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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「アンタなんて大っ嫌いなんだからね!」と告白され、取り残された僕が、幼馴染の妹と付き合うようになるだけのお話

「アンタなんか大っ嫌いなんだからね!」


 とある休みの日のことだった。

 家で適当に過ごしていたら、唐突に幼馴染である須賀小春に近所の公園へと呼び出された僕は、到着早々いきなりそんなことを告げられたのだ。


「え、なにをいきなり…」


 狼狽える僕を尻目に、小春は矢継ぎ早にとんでもない罵声を次々に浴びせてきた。


「秀のことが嫌いだって言ってるの!昔からずっとずぅーっと大嫌いだったのよ!一緒にいても全然楽しくなんてなかったし、嬉しくもなかったんだから!だから、これからはもう話しかけてこないでよね!これから先も秀と一緒に過ごすなんて、絶対絶対嫌なんだから!」


 よほど鬱憤が溜まっていたのか、顔は真っ赤で語気もやたら荒かった。目も潤んでる。

 普段の小春なら恥ずかしがっているのかな?と軽く受け止めるともできただろうけど、彼女の突然の告白に僕の頭は真っ白になってしまい、そんなことを考える余裕なんてまるでなかった。


「い、言いたいことはそれだけだから!それじゃあ!」


「あっ…」


 言いたいことを言って満足したのか、小春はダッシュで駆け出し、あっという間に離れていく。

 待ち合わせ場所に来て顔を合わせてから5分も経ってないというのに、嵐のような怒涛の展開に、まるでついていけなかった。


 分かることといえば、僕は幼馴染に長年嫌われていて、さらに事実上の絶縁宣言を食らったということだけ。

 それに思い当たり、何とも言えない感情を抱えながら、ただ彼女の名前を呟いた。


「小春…」


 僕の言い分なんて、聞きたくないということだろうか。

 呆然としながら、ひとり残された僕はしばらくその場に立ち尽くすのだった。









「―――なるほど、話はわかりました。どうやら、秀くんにご迷惑をかけてしまったようですね」


 あれから一時間ほど経った後、僕はとある喫茶店へと来ていた。

 まだ昼前ということもあってか客も少なく、今はこうして店の奥のなるべく目立たない席に座ることができていたのは幸運だったが、ここにくる前に起きた出来事を思えば到底帳尻が合うものでもないだろう。

 喜ぶ気にはなれなかった。


「いや、迷惑をかけたっていうか…かけてしまっていたみたいっていうか…なんか僕、気付かないうちに小春に嫌われるようなことしてたみたいだから、悪いのはむしろ僕のほうなんだと思うし…」


