002
「ワン!」
「今度の転生は犬か。久しぶりだの。」
転生はその世界を治める神々からの依頼であり、別に人間に限られているわけでもない。人間以外でも世界によっては獣人だったり、宇宙人だったり(その宇宙人からすれば地球人が宇宙人な訳だが)いろいろだ。
犬や猫にだって感情はあるわけで、別に言葉にならなくても言いたいことはわかるが、それだと流石に会話になるだけの知能が足りないことが多いので、そういう時は一時的に知能を上げてやる。
「同じご主人様に飼われたいです」
言葉だけだと危ない人に聞こえるが、人ではなく犬だから問題ない。ご主人様(飼い主)のことがよほど好きだったのだろう。
「同じ世界、もしくは似たような世界で生まれ変わる事は出来るが、ご主人様に飼われるところまでは保障できない。例えば、再び犬として生まれ変わったとして、ご主様とお主が出会うところまでは何とか出来るが、そこでご主人様がお主を選ぶかどうかはご主人様次第だ。生きてる人間のマインドコントロールも出来なくはないが、完全に越権行為になるから無理だ。それでも良いか?」
「ワン!」
(たぶん、あんまりわかってないだろうな…)
パラレルワールドを説明してもわからんだろうな。
「全く同じご主人様と、同じようなご主人様とどっちがいい?」
「全く同じご主人様!」
「生まれ変わるのは犬でいいのか? 人間にも出来るが、その場合さすがに犬の記憶が残っていると精心的にキツイだろうし、間違って道端でトイレされても困るから、犬に関する記憶は消して、ご主様が大好きという感情だけ残した上で、ご主様と出会うところまでは面倒を見てやろう。ただ、年の差が20才くらい出来てしまうから、番になれるかどうかはわからんぞ。」
「人間で! その方がご主様と長く一緒にすごせそうだから!」
「お主とご主人様が一緒にすごすことになるかはわからんぞ?」
「なる!」
この辺は犬らしいというか、難しいことを考えられないだけだろうな。
「じゃあ、人間にして生まれ変わってもらうから、あとは頑張ってくれ」
「はい!」
私はなぜか近所に住むお兄さんが小さい頃から気になってしょうがなかった。決して格好良い訳ではないし、成績も平凡みたいで男としての魅力はほとんど無いといっていいのに、何故か気になっている。
それがどういう気持ちかよくわからなかったけど、小学校高学年になる頃には「好き」なんだってわかるようになった。歳の差にして15歳。普通に考えたら犯罪とか言われそう(男の方が)だけど、私は気にしない、というか全く気にならない。それよりも、どうやって彼と結ばれようか、そればかりを考えている。
まず大切なことは、私と両思いになるまで彼女を作らせないことだ。別に作ってもいいし、結婚してもなんとしてでも私に振り向かせればいいだけなのだけれど、それだと略奪婚とか言われて社会的にあまり良く思われない。なので、なんとしても彼女を作らせてはいけない。とりあえず、私が大学生になれば多少歳の差があっても問題なくなる。
あと8年、頑張ろう。
私10歳 彼26歳
「おはようございます。」ぺこり。
「おはよー、いつも元気だね。」
「ありがとうございます。お仕事頑張ってください。彼女さんっているんですか?」
「ははは、残念ながらいないんだなぁ、これが。大きくなったら彼女になってくれるかな?」
!!!
「ハイ!絶対彼女になります!結婚して奥さんになります!」
「その時は頼むよ」
「私が大きくなるまで待っててくださいね!浮気しちゃダメですよ!」
(浮気って、付き合ってもいないのに。子供って可愛いなぁ)
「学校遅れるよ、じゃあね」
「また明日です!」
「ねぇねぇ、どうして近所のお兄さんが気になるの?言っちゃ悪いけどカッコよくないよ?」
「うーん、わかんないけど、何故か気になるの。他の人はダメでもあの人だけは許せるっていうか、むしろカッコよく見える?」
「前世でお世話になってたとか?」
正解。
「あはは、そうかもね」
「心配しなくてもあの人の事を好きになる人なんて滅多にいないよ。」
そうかもしれないけど、だからって安心は出来ない。なんとしても独身を貫いてもらって、その反動を全て私に向けさせるの!
