001
「あなたは死にました。」
真白?真黒?ともわからないとにかく何もない空間で、何とも分からない存在からそう告げられる。でも多分、神様みたいな存在なんだろうな。
「そのとおり。私は君達のいうところの神という存在だ。もう少し詳しく言うならば、転生神という。神様は無数に存在し、いろんな役割があるのだ。私は転生を担当している。世界によっては神に名前をつけているところもあるが、私に名前をつけた世界はないな。」
「はあ…」
「でだ。死んだ後に転生させるケースが実は結講あって、生前の行いによってリクエストを受け付けている」
「リクエスト?」
「そうだ。行いが良かったのに不運にも亡くなってしまった場合などは、生まれ変わりたい世界のリクエストを聞いている。」
「どういう世界があるのですか?」
「むぅ。自分で言っておきながら何だが、死んだ事には驚かないのか?」
「自分でもびっくりするくらい落ちついてますね。」
「まあ、そうだろうな。ここで騒がれても困るから、落ち着けるようにお前の言葉でいうところのマインドコントロールをかけてある。で、生まれ変わりたい世界はあるか?」
「マインドコントロールって聞くとちょっと不信度が上がってしまいますが。それはともかく、どういう世界があるのですか?」
「何でもありだ。」
「はあ?」
「これでも一応立場的には結構上の方の神でな。例えるなら一つの世界が一つの会社だとして、社長や役員が神様といったところで、私の場合は行ってみれば業界団体や経済団体の相談役といったところじゃな。その一環として転職エージントみたいなこともやっている。やむを得ず退職することになってしまった人を、希望に添った異なる会社へ転職を斡旋するといったところか。違うのは、希望に沿った会社(世界)がなかったら希望に添った会社(世界)を作ることが出来るということじゃ。」
「そんなに簡単に世界を作ったら管理が大変じゃないですか?」
「自分では管理しないからの。まぁ、基本的にはほったらかしじゃ。お主の住んでた世界でも神の奇跡なんてなかっただろう? 」
「たしかに」
「で、どんな世界に行きたい? 魔法のある世界でも良し、科学がずっと進んだ世界でも良し。冒険しても良いし、のんびり暮らしても良し。ハーレムもいけるぞ。」
「同じ世界は?」
「全く同じ世界はムリだ。時間を遡ることは出来なくはないが、いろいろと調整がやっかいでな。元の正解ではお主の遺体はすでに焼かれてしまっている。ただし、パラレルワールドという形で希望する時点の自分の中に戻る事は出来るぞ。」
「記憶はどうなるのですか?」
「お前の記憶で上書きされる。」
「パラレルワールドという事は、異なる経験を積んだ自分がいる世界もありですか?」
「なければ作るまで。お主の能力も調整できるぞ。」
「能力?」
「お主の世界は魔法はないから、魔法を使いたいというのは無理だが、ノーベル賞級の頭能にしたり、スポーツで世界記録を作れるような体にするとだな。あと、死ぬまで病気にならないとか。不死は無理だ。」
「うーん。そう言われてもすぐに思いつきません。」
「ここは時間という概念がないからゆっくり考えると良い。その間に私も他の転生候補者に説明しないといけないしの。」
「ではしばらく考えさせて下さい。」
「考えがまとまったら適当に呼ぶが良い。」
「ハイ。」
「神様〜」
「決まったか?亅
「ハイ。元の世界とおなじところにします。それと、死ぬまで病気にならない健康な体を、できれば、死ぬまで虫歯や認知症にならないようにもお願いします。』
「ん? そんなので良いのか? 剣と魔法のある世界で無双してハーレム作ってウハウハしなくていいのか?」
「どんな偏見ですか、まったく」
「まあ良い。ただひとつだけ注意する事がある。どんなに以たような世界でも全く同じではないという事だ。どこかで何かが変わると、その後の世界は全く違うものになってしまう。例えばお前を天才にして転生させたとして、そのせいで陽の目を見なくなる人や企業が出たり、どこかの会社が倒産する事もあるだろう。もしもそれが一国を代表する大企業だったら、それがきっかけで大不況が始まる可能性もあるし、世界大戦の引き金になるかもしれない、というのはわかるか?」
「ハイ」
「人間関係も同じようなものだし、人の性格も同じだ。何がきっかけで人間不信に陥るかわからんし、その逆もある。」
「たしかに、そうですね」
「それを踏まえた上でも元の世界と同じが良いのだな?」
「それでもです」
「では希望を言うが良い」
目が覚めたら、いつもの天井だった。小説なんかだと見たこともない天井なんだろうけど、生まれてからずっと見てきた天井だ。神様っぽい存在との会話も覚えてる。ということは、似たような世界でやり直し出来るということだ。よしっ!
