第五夜 基本のン イシュカン・コミニケーション
今回は、基本の三回目であります。
簡単に言うと、挨拶から始めるコミニケーションをしましょうということです。
単純すぎる?
いえいえ、案外、できない組織が多いものです。
ほんと、大人はめんどくさいです・・・。
11月も後半となり、旅行に出かけるには良い気候になった。
勤労感謝の祝日に合わせて、昼食をとりつつ親戚一同が集まることになり、出不精で引きこもりがちなオーガスも、数少ない出かける機会なので顔を出した。
一同が集まった場所は、瀬戸内海が一望できる公園で、簡単な総菜やおにぎりを持ち寄って、のんびりと過ごすにはふさわしい場所だった。
見晴らせる穏やかな海は、逆光を反射してまぶしく、きらきらと輝いていた。
社会人三年目となったオーガスの姪である紗彩も、おばさん連中に混じってお喋りに興じていた。
※敢えて方言を避けた言葉にしています。(笑)
「紗彩ちゃん、会社のほうはどうなの?御菓子の会社だったっけ?結構、社員が多いんでしょ?」
「ん~、人数が多いからなのかもしれないけど、人付き合いが難しいなあ・・・。」
と、さっきまでのお喋りタイムと変わって、紗彩は眉間にしわを作った。
「へえ~、お喋りしてる感じだと、人付き合いが難しいように見えないけどねぇ・・・。」
「わたし、会社だと、あんまり喋らないし、おじさん達とも、なんとなくギスギスしちゃって、暗いキャラなんです・・・。いや、男の人たちとも、あんまり喋らないかなぁ・・・。」
どうやら、紗彩の中では、男の人とは、20代のことを指しているようで、おじさんと男の人とは、違う分類になっているらしい。
確かに、若い男性と、おじさんでは男同士ならともかく、若い女性からすると、違う人類のように見えるのかもしれない。
「この間なんか、あんまり暗くて辛くなっちゃって、仕事の段取りもおかしくなるし、口をきいてくれない人もいるんですよ。私、泣きたくなっちゃいました。もう、どうしたらいいのか分からなくなって・・・。」
なんだか深刻な空気なってきた。紗彩もたいそう困っているようである。
「あら?会社勤めのおじさん代表の方がいらっしゃるから、聞いてみたら?」
と、おばさんの一人が切り出してきた。
(ぶほっ。)
聞こえていないふりをして、だし巻き卵をつついていたオーガスだったが、いきなり話を振られて卵がのどに詰まり、せき込んでしまった。
「う、ぐほっ、げほっ・・・。あ゛~、ん、ん・・・。それ、僕に振りますか?」
おばさん攻撃に、少したじろぐオーガス。
「だって、ほかのおじさん達は、農業か、自営業でしょ。大きな会社にいるっていったら、オーさんしかいないじゃないの。経験者に聞くのが一番だし、紗彩ちゃんを困らせている代表じゃないの。」
ずいぶんな言いぐさであるが、紗彩のことを思えばこそ、言っているので、まあ、ここは“良し”としましょう・・・。
「ん~、僕の経験で良ければ、少しお話しましょう・・・。」
と、オーガスは、隣のおにぎりに手をかけて、もう片方の手にお茶の入ったコップを持ちながら、話始めた・・・。
「紗彩ちゃんの会社では、会話が少ない?お互いに挨拶するような雰囲気はある?」
「ん~、挨拶する人もいるけど、しない人も多いです。よく挨拶してるのは、女の人と、社長くらいかなぁ・・・。」
「う~ん・・・、それは、なかなか辛いね。」
「挨拶するしないで、だいたいわかっちゃうんですか?」
「う~ん、まあ、だいたいの傾向だと、挨拶しない職場は、いつもギスギスしていて、言いたいことも言えず、ほぼ全員が辛い思いをしてるよね。」
「あぁ・・・、やっぱりそうなんですか・・・。」
「僕って転勤が多いし、だいたい一年くらいで、職場が変わっていくから、よく分かるよ。」
(それもあんまり良くないと思うけど・・・。)
「例えばだけど、用件を伝えるためにメールはするけど、まったく話さないとか・・・。」
「あ・・・、それ、私やってます。」