私13歳 彼29歳
「今日から中学生か、早いなぁ。」
「私のこと彼女にしてくれます?」
「いやいや、可愛すぎて僕には勿体ないっていうのもあるけど、アラサーのおっさんが中学生を彼女にしたら社会的にやばいから。」
「むぅ、社会なんて気にしなくても私たちが良ければいいじゃないですか」
「いやいや、会社をくびになったら生活できなくなちゃうから。l
(それは良くない。贅沢したいわけじゃないけど、それなりの生活は欠かせない。)
む!彼が可愛い女性と一緒に歩いてる!断固阻止しなくては!
「こんにちはー あれれ、彼女さんですかあ?」
「こんにちは。違う違う。親戚だよ。ね?」
「はじめまして。あなたが例の彼にゾッコンの彼女さんね?こんなに可愛いのに、どうしてこんな冴えないオッさんがいいのかしら?あなただったらもっと素敵な彼が出来ると思うけど。」
「冴えてないことなんてありません。どうして誰もこの良さがわからないんでしょうか?」
(この子、本気で思ってるのかしら。贔屓なしに見てもかわいいのに、こんなオッさんのどこがいいのかしら?もっとも、この人もこのままじゃ結婚出来なさそうだから、この子が本気ならくっつけちゃおう!面白そうだし)
「ねぇねぇ、あなた本気でこのオッさんと結婚したいの?」
「もちのロンです!!!」
ちょっとセンスが微妙だけど、まぁいいか。
「じゃあじゃあ、あなたが大きくなるまでコイツに彼女が出来ないように手伝ってあげようか?」
「!!! いいんですか?是非、是非、それはもう是が非にでもお願いします!!!」
(えええぇ、自分で言っといてなんだけど何がこの子をそうさせるのかしら。ちょっと引くかも。)
(よし!これは強力な援軍が出来たわ!)
私16歳 彼32歳
(私もとうとう高校生。最近は胸も大きくなったし、とうとう夢に見た「あれ」ができる!)
「おはようございます!」
ムニュ
「あ、あぁ、おはよう。ちょっと(胸が)当たってるよ。」
「知ってます?こういうのを「当ててるのよ」っていうんですよ?」
「イヤイヤイヤ、嬉しいけどちょっとまずいよ、主に俺が社会的に。」
「じゃぁ、今日はここまでってことで!彼女は作ってないですよね?l
(この子って本気なの?)
「いってらっしゃい!」
「あ、あぁ、行ってくるよ」って夫婦か!
私19歳 彼35歳
私もとうとう大学生!ここまでくれば彼が多少歳をとってても歳の差カップルとして大丈夫なはず!
私25歳 彼41歳
結婚!!!
彼は会社の同僚たちから犯罪者呼ばわりされているけどどうしてだろう?私なんかをもらってくれたんだから、むしろ褒められてもいいはずなのに!そんなことはどうでもいい!大事なのは私と結婚してくれたことだ!!
「あなた、私と結婚してくれてありがとうね。」
私の人生は終わったけど、何も思い残すことはない。あぁ、私が先に死んでしまったあのが唯一の心残りか。彼を一人にしてしまったからね。まぁ、先に行って待つとしよう。
死んだらてっきり天国に行くものと思っていたけど、ここはどこ??
「カスタマーサービスのアンケート?」
思い出した!犬だった私を人間として生き返らせてくれた神様のところだ!
「まさか、本当に元飼い主と結婚するとは思わなかったのう。」
「がんばりました!」
「あぁ、頑張ってるところは見てたよ。危なっかしい時も結構あったけどな。」
「なんの話ですか?」
「あぁ、元飼い主のお主は知らない話だったのう。」
いつの間にか旦那様が隣に来ていた。私が先に死んだはずだけど、彼の私の後を追うようにすぐに死んでしまったの?と思ったら、あの世では生きている時間はあっという間らしい。正確には私が死んでからしばらく生きてから孫たちに看取られながら老衰で死んだとのこと。病気とかじゃなくて良かった。
「そんなことが。どうしてこんなに可愛い子が僕なんかにってずっと不思議でしたよ。」
「でも、いい人生じゃったろう?l
「「ハイ!」」
「ここから先は輪廻転生に入るから、次も人生でも一緒になるかはわからないが、まぁ、達者でな」
「次も絶対一緒になります!」
「あなたは死にました」