ずっと好きだったあいつに告白するぞ!告白出来ずに死んでしまったけど、同窓会で俺のことが実はずっと好きだったと聞いてからの後悔はそれはもうすごかった。すごく美人になってて周りの評判もすこぶる良かった。成功するとわかってればいくらヘタレの俺でも告白できるってもんだ。
「付き合ってください」
「お断りします」
(えっ!なんで!)
「俺のこと好きなんじゃないの?」
(一回断られたくらいで諦めるようじゃ無理かな。っていうか、俺んこと好きなんでしょって、ちょっと引くかも。実は気になってたけど、ナルシストはちょっと無理かなぁ。)
「これからもお友達でいてくださいね。じゃ、さようなら」
告白が失敗に終わった俺は半ば放心状態で家に帰ってきた。
『あの神様嘘ついたのかよ。俺のこと好きなはずだろ!』
実は、同窓会で彼女が『気になっていた』ことを『好きだった』と大袈裟に言っただけだった。また、一度で諦めずに何度かアタックすれば結ばれた未来も見えていたが、ヘタレは一度の告白がダメだっただけで完全に諦めてしまった。しかも彼女は特に深い意味もなく『さようなら』と言っただけなのだが、ネガティヴモードに入ってしまったため、『もう会わない』って意味だよなと、より一層のネガティヴモードに入ってしまった。負のスパイラルである。
結局、ネガティヴモードのまま大学受験に失敗し、就職も前世よりも数段落ちるいわゆるブラック会社に就職してしまう。幸か不幸か、神様にお願いした『病気にならない健康な体』のお陰で徹夜残業なんのその。あまり良くない意味で『あいつは使える』という評判が立ってしまい、風邪をひくことすらなく激務をこなしたおかげで、ブラック企業とはいえそれなりに出世できたのは数少ない幸運だったといえるのかどうか。ただし、彼女を作ってデートする暇もなく独身貴族(貴族というほどの稼ぎはないが)まっしぐら。平均寿命を少し超えたあたりで老衰で亡くなった。
「なんであの時、俺に嘘をついたんですか?」
死んだ後は天国か地獄に行くと思っていたけど、なんでもカスタマーサービス向上のため、転生後の人生についてアンケートを取るとかで再び転生神と会っている。ふざけた理由だと思うけど、多分分かりやすく今風に言ったらそうなったんだろう。
「嘘はついておらん。一度の告白で諦めたお前が悪い。諦めずに何回か告白すれば上手くいった可能性が非常に高かったんだがな。あと、俺のこと好きなんだろう?みたいなことを言ってしまったことで引かれたようじゃ。」
「えぇ…」
(結局ヘタレだった自分が悪いのか)
「あ、でも病気にならないってわかってたから生命保険は入らずに済んだので、金銭的にはかなり助かりましたし、独り身だったけど認知症の心配がない点も助かりましたね。極端な話、万が一ホームレスになっても病気では死なないから大丈夫って思うと、精神的にかなり助けられました。虫歯にもならなかったし。そうやって考えてみると、まんざらではない人生だったのかなって、今なら思えます。彼女と上手くいってたらっとか、結婚して子供が出来たらとか思わなくもないですけど。なんで、あの時そこまで教えてくれなかったんですか?」
「神の奇跡はそこまでお人好しではないということじゃ。」
「そうですか。まぁ、、、、、ありがとうございました。」
「この後は普通の輪廻転生に入るから次の人生はどうなるかわからん。まぁ、達者でな。」
恨まれるかと思ったが、最終的には納得してくれたようだ。たまにダラダラと文句をたれる奴もいるからな。さ、次の転生に取り掛かるとするか。
「あなたは死にました」