「いえ、そんなことはありません。どんな事情があるにせよ、呼び出して一方的に嫌いだなんて言って帰るだなんて…行動に悪意しかありませんよ。本当に申し訳ありません」


 そう言って、目の前に座る女の子が僕に頭を下げてくる。

 ここまでの会話の流れでわかってもらえると思うけど、僕はこの喫茶店にひとりできたわけじゃない。

 小春のことで思い悩み、どうすればいいかわからずにいたら、たまたま公園に立ち寄ったらしい彼女に話しかけられ、流れでここにくることになったのだ。


「やめてよ。日和はなにも悪くないんだから…」


 そして事情を全て話してしまったわけだけど、正直居た堪らない気持ちでいっぱいだ。

 慌てて僕はなだめると、彼女はゆっくり顔を上げていく。


「いえ、謝るのは当然のことですよ」


 やがて見せたその顔は―――幼馴染である小春と、瓜二つのものだった。


「これは身内の不始末ですから…本当にもう、姉さんは…」


 須賀日和―小春の双子の妹である彼女は、大きくため息をつきながら、愚痴をこぼした。


「……やっぱり僕が悪かったのかな」


 それを見て、僕はついそんなことを言ってしまう。

 目の前にいる子が、小春でないことは頭の中ではわかってる。

 だけど、どうしても意識せざるを得ないのだ。

 小春と同じ顔、同じ声を彼女はしているのだから。


「僕が小春に、なにか悪いことしてしまっていたんだと思うんだ。そうじゃなきゃ、きっとあんなこと…」


 双子であるとはいえ、僕を嫌いといった彼女そのものである日和を前に、つい自虐的になってしまい、僕はテーブルへと目を落とした。


「……もう一度言いますよ。秀くんに悪い点はありません。悪いのは姉さんです。だからどうか、気に病まないでください」


 そんな僕へと差し伸べられたのは、日和の優しい言葉と、そして彼女の小さな手だった。

 テーブルの上で握られていた僕の拳に、日和の白い指先が優しく重なる。

 それを見て、思わず涙ぐんでしまったのは、やはり僕が弱い人間だからだろうか。


「……ありがとう。僕は…」


「秀くんが姉さんのことが好きだったことは知ってます。だけど、恐らく姉さんは…」


 そこから先は、言って欲しくなかった。

 わかってる。わかってることだ。

 だけど……認めるなら、誰かに言われるんじゃなく、僕自身で認めなくちゃいけないから。


「うん…わかってる。僕はきっと振られたんだなって」


 正しくは振られたんじゃなく、気持ちを伝える前に嫌われていたのだと発覚したわけだけど、似たようなものだろう。

 先に言われたってことは、小春は案外僕の気持ちに気付いていたのかもしれないなぁ。

 好きと言われる前に先手を打って嫌いということで、そもそも告白自体をさせてくれなかったけどさ。


「秀くん…」


「あはは…ちょっとキツイかも…ほんと、好きだったんだけどなぁ…」


 単純にして欲しくすらなかったということなら、それはどれだけ僕を嫌っていたのかということを如実に伝えてきているようで、どうしようもなく悲しくなってしまう。

 僕の一方的な恋心は、宙に浮かんで砕け散った。


「う、ううう…」


 泣きたくなんてなかったし、泣くつもりだってなかったのに、気付けば涙が浮かんでくる。

 女の子の、それも好きだった人の妹でもある幼馴染の前で泣いてしまうだなんて…どこまで僕は情けないんだろう。


「いいんですよ、泣いても…私がついていますから…」


 だっていうのに、日和は優しい言葉をかけてくれる。

 離れるわけでもなく、むしろ両手で僕の手を取り、ギュッと握り締めてくれた。

 温かい。手のひらから伝わる体温が、まるで日和の心に触れているようで、ますます涙が溢れてきてしまう。


「ひよ、り…」


「私はずっと秀くんから離れません。姉さんみたいに、嫌いだなんて絶対に言ったりもしません。私はずっと、貴方のそばにいますから…」


 日和も泣いていた。

 大きな瞳から、大粒の涙を流している。

 それはきっと、僕のための涙で…僕のために泣いてくれているのだと、わかってしまった。


「う、ううう…」


 そうしてしばらくの間、僕らは互いに泣きながら、それでも手だけは離さなかった。





 …………………


 …………


 ……





「これで本当に上手くいくのかなぁ…」


 その日の夜、私は部屋のベッドの上で枕を抱え、小さくうずくまっていた。

 大丈夫とは思っていても、不安の種はやっぱり尽きない。

 幼馴染の秀に、気持ちとは正反対の言葉をぶつけてしまったからだ。


「本当は大好きなのに…やっぱりあんなこと言うんじゃなかったかな…」


「絶対上手くいく」という言葉を信じてああしたけど、あの時の秀、びっくりしたような顔してたもん。


「『秀くんはツンデレが好きだから、ああすれば大丈夫ですよ』なんて、ほんとかな…」


 体をゴロリと横たえて、私はまた体を小さく丸めていく。

