。ナイアスは中ほどだ。

 一応、普段の成績でレベルの似通った者が同じグループに振り分けられている。後ろに行くほど、上位成績者だ。

 技術に差がありすぎる者が同じグループになってしまうと、審査員の目も引きずられてしまう危険があるし、何より本人が固くなって実力を発揮できなくなるかもしれない。という配慮だった。


 最終グループということは、カクベエはそれだけ合格の可能性が高いということでもあるが、それにしても出番を待ち続けるのはなかなかプレッシャーも大きい。

 でもこれくらいでプレッシャーに負けるようでは、大舞台でなんか踊れない。

 大舞台といったって、たかがエキストラのバックダンサーなんだ。

 カクベエとなったレンが目指しているのは、あのコデッキホールのターニャのように1人で舞台を支配するようなダンサーなのだ。

 この程度のテストなんか、軽々と越えていかなければならない。本番はオーディションなんだから——。



 ナイアスもカクベエも、規定はミスなくこなすことができた。

 でも、緊張したんだろう。規定でミスったやつが2人も出た。彼らは規定のパートが終わったあと、表情を固定にしてしまっていた。ひょっとしたら、マスクの中では泣いてるのかもしれない。

 でも、ドンマイだ。まだ創作の方で盛り返すチャンスは残ってるんだぞ。そこで負けちゃって創作パートが踊れなくなるようなメンタルじゃ、大舞台なんか踊れないぞ?

 レンは口にこそ出さないが、心の中で彼らにエールを送った。

 それだけ、カクベエには余裕があるとも言える。



 審査の楽曲はグループごとに変えてあり、1ヶ月前に発表されて割り当てられていた。

 すべてミラクル・ヴォイドの曲で、それをどう解釈し、どう踊るか——。同じグループに属する5人の戦いは、すでにこの時から始まっているとも言っていい。

 全7グループ。

 エントリーしたのは34人だから、カクベエのいる最終グループは4人だ。ナイアスは第4グループに割り振られている。


「おでこ。」

 その順番になった時、ナイアスがカクベエに向き合ってすがるような目を見せた。

 カクベエは笑って、その丸いおでこに軽く唇を当てる。

「行ってこい! ここにナイアスがいるって、見せてこいよ!」


 楽曲は「蒼穹」。シン・ギランの3番目のヒット曲だ。

 テンポの速い電子ビートに、バイオリンのうねるような調べが重なり、ギランのミラクルボイスが降ってくる。

 ナイアスのしなやかに動く両腕の先で、その指があたかも電子ビートの見えないドットが空間に存在しているみたいに、1つ1つ明確に弾いていく。

 この技術はカクベエが「ユウノシン」だった頃、ナイアスに教えたものだった。


 いいぞ。ナイアス。

 その調子だ——。



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