「若い世代なら、抵抗ないのかもしれないけど、それはおじさん達にとっては、とても礼を欠いた行動に映るよね。手が塞がってて、とても話がでる状況じゃないとか、遠方にいるとかなら分かるけど、同じ職場でそれはあり得ないよね。」
「でも、用件が伝われば、時間も節約できるし、効率的なんじゃないですか?」
「はは・・・、まあ、理屈の上では、そんな気がするのかもしれないけれど、相手は人間なんだ。仕事の上とは言え、親しく付き合いたいし、良い関係性を築きたいと思っている。なのに、メールだけしれっと送られたら、どんな気分がする?」
「わたしは気にしないんですが・・・。」
と、気まずそうに答える紗彩。
「うーん・・・、じゃあ、例えるとしよう。紗彩ちゃんに、お客さんから注文数を聞いてきてほしいとする。」
「はい。」
「紗彩ちゃんの上司が、通りすがりに、用件が書かれた紙を、紗彩ちゃんの机の上に置いて無言で立ち去られたら、どんな気がする?」
「いらっ、とします。」
「でしょ?何故かな?」
「なんていうか・・・、なんか無視されたような・・・。」
「そう、そういうことだよ。人間社会っていうのは、お互いに承認し合うことで成り立っている。今日の集まりだってそうでしょ。みんなお互いに認め合って関わりあっているから、関係を築けているし、楽しいし、大げさに言うとまだ生きていたいと思う。最近まで流行っていたけど、これを【承認欲求】て言うんだ。」
「あら、オーガスさん、小難しいこと言い始めましたねぇ・・・。わたしらにはさっばり分からないけど。あははは。」
と、おばさん達は、オーガスと紗彩の話についていけなくなったので、自分達で勝手にお喋りを始めてしまった。
おばさん井戸端会議を横目に、オーガスと紗彩の話は続いた。
「まあ、この【承認欲求】っていうのも曲者で、他人に対する欲求が強すぎると、人間関係が壊れたりするから、ほどほどにしておかないとね。『承認欲求なんか捨ててしまえ。』なんていう人もいるくらいだ。そんな過激な意見はともかく、やっぱりお互いの人間関係は大事なんだ。誰でも、お互いに、いい関係で仕事していたいでしょ。」
「うん・・・、でも・・・。」
「?」
「わたし、おじさん免疫がなくて・・・、ちょっと、なんて言うのか・・・、その、気持ち悪く思っちゃうんです・・・。」
「そ・・・、それは、また違う問題だねぇ・・・。」
オーガスは、自分が気持ち悪いおじさんの代表になってしまったことに、ボディブローを食らったようで、力なく、まただし巻き卵に手をかけた・・・。
今まで必死に生きてきた仕事人生を軽く否定されたようで、つれない気分になったのだった。
瀬戸内海の穏やかな空気だけが、オーガスの心をなだめていた・・・。
いかがだったでしょうか。
お互いにコミニケーションが取れないと、ストレスマッハで、精神的負担は相当なものです。
アルコール依存、衝動買い、暴飲暴食、DV、風俗通いなど、その反動たるや、みじめなものです。
仕事の重複、無理、無駄、遅延、事故、損失・・・あらゆる負担につながるので、お互いにコミニケーションを取って、円滑で無理無駄のない、ストレスフリーで楽しく明るい職場になるよう、自分から声掛けしましょう。
今、建設現場では、この『声掛け』が盛んに言われています。
「一言いっていたら、怪我しなくてすんだのに・・・。」
事故の現場では、よくあることです。
昔は、仕事はできないけれど、職場を歩き回って雑談することで、コミニケーションを円滑にしていたおじさんがいたそうです。
宴会や、社員旅行の段取りしたり、そういった無駄のようなことも大事だったのですが、バブルがはじけてからは解雇の対象となってしまい、自由さがなくなってしまいました。
私も現場監督している立場から、現場では、いろんな人に声を掛けたり、目を合わせるようにしています。
安心感から、事故を防いだり、効率が高まるものです。
皆さんも、試してみてはいかがでしょうか。