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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どん底でもついてきて(百合。作家×お手伝いさん)

作者: 飛鳥井作太


「うわああああ、もおダメだあああああああ」

 作家・上原吾郎(筆名。本名は上原果子かこ。女性だ)は爆発した。

 〆切一週間前。まだ書けていない部分が三分の一ほど。

 それなのに、まったく文章が思い浮かばない。。

 気が狂いそうだった。

「まあまあ、そう言わんと」

 叫び声を聞きつけて、お手伝いの猫田 小槙こまきは、仕事部屋にさっと飛び込んだ。

「いや、もう駄目だ! もう書けない!」

 床にごろんと寝転がった吾郎の傍に、膝をつき彼女の顔をのぞき込む。

「小説書けない私なんてゴミくずと一緒だよ、きっとにゃんちゃんにも捨てられて、独り寂しく死んでいくんだぁぁあああ」

 うわああああんと滂沱の涙を流す三十代は、いっそ面白く、小槙は仕方なさそうに頬笑んだ。

 ちなみに、にゃんちゃんとは小槙のことだ。猫田からの発想らしい。

「いつも思うけど、すごく飛躍しますよねぇ」

 小槙は、吾郎の頭を優しく撫でながら宥めに入る

「そんなん、捨てるわけないっちゅーのに」

「本当に? ホントに捨てない?」

 吾郎が、縋る眼差しで小槙を見上げた。

「書けなくなった吾郎さんなんてゴミくず以下ですよなんて言って、ある日突然捨てたりしない?」

「いきなりゴミくずより下になってますやん。ええから、そんなんしませんから。安心して下さい」

 小槙は、吾郎の目を見て深くうなずく。

「うちは吾郎さんの作品が大好きですけど、吾郎さん自体も好き好き好きの、大好きなんですよ?」

「……ほんと?」

「ほんとです。ほんまのほんまです」

「ほんまのほんまのほんまのほんま?」

「ほんまのほんまのほんまのほんまです」

 小槙は、ひょくりとおどけた仕種で小首を傾げた。

「押しかけ女房みたいにしてここに来たうちが信用出来ません?」

「……ううん。押しかけ女房信じる」

「ほんなら良かったですわ。……さ、ちょっとお昼寝しましょ」

 小槙が、吾郎の腕を引っ張って立たせる。そのまま、ベッドの方へ。

「寝ても、大丈夫かなぁ」

「大丈夫です。というより、寝てへんから書けへんのとちゃいますか」

「……そうかも」

 布団もかぶせて、ぽん、ぽん、と柔らかなリズムで胸のあたりを叩く。

 吾郎は、自分の意識がふわりと覚束なくなるのを感じた。

 白く温かな雲に包まれるような、感覚。

「寝付くまで、そばにいときます」

「ありがと……」

 急速に眠りの底へ落ちていく。その落下に抗うように、

「ねえ、にゃんちゃん」

「何でしょう?」

「だいすき」

 吾郎は言った。

「ふふっ、うちもです」

 小槙の返答をしっかり受け取り、笑顔で、今度こそ眠りの底へと吾郎は沈んでいった。

 小槙は満足げに微笑んでから、しばらくのあいだ子守唄を口遊んでいた。


 END.


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