学校(七)
「牧田先生は、今日どうやったの?」
小嶋が少し真面目な声で聞いてきた。先輩先生として、後輩先生への気遣いだろうか。
「えーっと、配っている最中だったんですけど、何かプチッって引っ張る音がしたんですよね。あ、これやばい奴だって思って、研修通りタイムリバーサル逝っときました。そしたら、もう、ぐにゃーんで」
牧田は顔をくちゃくちゃにして表現する。横にいた中山も正面から見ていた小嶋も笑っていたが、小嶋には気になる点があった様で、質問してきた。
「今年の紐、何か軽い感じ? どう?」
「あー、そうですね。何かいつもより軽い感じしましたね。サンプルで逝った時は、パッツンし易い様な感ありましたね。紐も若干細くて長い?」
そう言いながら牧田は目の前にある『取り扱い注意』の箱から、ビニールに入っている卵型のスイッチを適当に一つに取り出した。
「へぇ、そうなんだ、ちょっと見せて」
小嶋が言うので、牧田はそれを小嶋の方に軽く放り投げた。小嶋はそれを受け取ると、ビニール袋に入ったまま、紐がなるべく真っすぐになる様に引っ張っていたが、どうしても真っすぐにはならなかった。どうやら本当に、紐が長いらしい。
「開けちゃってもいい?」
「いいっすよー」
小嶋は牧田の返事を聞いて、赤い字が書かれたビニール袋を、ポテトチップスの袋を開けるがごとく開いた。そして中の卵型スイッチを左手でつまんで取り出すと、右手に持っていたビニール袋を放り出し、手のひらを大きく伸ばして、紐の長さを測る。
「こんなに長くなくて、良いのにね」
「やっぱ去年のより、長いですよね?」
小嶋の意見に、牧田も同意する。
「あー、何か今年から、業者変わったみたいよ?」
隣で聞いていた中山が口を挟む。
「そーなんですね。知らなかったなぁ」
返事をした小嶋も、中山の方を向く。
「去年のとか、結構使い易くて良かったよねぇ」
「だよね。判るわ。あれでしょ、紐引く前に『キュン』て音がするヤツっすよね」
「そうそう、『キュン』ってなっちゃうやつ!」
中山は両肘を曲げて内側にかわいく曲げて見せた。それを見た牧田は怪訝な顔になる。
「いや、私は聞いたことないので、知りませんよ。だけど、なんでまた、業者、変わっちゃったんですか?」
牧田の質問に、今度は小嶋が答える。
「いやぁ、こんなの、誰も作りたくないじゃない。『うちの会社、地球破壊爆弾作ってまーす』なんてばれたらさぁ、社員の家族だって嬉しくないし、株価だって下がっちゃうじゃん」
牧田は頷いた。小嶋が説明を続ける。
「だから、政府が業者を秘密裏に指名して、作らせている訳よ。で、五年経ったらギブーできる。そしたらまた別の業者って訳」
「そうなんですね」
「そうなんですよ。世の中、都合の良いことだけじゃーないんですよぉ」
小嶋はそう言いながら、左手に持った卵型スイッチを見つめた。
そして右手の親指と中指で輪を作ると、少しだけ中指に力を籠め、ちょんちょんと紐を弾く。
地球は消滅した。