003
「あなたは死にました。」
「は?」
「前世での行いが良かったから、転生させてやることになりました。」
「転生?」
「そうじゃ。好きな時代、好きな世界、好きな力、なんでも好きなようにして転生させてやることが出来るぞ。何か希望はあるか?」
「そう言われてもなぁ。ぱっと思いつかないし。そうだ。それなら魔法のない世界がいいです。」
「ないほうがいいのか?」
「だって僕は魔力がないというだけで虐げられた人生を過ごして、あんな死に方をして人生を終えたんですよ。魔法のない世界で自分の体だけで生きたてみたいです。」
「それは構わないが、かなり生活が変わってしまうぞ。あぁ、そうだ。魔法の代わりに科学が進んだ世界もあるが、どうする?」
「科学?」
「ものすごく簡単に言うと、物理法則を極めて魔法の代わりを作り出すことだな。そこに魔力というものはない。魔法がなくても例えば、100人以上の人間を乗せた金属の塊が空を飛んでいるし、火薬というものを使って大爆発を起こしたりしている。お前がいた世界の賢者級の魔法使いが作り出す爆発よりもはるかにすごいぞ。」
「魔法なしでそんなことが?」
「出来ている」
「是非、その世界でお願いします」
「科学が発達した世界といっても、それこそ数多くあるからの。もう少しリクエストはないか?」
「じゃあ、なるべく犯罪が少なくて、平和な世界でお願いします。」
「科学の発達具合はどうする? お前がいた世界の魔法と同じくらいのことを科学で行っている世界とか、はるかに進んだことをやっている世界、まだまだ未熟な世界。」
「未熟な世界でお願いします。あまり発達しすぎているとノイローゼになりそうなので。」
「それもそうだな。精神的にストレスになってしまうかもしれないから、それくらいがちょうどいいな。では、転生させるぞ。達者でな。」
気がついたら生まれ変わっていた。というか、こちらの世界で言うところの中学生になったところで、ある日突然、前世を思いだした。思い出した上で改めて考えたが、生まれ変わった世界は平和だった。退屈しそうなくらい平和だったが、前世から比べたらその退屈だって得がたい経験だ。そう思っていた。思っていたが、平和すぎるというのも飽きるものらしい。前世では魔力がないというだけで虐げられて嫌な思いをしたが、あまり平和すぎるとそれはそれで刺激がなさすぎるように感じるようになった。もっとも、今となっては前世の世界に戻りたいとはちっとも思わないが。
刺激がなければ刺激を作るしかない。勉強が嫌いという同級生も多いが、俺にとってこの世界の勉強というのは刺激そのものだった。魔力がなくても魔法の代わりを作り出すことが出来るんだ!何でも出来る。何でもというと言い過ぎかもしれないが、神様の言ったとおり、飛行機は飛んでいるし、核ミサイルもある。今まさに人類を火星に送りだそうとしている。あぁ、まさに目の前には途方もない刺激があふれているじゃないか!
といっても、今の俺には魔法(科学)を作り出す知識はない。ないからこそ、勉強して身につけるしかない。
というわけで、ひたすら勉強した。しまくった。だってそこには俺が求めていた刺激が溢れていたから。寝る間を惜しんで勉強しても何も苦にはならなかった。
俺は天才というほどの頭脳をもっていないらしいから、努力でカバーするしかない。でも、努力は全然苦しくない。誰からも傷つけられないし、痛くもない。何も苦しいことなんてないだろう?好きなことをやっているだけだ。
努力の結果、この国の最難関大学へ入学することが出来た。死ぬほど努力してやっと入学できるなら、もっとランクを落とした大学へ行ったほうが良いんじゃない?入学してから授業についていくのがしんどくなるよ?とも言われた。それがなんだ。どうせ勉強するなら少しでもゴールは高くて遠いほうが良いじゃないか。だったらやっぱりこの学校だ。
そして俺は世界を変えた!
とは、ならなかった。なんとなく気がついていたが、やっぱり才能が無いと努力で埋めるのは難しいようだ。睡眠時間を削りに削って勉強したが、途中でついていけなくなって、結局は中退した。
その後は、まぁ、ありきたりな人生だった。
ほどほどの会社へ入社したり、転職したり、運良く結婚も出来たし、子供も出来た。楽しいこともあったし、苦労することもあったけど、苦労を苦労と感じなかったのは幸いだった。前世の苦労に比べたら、この世界の苦労なんて苦労のうちに入らない。
一方、この世界の人類は太陽系を飛び出したし、核ミサイルの完全無効化にも成功した。ワープの基礎理論はもうすぐ完成しそうだが、俺が生きている間に実物を目にするのはちょっと難しそうだ。といっても、魔法を超える科学を目の前にするのはとても楽しかった。この手で魔法を作り出すことは出来なかったが、充実した人生だったと思うよ。
「カスタマーサービス?」
「転生した人生は楽しかったかい?」
「あぁ、あのときの神様。転生神でしたっけ?」
「久しぶりじゃの。といっても、わしにとってはあっという間だったがな。」
「うーん、頭を良くしてもらうのを忘れましたね。もっと頭が良くて、自分で魔法を作り出せたらもっと楽しかったと思いますね。」
「魔法ではなくて科学じゃ。そこは迷ったところでな。頭を良くしてやっても良かったが、リクエストも受けてないしどうしようかと思って、結局そこそこの頭にしてやった。はっきり言って、お前はある意味すごかった。わしの想定では、高校生の時点であの大学に入れるような頭ではなかったはずだから、お前は努力で限界を超えたということになる。そこは自慢していいぞ。」
「死んでからそんなこと言われても微妙な気分ですね。」
「それもそうか。実は、もうちょっとランクを落とした大学へ行っていたら、中退することもなく、順調に勉強出来てもっと頭が良くなっていたと思うぞ。何事も身の丈に合わせるというのは結構大切なことじゃ。お前はちょっと飛ばしすぎたな。」
「そうだったんですか。そうとわかっていたら、といっても今更ですね。あのときは目の前の刺激に夢中になってしまいましたし。それに中退した後も、いろんなところでいろんな努力を積み重ねたことは楽しかったですよ。」
「そういってもらえるとこちらも助かる。では、輪廻転生に入るとするか。次の世界はどんなところは完全にランダムだが、努力することを楽しめるといいな。」
「そうですね。ありがとうございました。」
「あなたは死にました。」