第一夜 会社でも、大事なことは学べます。
とうとう、おっさんと言われる年齢になってしまいました。
最近、他社の若い人達にアドバイスするようになったので、反芻する意味も含めて、連載してみることにしました。
まあ、他人のあらはよく見えるし、自分でも反省するようなこともあります。
ともかく、何かのお役に立てれば幸いです。
☆登場人物
・オーガスおじさん・・・社会人になって約三十年。やっと仕事が落ち着いてきて、周囲に目を配る事ができるようになった。最近は、折を見て若手社員にアドバイスをするようになった。のんびり屋さん。
・紗彩・・・社会人3年目。まだまだこれから。
・陸翔・・・高校三年生。卒業後は就職したいと思っている。オーガスの甥っ子。
第一夜
オーガスと陸翔の兄弟たちが、近所の公園に遊びに来ていた。
オーガスが木陰のベンチで、休んでいたところへ、陸翔が横に座って切り出した。
「オーガスおじさん、僕、来年就職しようと思うんだけど、いろんな会社がありすぎて、何を選んだらいいのか分からないよ。」
「そうだなぁ・・・、今は少子化で、どこも若手が不足していて、若い奴が欲しいんだよなぁ・・・。選り取り見取りだろ。」
100円均一で買った扇子をパタパタとあおいで答えるオーガス。
「ん~、そうなんだけど、多すぎて、どこを選んだらいいのか分からないんです。父は、なるだけ大きい会社がいいとか、公務員なら安定してるとか言うけど、ちっとも参考にならないんです。どうしたらいいのか分からなくて・・・。」
「そうだねぇ・・・、親であれば、今まで家族を養ってきた分だけ、どうしても金銭的に現実的な選択肢をとろうとするもんね・・・。まあ、お父さんの言うこともよく分かるよ。」
「言うのは簡単だけど、高卒じゃあ大企業の就職口もないし、あとは公務員かなぁ・・・。」
「公務員だったらいいの?」
「いいような気もするけど、なんかね・・・。」
「しっくりしないということか。」
「うん。そうなんです。もやもやしたまんまで・・・。」
「そうかぁ・・・、そりゃそうだよなぁ・・・。一度も働いたことないのに、選べって言うほうが、無茶振りなんだよ。」
「おじさんは、どうして今の会社を選んだんですか?」
「うーん、僕も結局よくわからなくてね。希望していた会社に蹴られちゃったんで、なんとなく担当教授の言う通りに会社を選んでしまったよ。まあ、ちょっと後悔してるよ。」
「へぇ・・・、それは何故ですか?」
「いまだに、就職した時のもやもやが残っててね。もっと好きなことすれば良かったなぁ・・・って後悔してるよ。その時は、好きな事やって生きてく自信がなかったんだろうね。」
「そっか~、それは難しいですね。」
「今からでも好きな事が出来ないかなあ・・・て、いつも考えてるよ。」
そこまで聞いて、陸翔は黙ってしまった。
「あぁ・・・ごめん、ごめん。就職の相談だったね。」
「あ、はい、すみません、つまらないことを聞いて・・・。」
「いやいや、答えなくて悪かったね。陸翔くんのせいじゃないよ。参考になるかどうかわからないけど、僕なりの答えを言っておくよ。」
「あ、はい。」
「陸翔くんは、小学生の頃とか、どんな子だった? 例えば、話好きとか、運動好きとか、工作が好きとか、いろいろあるじゃない。」
「サッカー教室に通ってて、毎日サッカーばっかりやってました。」
「へえ、それは凄いねぇ・・・、サッカーのどんなところが好きだった?」
「やっぱりチームメイトと連携してゴールが決まった瞬間ですね。みんなと盛り上がってとても楽しかったです。」
「へぇ、じゃあ、陸翔くんはフォワードだったんだ。」
「いえ、リベロっていう攻撃、防御、アシストまでなんだってこなす役割でした。」
「そりゃ、随分体力が必要だっただろう。でもそれが楽しかったんだ?」
「はい!それはもう!・・・って、就職となんか関係があるんですか?」
「これは僕の持論なんだけど、どんな仕事や職業に就くかって、考えてみたときに、適正かどうかは、その人の性分みたいなのが関係しているんだと思うんだよね。そして、その性分はきっと、小学生くらいで出来上がってしまって、一生変わらないんだよ。だったら、最初から持っているその性分をーと合致する職業を選んだらいいんじゃないかな。」
「でも、今更、プロのサッカー選手になれませんよ。」
「あー、そういうことじゃなくって、君はチームのメンバーとうまくやっていたんだろう?そうしないと試合に勝てないから。つまり、君の長所は、いろんな人と関わり合って、良い影響を与え続ける力があるってことなんだ。これは凄いことなんだよ。たいていの人は、引っ込み思案で、自分から声を掛けたりしないし、うまくコミニケーションを取れない人も多い。だからそういう観点で探してみたらどうかな?あ、どうしてもサッカーが好きだったら、スポーツ用品のメーカーとか、お店がいいかもね。好きなものに囲われて仕事できれば、いつも上機嫌でいられるよ。」
「そう言われても、やっぱりよく分かりません。」
「そうかぁ・・・、まあ、陸翔君の場合は、具体的な職業とかじゃなくて、役割だからなぁ・・・、会社の中で言うと、総務のような仕事に向いているんだろうな。」
「ソームって何ですか?」
「総務っていうのは、社内の人や予定を調整したり、段取りしたりの何でも屋なんだ。ある場面では、会社の顔であったりするから責任重大だね。陸翔くんがやっていたリベロみたいなもんだ。ほら、会社にはいろんな人がいるだろ。その人達を調整したりするから、どんな人達とも仲良くやっていかなくちゃならない。サッカーの試合のようにはいかないかもしけないけれど。」
「あ、そういうことなら出来そうな気がします。」
「お、僕のアドバイスも少しは役に立てたかな。あと、僕は建築現場の現場監督なんだけど、やっぱり同じように、いろんな職人さんと関わるから、そういった調整力が必要になるね。まあ、ほんっとにいろんな職人さんがいるし、職長さんとは緊張の毎日だよ。陸翔君のほうが、うまくできるかも・・・。」
「あ、それは、良く考えてみます。それから僕は文系なんですが、何かアドバイスがありますか?」
「ん~~、とりあえず、文系とか理系とか置いといて、〝なんだかおもしろそう。〟と思ったところを考えてみたほうが良いと思うよ。文系の人でも、コンピューターのプログラマーになって、随分稼いでいる人がいるみたいだし。興味があれば、入っていきやすいと思うよ。要は気持ちの問題かな。実際の仕事は、きっと単純だったりするから、文系とか理系とかは、とりあえず横へ置いておいたほうがいいと、僕は思います。」
「はい、ありがとうございました。参考になりそうです。うちに帰ってよく考え直してみます。」
「うん、頑張れよ。」
「はい!」
それから、オーガスと陸翔の幼い兄弟たちは、夕暮れの公園を後にして帰宅した。
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