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マスク  作者: Aju
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1 13歳の朝

 いよいよ明日だ。準備はいいか。


 アバターも準備できているし、初期アイテムの設定も終わった。

 買い揃えた新しいコモン用スーツは、この地域の経度時間で明日のAM8:00を待っている。

 古いジュニア用スーツはリサイクルに出そう。記念に、とそのまま持っている人もいるようだが、その感覚はレンにはわからない。

 分解すれば全て使える資材ばかりなのだから、有効に使ってもらった方がいい。死蔵する意味がわからない。


 レンは明日で13歳になる。

 12歳までのジュニア・メタと違って、13歳から参加できるコモン・メタの世界はオトナの世界だ。ジュニア・メタとは比べ物にならない複雑で美しい世界が広がっているという。

 ジュニアの世界でも映像でだけは見たことがあるが、いよいよ本物のそこに参加できるのだ。

 もちろん16歳になるまでは一定のビジネス制限もかかるが、賢さと勘と知識さえあれば14歳や15歳でも多額のトークンを稼ぐこともできる世界だ。


 コモン・メタでは親に決められた「レン」という名前は使わない。皆、コモン用に自分で決めたアバターネームを使う。

 レンも明日から使うアバターネームを決めてある。「ユウノシン」という。

 ヘン?  そう? 江戸ネームっぽくって粋じゃない?


 明日のことを考えたら、今夜は眠れそうにないかもしれない。

 最初に何をしよう?

 まずは、コモン・メタ世界の風景を見て回ろう。

 もちろん、全部なんて回りきれるわけはないのだが、自宅ポイントとして設定した場所から200kmくらいの範囲と、そこにあるサブ・ワールドへの入り口くらいはチェックしておきたい。


 そんなことを考えていたら部屋のバーチャルアンドロイドが、夕食の準備ができたとママが呼んでいることを告げた。

 レンは急いでフェイスマスクを着ける。着ている服は、部屋着のままでいいだろう。家の中だし、家族だけなんだ。


 フェイスマスクの色は何がいいかな?

 今日はお祝いだから、きっとご馳走だ。ワクワクする気持ちを表現するためにも、明るい感じのオレンジ色がいいかな——。

 マスク内に映し出されるアイコンを視線カーソルを使ってクリック。透明だったフェイスカバーに淡いオレンジ色がついて、レンの肉顔にくがんの表情をぼんやりと隠す。

 内部からはその色は見えず室内の風景の色も相変わらずそのままで見えているが、カバーの左脇に表示されたウインドウに、自分の顔が外からどう見えているかが映し出されている。


 それから、フェイスカバーの表面に新しいアバター「ユウノシン」の顔を表示する。完全にフィックスにはせず、透明度を上げてレン自身の肉顔も重なって見える程度に調整した。

 アバターは笑顔になっている。レンの肉顔の表情に連動しているのだ。カーソルを使って別の表情にすることもできるが、今はそれはしない。

 放っておいても今夜のレンはニッコニコだろうし、そういう素直な気持ちの表情を、少なくとも今夜は小さい頃みたいに今日まで育ててくれたパパとママに見せたかった。


「今行くって伝えて。」

 フェイスマスクの表面に目一杯の笑顔を表示して、バーチャルアンドロイドに声をかける。

 部屋の扉の前に浮かんだアイコンを指でスライドさせると、静かに扉がスライドして開いた。


 キッチンダイニングに行くと、パパとママはもう料理を満載したテーブルに向かって椅子に座っていた。

 フェイスカバーは2人とも淡いマゼンタ色で、お祝いの気分を表現していた。表情は表示していない。マゼンタ色も薄くて、にこにこ笑った2人の肉顔がよく見えた。

 こんなふうにパパとママの肉顔を見るのは小さい時以来なので、レンは少し恥ずかしいような気持ちになった。

 表情表示を肉顔と連動させたままだったので、ウインドウ内のアバターの表情にも少し戸惑いの色が表れてしまった。


「今日くらいはいいだろう? 家族なんだし、今日で『子ども』も卒業なんだから。それは、新しいアバターかい?」

 パパとママは、子ども時代最後のレンに飾らない肉顔を見せておきたかったようだ。

「うん。『ユウノシン』っていうんだ。」

 レンもそう言ってから、アバターの表示を消した。フェイスカバーの色も、オレンジから少し黄色に近づける。

 感謝の気持ちを表すにはそっちの方がいいかな、と思っただけだ。



 翌朝、8:00になるとすぐ、レンはスーツを起動した。いよいよだ。

 認証コードを入れ、必要事項を記入してサインインする。

 しばらくニュートラルな空間に漂ったあと、あたりの景色がさあっと変わって、コモン内での『自宅』の風景に変わった。

 ガラスと白い壁でできた、小さいけどおしゃれな空間だ。デザイナーがいいんだろう。


 パパとママ、奮発してくれたんだな。


 手持ちのトークンは1000。ここからスタートしなくちゃいけないわけだから、しばらくは無料アイテムや無料コンテンツを集めるだけでやりくりしなきゃいけないな。

 ミドルクラスのスクールでの勉強もちゃんとして単位を取ること、を条件にパパとママが15歳まで毎月援助してくれるトークンで、当面はやりくりすることになる。


 なあに、すぐ稼げるビジネスを見つけてやるさぁ。

 13歳はニューGENPUKUなんだから。


 レンは「ユウノシン」として、新しい「自宅」の扉を開けた。

 大勢のアバターが空中を飛んでいる。

 木々の梢の先に、七色のクジラが悠々と泳いでゆく。

 そのすぐ脇には、何かの抽象的な立体絵画を描いてはすぐに消してしまっている人が浮いていた。

 道路の反対側の広場上では、地上3mくらいの高さに浮かんだ赤い顔のアバターが、白く細長い何かを無数に両手で操りながら踊っていた。周りに大勢の見物人がいる。

 傍らの「賽銭箱」に次々に投げ銭のトークンが吸い込まれていく。


 あんなふうに稼げるように、早くなりたい。

 ジュニア・メタと違って、コモン・メタはレンにとっては目眩めくるめくような世界に見えた。何もかもが輝いて見える!


 さあ、いくぞ! ユウノシン!!


 レンは「ユウノシン」として初めて大地を蹴り、大勢のアバターが行き交うメタの空へと浮かび上がって人々の群れに吸い込まれていった。





懲りもせず、着地点も見つからないまま、プロットもなく、設定とキャラクターだけで進んでおります。


13歳の少年が主人公なので「R 15」にはしていないんですけど、じゃあ「7歳の子が読んでも大丈夫?」って言われたら・・・う〜〜〜〜ん。。

露骨な性表現などは避けようと思いますが、何しろ「顔を見せるなんてとんでもなく恥ずかしい」という世界なので・・・

どうなりますやら・・・・(^_^;)

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