 確かに私は素直じゃない。面と向かって告白できる勇気だって持ってなかった。

 だから本音とは真逆の言葉を伝えてネタばらししてもらうっていう作戦は、すごい魅力的に思えたのだけど…実際やってみると、胸がすごく痛かった。

 正直後悔しているし、もっと勇気を出せば良かったと思ってる。


「ずっと好きでしたって、ちゃんと言おう」


 秀と付き合えるようになったとしても、その前にちゃんと告白をやり直そう。

 そうじゃないと、きっと一生後悔しちゃう。

 あんなこと言ってごめんなさいって謝って、リセットして。

 そして改めて付き合うんだ。それがきっと、正しいことだと思うから。


「それにしても遅いな…」


 あの子はまだ帰ってこない。

 ネタばらしをするにしても、時間がかかりすぎじゃないかな。

 それだけ怒ってるってことかも…不安に思って連絡を取ろうと、スマホに手を伸ばすのだけど、次の瞬間窓の向こうの部屋に明かりが灯った。


「あ、秀帰ってきたんだ…」


 それに気付いた私は咄嗟に頭を下げ、見つからないように向かいの部屋へと視線を送る。

 そこには幼馴染の秀の部屋がある。帰ってきたっていうことは、あの子の説明も終わったっていうことだよね。

 なら、連絡くれてもいいのに…内心なんとなく不満に思っていると、なんだか違和感があることに気付く。


「あれ…?秀、ひとりじゃないの…?」


 秀の部屋に見える人影が、ひとつじゃない。

 彼より頭半分低いくらいの、少し小柄な影が確かにあった。

 秀のお母さんかな?一瞬、そう思ったのだけど…


「え…?」


 次の瞬間私の目に飛び込んできたのは―――秀の部屋にいる私自身だった。


「ひよ、り…?」


 ううん、違う。私と同じ顔だけど、私じゃない。

 あれは妹の日和だ。そうだ、間違いない。

  頭で考えるより先に、身体がそう認めたのが動かぬ証拠だ。

  生まれた時からずっと一緒だった妹なんだもの。

 私がわからないはずがない。


 だけどどうして?ううん、一緒にいるのはわかるよ。

 だって、あの子が言ったんだもん。

 秀くんとの仲を取り持ってあげますって。


 なのに、なんで秀の部屋にいるの?

 まだ話すことがあるってこと?そんなはず―――


「え…!?」


 状況が理解できず、ただ混乱する私。

 だけど、次の瞬間目に飛び込んできたのは、これまでの驚きを全て吹き飛ばすほどの、圧倒的な衝撃だった。


「うそ…」


 秀とあの子が、抱き合っていたのだ。

 部屋の中心で、お互いのことを、何故か抱き締めあっていた。


「なん…」


 意味がわからない。

 なにしてんのよ。

 なんで、アンタが。

 秀と。

 そんな。


「…………」


 ますます理解できない事態に混乱する私。

 そんな私に、あの子がほんの一瞬視線を送ってきた――ような、気がした。


「っ……!」


 その目はひどく冷たくて。

 まるで姉の私を、嘲笑っているように思えた。


「日和…!」


 すぐにスマホを手に取り、あの子の番号をプッシュする。

 耳に当て、あの子の反応を待つものの、すぐに聴こえてくるは留守番電話を告げる声。


 スマホ、切ってるんだ。

 それはつまり、確信犯。

 あの子は、もしかしたら、最初から、私を――


「ああっ!」


 ほんの少しだけ目を離した瞬間、秀の部屋から電気が消える。

 それを見て、私は気が狂いそうになる。


「ふざ、け…!」


 ガンッと、窓にぶつかり私は秀の部屋を凝視した。

 それこそ目は血走って、他のことを考えることができないくらいに。

 だけど、なにも見えない。見ることができない。


「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなっ!!!」


 積み重なるのはただ怒り。

 私はただひたすら、呪詛の念を吐き出していく。


「返せ…返せ返せ返せ返せ返せ返せぇっ!」


 妹に、幼馴染を取られたという怒りが私の全身を支配する。


「ふざけるなっ!返せぇっ!」


 そこにもはや姉妹としての情はない。

 その日から、妹は私の敵になった。


 取り返す。絶対。


 嫌いと言ってしまった、この世で一番大好きな幼馴染を。


 必ず。

勘を取り戻すためのリハビリ作です

ブックマークや、↓から★★★★★の評価を入れてもらえるとやる気上がってとても嬉しかったりしまする(・ω・)ノ


長編連載もしてますのでそちらもよろしくお願いします

『連載版』ポンコツすぎる幼馴染からの告白を断ったら、紙袋被った神(自称)が部屋に現れて幼馴染と付き合うよう説教された件について

https://ncode.syosetu.com/n3053gy/

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