橋の上で後輩と絵を描き始めた
僕と流杏は海のすぐ近くまで来た。
川が海へと流れ込むのを眺めることのできる、少し高いところをかかっている橋。
その上で、僕と流杏は立ち止まった。
「ここのあたり、いいな」
「はい」
なんでそう思ったのかはわからないけど、なんだかそう思えた。
流杏がすぐ隣にいるからか、流杏がいる側だけ、川の水が触れているようにくすぐったい。
橋には出っ張っている部分があり、そこでは座る場所もあった。
絵もここで描けそうだ。
僕と流杏は、道具を用意し、午前の日差しを浴びる川と海を、精一杯観察した。
そして、キャンバスに新しい川と海を創る。
でも僕は、やっぱりそれをやめた。若干納得いかない。
一方の流杏は真剣に、集中して描いていた。
流杏に話しかけたくなったけど、やめとこうかな。
うん。だから僕はとりあえず、流杏の顔を描いていた。
怒られるかな、勝手に描いたら。
でも、すごく描きたかった。
なんだか冷めてない。流杏は。
本当にアイデアの段階から悩み、それで結局、なんとなくたどり着いたこの場所で、納得のいく絵を完成させようとしている。
そう、なんだかそれはかっこいいし可愛いし、すごい後輩だと尊敬してしまう。
だから僕は……流杏とは違うんだよな、描けてない理由が。
僕が何を描こうとしたって、他の誰かが描いたらもっと上手く描けるだろうに、どうしてここで僕は絵を描くのだろう?
そう考えてしまい、気がついたら、冬の川の水のように、絵に対する気持ちが冷めてしまっている。
「先輩、そう言えば部長さんから聞きました」
「……」
「先輩、この文化祭終わったら、美術部やめちゃうんですね」
「まあ、うん」
「それはどうしてなんですか?」
僕は不思議そうに僕を見つめる流杏を目に焼きつけた。
中学の頃どころか、小学生……いや、さらに前の頃から一緒に絵を描いていた流杏は、きっと理由を知っている。
だって。
「……去年のコンクール……」
「そうじゃ……なくてさ、ほら僕成績も下がり気味だし、高三は勉強しよっかなって思ってさ」
「先輩、勉強するんですか? ほんとに」
「いや、きっとそうでもないな、うん」
でも、去年のコンクールが理由ってことにはしてほしくなかった。
去年のコンクールに、僕は、誰にも知られていないと思っていた、街をよく見渡せる崖の上からの絵を応募した。
しかし、全く同じ位置から見た景色を描いた別の絵が、賞をもらった。
まさか。
ほぼ半年費やして完成させた作品なので、かなりショックだった。
でも、そんなことで絵をやめるはずなどないと、自分で思っていた。
なのに、結局、やめたくなっていた。
驚くほど、根性のない人だった、僕は。
そして、あの賞をもらった崖からの絵を描いたのは、中三の時の流杏だ。
「先輩、そういえば、どうして私が、あの崖からの絵を描いたのか、知ってますか?」
「いや、わかんない」
「そうですか。あのですね、私があそこから絵を描いていたのは、先輩が連れて行ってくれたからですよ。昔」
「え?」
たしかに、そんなことがあったかもしれない。
昔。
ほんとにまだ小学校低学年くらいだった頃。
絵を描いているのを馬鹿にされたと泣いていた流杏を、連れて行ったことがあった気がする。
あの時は少しお兄ちゃんぶっていて。
だから僕は景色を見ながら言った。
「ほらここの風を浴びたら涙はかわくぞ」
流杏は街全体を見渡した。
きっとその時の景色は、すごく広く見えたのかもしれない。
多分、僕も、広く見えた。
「そういや、連れてってたな、あの場所」
「はい。先輩はどうしてあの場所を知っていたのですか?」
「あー、なんかな、僕の父親が母親に告白した場所らしくて」
「おー、そうなんですか?」
「だからかわかんないけど、よく連れて行ってもらっててさ」
僕はあらためて、橋の上からの景色を眺めた。
ここも中々綺麗だな。




